今回は、直木賞作家、葉室麟の「さわらびの譜」を読んだ感想です。


さわらびの譜


葉室麟は好きな歴史小説分野の作家ですし、周りの方の評判も良かったことから、数冊、読みましたが、その中では一番、印象深い作品でしたので、少し、紹介させていただきますね。

ある小藩(扇野藩)の重臣であり、元藩弓術師範(流派は日置流雪荷派)である有川将左衛門は二人の娘、長女・伊也(いや)と次女、初音を持つ。

現在の藩の弓術師範は20年前から大和流の磯貝八十郎が務めていることから、将左衛門は弓術の作法が乱れないように長女の伊也には、自らが習得した雪荷派弓術を仕込み、かなりの腕前に達していた。

ある正月の城下の八幡神社での弓術奉納試合で、伊也は大和流の樋口清四郎に一つの差で敗れたものの弓矢小町と評判されるようになった。しばらく後、将左衛門は姉妹に樋口清四郎と初音の縁談がまとまったことを伝えたが、そのころ、伊也は凛々しく武士としての覚悟が定まっている清四郎に心惹かれ始めていたのでした。

姉妹は、仲が良く、姉の想いを感じる妹は「姉上、よろしいのでしょうか?」と訊くが、「家同士で、また、父が決めたことは従うしかない」と答えています。本書では、この二人の心の葛藤・変転を上手に書きあげています。

一方、有川家には新納(にいろ)左近という武士が寄寓しているが、藩政治に絡んで、この人物が一つのキーとなってきます。

扇野藩では、京の三十三間堂での「通し矢」に挑ませるべく、八幡神社本殿脇に板塀をめぐらした堂形を作っており、千射祈願を試みる藩士が多くいたので、この年は事前に御前試合をして勝ち残った一人にその権利を与えることとしていた。

伊也は、清四郎や左近の口添えのおかげで父の将左衛門の反対を押し切り、御前試合に参加することとなり、試合の前に一度だけ清四郎に手ほどきを受けたのだが、ほんのわずかに体が触れ合ったことで伊也の胸はざわめき、体の芯がほてるのだった。(本の表紙の絵がその時の様子でしょう)

御前試合では、突然のつむじ風により清四郎が伊也に敗れ、伊也が千射祈願できることになったが、その後、二人がふしだらな関係だという噂が流れ、結果、二人が弓で立ち合うこととなってしまう。

このあたりから、藩政を思うままにしたい一派が、改革を志す将左衛門、左近たちを封じ込むための思惑に、姉妹たちが翻弄される展開となってきます。

伊也と清四郎は、弓での立ち合いの結果、清四郎は蟄居させられ、伊也は座敷牢に閉じ込められる。

その隙に左近を暗殺しようとするたくらみ、さらには伊也まで亡きものとしようとする動きがあり、、そして、最後に成り行きではあるが、千射祈願に挑戦することになる伊也。

これでもかこれでもかと苦難が続く中、耐え忍び、懸命に努力する姿勢、互いを思いやる心、それらが最後には感動を呼ぶストーリーです。

伊也の不器用なほどの自己犠牲、清廉さ、正直な一途さが返って、周りを苦しめる方向に進むことにはイライラはしますが・・・最終的には、さわやかな気分で読み終えることができます。

さて、最後に葉室麟の作品について、感想です。

今回の作品を読む前に、葉室麟の作品で義を貫いた立花宗茂の生涯を書いた「無双の花」と蒲生氏郷に嫁いだ織田信長の娘の生涯を書いた「冬姫」を読みましたが、この2作は史実をベースに書かれています。一方、本作品はあくまでもフィクションであります。


無双の花

冬姫



これらを読んだ結果、葉室麟は、武家の時代で評価された義の大切さ、純粋さ、一途さ、気高さを書かせると本当に素晴らしく、感動を呼びと感じました。そういう点では、ベースとして史実に従わざるを得ないテーマより、フィクションのほうが自由度のある分、彼の良さが引き立つように感じた次第です。



したがって、これからも葉室麟のフィクションの世界を覗いていきたいと思いますし、その読後感をアップしていきたいと考えますのでよろしくお願いします。