ある意味恐怖体験、でもほぼ愚痴 | 鹿吉の徒然なるままに by Shicayoshi Cake Lab.

鹿吉の徒然なるままに by Shicayoshi Cake Lab.

ひとつひとつを丁寧に、食べてくださる方を想って焼き上げる、を信念に掲げた焼き菓子屋の徒然なる日々を綴っております。

秋もはや ばらつく雨に 月の形(なり)

 

昨日から ちょつちょと秋も 時雨かな

 

松尾芭蕉の第一句と第二句、まさに時雨の天才芭蕉らしい、この句を書作品にしたら、どんな感じだろう、と切なく空を見上げる鹿吉です。

こんばんは!

 

この句は大阪は其柳亭にて芭蕉が51歳のときに詠んだものでございます。

この頃になると体調も悪く、夕方になると発熱、悪寒、頭痛に苦しむようになっていたそうです。実際、芭蕉はこの翌月には逝去しており、かなりギリギリで旅を続けていたのでしょう。

 

その史実を念頭に詠めば、美しい晩秋の景色も途端に寂寥感を覚える景色に早変わりいたします。

 

秋も深まり、時雨れる空にも、その空に浮かぶ痩せ細っていく月にも、さらに限界が近い己の身体にも幾ばくかの不安と寂しさを覚えるなぁ…という意味に私は捉えておりまして、季節はおそらく9月末から10月にかけての句でしょう。

 

11月末には似つかわしくないかもしれませんが、朝から降り続いている雨がいかにもこの句のようで、書くならどんな作品になるだろうか、と考えてしまいました。

 

さて本日は書道教室に関してちょっと考えちゃった話をひとつ。

 

もともとお習字は好きでした。

小学生の頃、倉庫のような工場のような場所の事務所に使っていたような、金属でできた階段を上ったところにある部屋でお習字を習っておりました。

自転車でそこまで通ってお稽古をしておりまして、他の塾やらなんやらは逃亡するのに、これだけは自分でちゃんと通っていたくらいですから、それだけお習字が好きだったのです。

 

なにが好きだったのか、自分でもわかりませんが、筆と墨を使って字を書くことそのものがとても楽しかった記憶がございます。

 

大人になって改めてお習字を習いたいと思うようになりました。

母からも私の性に合っているから是非習ってほしい、と言われておりましたので、少し自分の中で通うだけの余裕が出来たときに通える範囲のお教室を探し始めました。

ただ習えばいい、という感覚ではなく、どちらかというと自分の書きたい字を作品として書いている先生に師事したいと考えておりましたので、なかなか見つかりませんでした。

 

二ヶ月くらいネットやらも使って探しておりましたが、ある日とうとう「欲しい!」と思わず感じてしまった作品をホームページに載せているお教室の先生に出逢いました。

 

自転車で通える範囲にあり、ホームページ上に記載されているお月謝も無理のない範疇だったこともあり、私はさっそく電話をして申し込みました。

 

母から貰ったお道具や自分で集めていた筆などを持って、当日ドキドキしながら伺いました。

 

基本、書は墨と筆と紙があれば書けます。

お道具はとても大切で、その道具次第で作品もかなり変わってきます。

けれど最悪、墨と筆と紙があれば、書は書けるのです。

 

もちろん、硯も下敷きも必要ですし、水滴だってあればなおよしにございます。

 

お道具にも良し悪しは当然ございますが、所詮素人さんのお稽古に使用するものですから、まずは書ければいい、くらいのつもりでおりました。

 

小学生のときに習って以来、まったく触れてこなかったお習字でございます。

 

ほとんど初心者の域の私にそんな大層なものなど、必要ないと考えてもなにもおかしくはありません。ですから硯も墨も紙も筆も、小学生が使用してるものと大差ないものを持って行っておりました。

 

高鳴る胸を押さえながら、緊張に強張る私がお教室に入るなり、初老の先生がお月謝の説明を始めました。

 

月2回のお稽古でお月謝は8000円。

入会金に16000円。

 

そして個展を開くつもりがあるなら先生に10万円と、先生の所属している会に50万ほどの礼金が必要になる、との説明もございました。

 

それ以外にも各所に配る礼金が必要で、それに100万くらいは考えて欲しい、とも。

 

唖然としました。

初心者です。小学生ぶりに筆を持つ、どこをどう格好つけても素人の初心者に、礼金だけで160万は用意しろ、と初対面で言われたのでございます。

 

これはもう、出会い頭に車に轢かれたくらいの衝撃がございました。

 

言葉もなく、ただ衝撃にぽかんとしていた私を席に座らせると、先生はさらさらと行書で「冬光」と書いたお手本を示しました。

 

朗らかな笑顔を浮かべた先生が「まずは一度書いてみようか」と促してきたので、気を取り直して私は持ってきたお道具を机の上に並べました。

すると先生の眉がグッと中央に寄って、眉間に深い皺を作りました。

 

「こんな道具じゃあ、いけないよ」

 

そう一言、先生は墨汁と紙を持ってきました。

 

「筆は今度用意しておくけれど、墨と紙はこれを使いなさい」

 

墨汁はひとつ3000円、紙は一枚100円でした。

 

正直に書きます。

今では玄人はだしに片足くらいはなれているかな、くらいにはお道具にも書体にも、書そのものの知識に関してもある程度はあるかと自負しております。

当然プロには程遠いですし、そこまでの才能があるとも思っておりませんが、でもそれなりの知識は有難いことに得ております。

だからこそ断言できるのですが、あの墨汁と紙にそれだけの価値はなかったと思います。

 

一枚100円の紙も半紙一枚です。

 

全紙でも半切でもなく、半紙でございます。

未だかつてそんなに高い紙を買ったことがございません。

 

さらにさらさらと先生が書いたお手本「冬光」が1000円でした。

 

それはお月謝に含まれるのではないか、と今なら思うのですが、当時はもう、何が何だかまったくわからず、ただひたすら先生の言うままにお支払いしました。

 

お月謝と入会金、その他諸々合わせて30000円ほどお支払いした記憶がございます。

 

お財布に入っていたお金がすべて消え失せた恐怖に、次回はどうなるんだろう、と身を竦めました。けれど今回買わされたお道具は次回から使えるものですし、さらに新しいものを買え、とは言わないだろう、と考え直した私は隔週で行われる次回のお稽古に出向きました。

 

念のため、とお財布には5万ほど諭吉さんを忍ばせて行きました。

 

季節はちょうど今くらいの時期でございまして、2回目のときは年賀状がテーマでした。

「丁亥」と楷書で書かれたハガキがお手本として渡されました。

1000円でした。

 

そしてこのときは新しい筆やら紙やらを買わされて、結局最後に38000円を支払っておりました。お習字教室というのはこれほどまでにお金のかかるお稽古なのか、と消沈して帰宅いたしました。

 

その次のお稽古もビクビクとして行きました。

 

基本的には先生はお手本をくれるだけで、あまり指導らしいものはありませんでした。

ただお手本を真似て、それを見ていた先生が少し口を出す、くらいのお稽古でした。

他の生徒さんたちにも同じような指導方法でしたが、ある生徒さんはどうしても先生の作品が欲しかったらしく、このような作品を書いて欲しい、と頼んでおりました。

 

先生は片手で持てる程度の小作品を生徒さんに手渡しながら「じゃあ、65万円お願いします」と請求しておりまして、その会話を耳にした刹那、私の心が折れました。

 

結局、その日のお稽古の終わりに硯がどうだ、筆がどうだ、紙がどうだ、と言われ、64000円の支払いが発生しました。

 

完璧に、ぽきりと私のやる気も折れました。

 

続けられない、と思いました。

毎回、毎回、意味があるのかないのかもわからないものに何万ものお金をかけてまでやる趣味ではないと思ったのです。せっかく揃った道具は勿体ないけれど、独学でやってもいいから、ここに通うのはやめよう、と思いました。

 

この日を最後に私はこのお教室に行けなくなりました。

 

現在、そのときに購入したお道具は一切使用しておりません。

見たくもない、使いたくもない、というわけでありません。有用であれば、お道具に罪はございませんので使いたいと思うのですが、如何せん、良いものではないのです。

その後、自分に合ったものをお店の人と相談しながら購入したもののほうがいい作品が書けるのです。値段は1/10程度のものだったとしても。

 

今からすれば、あのときに購入した紙も墨も普通のものでございました。

特別に良いものではありませんでした。

 

完全に雰囲気にのまれたんだ、と思いますが、どうしてとりあえずは持ってきたもので書きます、と言えなかったのか、と今でも考えます。

 

原因は無知だったことです。

 

書のことを何も知らずに行ったからこそ、良し悪しもわからずに言いなりに買ってしまったのだと思います。けれど無知だからこそお稽古に通うのもまた真理でございますから、あながち無知が悪いとも思ってはいないのですけども……

 

たった数回のお稽古でしたが、あれほど気の重いお稽古もなかったな、と思い返す私は今日も元気に焼いております。

フランスはヴァローナ社のチョコレートをふんだんに使用したガトー・ショコラでございます!

ほとんど小麦粉を使用せずに焼き上げております。

しっとりとした生地がチョコレートの芳醇な香りと相まって至福の時間を演出してくれると思います。

是非一度、ご賞味くださいませ。

ご興味を持っていただけた方はどうぞこちらへポチっとな、宜しくお願いいたします~

ありがとうございます。

 

ちなみにその後、御恩のある方からいただいた竹筆をきっかけに、もう一度お習字教室を探すことになりました。

今度こそいい出逢いになりますように、と願って探した私が「一生、ついていきます!」と宣言したいくらいに素晴らしい先生と出逢うことができました。

 

知識も豊富、センスも素敵、書けない書体はなく、自由に作品を書かせてくれて、なによりぼったくらない!!!!!

 

もう完璧な先生です。

 

そんな先生に出逢えたことで私は書に対してのやる気を取り戻し、個展を2回も開くことができました。

 

感謝しております。

 

基本から学びたい、と言った私にまずはじめに楷書から教えてくださった先生は、私の書いた字をみて隷書から始めようと仰ってくださいました。隷書から始まり、行書へと行きながら草書に辿り着きました。

今は誤字ギリギリかな、と思うような明時代の草書に憧れを抱いておりますが、先生としてはかなを重点的に書いて欲しいようで、かな作品が多くなっております。

「漢字しか書けない!」が私の合言葉になっておりましたが、最近はようやっとかなも書けなくはないかな、程度には筆を扱うことができるようになってきました。

 

なかなか練習するときがなく、さぼってばかりでダメな生徒ですが、見捨てずにいてくれる先生に感謝しかありません!

できるだけ頑張りますので、今後ともご指導宜しくお願いいたしたいです!!!

 

本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました!

また明日もいらしてくださいませ~♪

お待ち申し上げております。