「高知大の研究で、痛みに悩むうつ病患者が多いと分かったため啓発した。しかし、体の痛みが国際的な診断基準になく、うつ病の主症状でないことは確かで、『うつの痛み』という言葉の変更を含め検討したい」
読売新聞http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140201-OYT1T00581.htm
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「うつの痛み」をキャッチフレーズに、製薬会社が昨年10月からテレビCMなどで続けるうつ病啓発キャンペーンに対し、医師や患者、家族から抗議の声があがっている。
CMは、体の痛みをうつ病の主症状のように伝えたが、国際的な診断基準に体の痛みはない。ナレーションが一部変更されたものの、「体の痛みで落ち込んだだけでうつ病にされる。薬を売るための過剰啓発だ」との厳しい批判は続いている。
キャンペーンは、糖尿病性神経障害の痛みと、うつ病の両方に処方できる抗うつ薬「サインバルタ」を販売する塩野義製薬と日本イーライリリーが共同で展開。頭痛や肩の痛みもうつ病の症状のひとつとして、うつ病の治療で体の痛みも治療ができると呼びかけている。
フジ虎ノ門健康増進センターの斉尾武郎センター長(精神科医)は「体の痛みを抱えるうつ病患者は多いが、うつ病が体の痛みを生むという科学的証拠はない。不適切だ」と指摘する。
抗議を受け、1月初め、「痛みといった体の症状も表れます」と断定していたCMのナレーションが、「表れることもあります」に変わった。塩野義製 薬広報部は「高知大の研究で、痛みに悩むうつ病患者が多いと分かったため啓発した。しかし、体の痛みが国際的な診断基準になく、うつ病の主症状でないこと は確かで、『うつの痛み』という言葉の変更を含め検討したい」と話している。
(2014年2月1日14時32分 読売新聞権威付けに利用
うつ病啓発キャンペーンに批判が相次いだ問題で、製薬会社2社が「うつの痛み」の根拠とした論文は、この2社が 広報用に行ったインターネット調査のデータを医師に提供したもので、論文をキャンペーンの権威づけに利用していたことが、読売新聞の取材で分かった。啓発 活動や論文の中立性に疑問が投げかけられている。
この論文は、高知大精神科の准教授ら3人が、米国精神病理学会の学術誌に投稿し、 2012年に掲載された。うつ病患者663人と医師456人を対象としたインターネット調査を分析したもので、「患者の68・6%が、体の痛みがうつ病の 回復を妨げると感じている」などとした。
塩野義製薬と日本イーライリリーは、この論文を根拠に昨秋からテレビCMなどを展開。国際的な診断基準では、うつ病の主症状ではない頭痛や肩の痛みを、主症状であるかのように訴え、受診を呼びかけた。
ところがこの調査は、両社が作ったPR組織「『うつの痛み』情報センター」が10年に日本で行ったものだった。准教授は監修を務めた。論文中には、塩野義製薬から編集協力を得たとあるが、両社の調査を利用したという記載はない。
フジ虎ノ門健康増進センターの斉尾武郎センター長(精神科医)は「調査を行った製薬会社が、第三者の学術論文の形にして、自らのキャンペーンの権威づけに利用する自作自演のような手法は大きな問題だ」と指摘する。
准教授は「独自調査は時間がかかるため、メーカーの調査を活用した。資金提供は受けていない。調査では私の質問も入れ、論文では独自解析を行っているので問題ない」とする。
塩野義製薬広報部は「(キャンペーンの手法は)通常行われている方法の範囲内と考えている。テレビCMは終了し再開予定はないが、ネットでは活動を継続する」としている。
(2014年2月19日 読売新聞)http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=93196