仏頂尊勝陀羅尼(ぶっちょうそんしょうだらに)は略して仏頂咒という。仏頂咒は、七世紀初めに仏陀波利の訳した、『仏頂尊勝陀羅尼経』(大正蔵経19巻350頁中下)と、八世紀に善無畏の訳した『尊勝仏頂瑜伽法儀軌』(同377頁中下)に出ている。
三十三天に天女と遊んでいた善住天子に、夜空中から声があり、汝は七日後に命つき、地獄畜生に堕ちるといわれた。善住天子は驚いて帝釈天に助命を乞う。帝釈天は自ら何も成し得ないので、祇園精舎にゆき、釈尊に救助をお願いする。
釈尊は仏頂より光を放ち、十方世界を照らし、仏頂尊勝陀羅尼を授けて、一切の罪業障を消除する功徳があると説法したもうた。
夜に閻魔王が仏前に拝し、この陀羅尼を拝するものを守護し、地獄に陥らしめないと誓願する。
【仏頂尊勝陀羅尼 和訳】
第一帰敬尊徳門
三世中最も殊勝なる世尊・仏陀世尊に礼したてまつる。
第二影表法身門
即ち、オーン。
第三浄除悪趣門
甚平等にして、地獄の底まで普照するを自性とする清浄尊よ。
第四善明潅頂門
われに潅頂したまえ。善逝の妙言説たる甘露潅頂の大真言句をもって、(涅槃に)導き到らしめたまえ。
第五神力加持門
無量寿尊よ。浄めたまえ。浄めたまえ。虚空遍浄尊よ。仏頂最勝遍浄尊よ。衆生(の昏睡)を警覚せしむる千光明尊よ。一切如来の仰ぎ見る尊よ。六波羅蜜の行を完成せし尊よ。一切如来の心真言の加持力によって加持される尊よ。広く衆生の成仏を計る尊よ。金剛身に集成されたる遍浄尊よ。一切の惑障・怖畏・悪趣を浄化する尊よ。
第六寿命増長門
転迷開悟せしめたまえ。慧命清浄尊よ。(一切如来の)本誓に加持されたる尊よ。宝珠中の宝珠尊よ。大宝珠尊よ。
第七定慧相応門
真如実際に遍浄なる尊よ。開敷せる仏智による清浄尊よ。(悪魔を)撃て。撃て。(怨敵を)摧(くじ)け。摧け。(われらを)憶持憶念したまえ。
第八金剛供養門
一切仏智に加持される清浄尊よ。金剛尊よ。金剛蔵尊よ。われらと一切衆生の身体を金剛身たらしめたまえ。身体極清浄尊よ。
第九普証清浄門
一切生趣を全く清浄ならしむる尊よ。わが身を極清浄ならしめたまえ。また一切如来はわれを激励したまえ。一切如来に激励護持されたる尊よ。成覚したまえ。成覚したまえ。みそなわしたまえ。みそなわしたまえ。成覚せしめたまえ。成覚せしめたまえ。成仏せしめたまえ。成仏せしめたまえ。普遍清浄尊よ。一切如来の心真言の加持力に加持せられ、広く衆生の成仏を計る尊よ。
第十成就涅槃門
成就あれ。
【註解】
脚註の門は第一帰敬尊徳門から第十成就涅槃門まであるが、これは弘法大師本の『仏頂尊勝陀羅尼』にある句義の解説である。
(以上の文章は真言陀羅尼 坂内龍雄著 平河出版社 P29~34より)
仏頂尊勝陀羅尼とは、五種(五仏頂)、もくしは八種(八仏頂)ある仏頂尊の中で最勝といわれている。仏陀・如来は常人にはない三十二の身体的特徴を持つと伝えられているが、そのうちの頭頂の盛り上った肉髻にっけい(頂上肉髻相)をとくに尊格化したのが仏頂尊である。
この仏頂尊勝、もくしは尊勝仏頂という尊格は、日本では曼荼羅以外に単独として彫刻や絵画に登場することはなかったが、チベットでは三面八臂の穏やかな長寿の女性尊として広く人々の信仰を集めた。密教では、この仏頂尊勝を本尊として、息災・増益等の祈願の修法を行うことを尊勝法という。
仏頂尊勝陀羅尼とは、仏頂尊勝尊に対する帰依と、それより放たれる光によってすべての障礙を調伏するという功徳を説いた陀羅尼であり、古くから人々に信仰されてきた。現在でも、朝夕の勤行。亡者の廻向(えこう)等に誦持されている。
(本文は種智院大学密教学会編 名著普及会 P513~514より)
*尊勝陀羅尼の2枚写真及び下記の文章は京都パワースポット・尊勝陀羅尼の碑 より*
尊勝陀羅尼の碑 (そんしょうだらにのひ)
病悩消滅・長寿安楽・厄難除去のパワースポット
尊勝陀羅尼とは、「仏頂尊勝陀羅尼」の略です。
釈迦如来の仏頂尊より出現した尊勝仏頂尊の陀羅尼呪で、病悩消滅・長寿安楽・厄難除去の功徳があるとされています。
尊勝陀羅尼の碑の下の亀に見えるのは、中国の想像上の動物である贔屓(ひいき)で、竜の子とされ、 重い物を背負うことを好み、甲羅に建つ石塔は永遠不滅と言われ、万病平癒のご利益があると信仰を集めています。
この周囲を回りながら、万病拭いの布で贔屓の頭や手足などを撫でて、自分の患部をさすると、 万病に効くということで信仰を集めています。
尊勝陀羅尼の碑はもともと北野天満宮の宗像社のそばに、嘉永6年(1853)、比叡山の僧・願海によって建てられたものです。
慶応4年(1868)、神仏分離令によって、東寺のこの場所に移されました。