土曜の朝
今日は土曜日。
とうちゃんとかあちゃんは、朝からどこかに出かけて行った。
いつも通り朝の散歩に僕を連れて行ってくれたのは良かったけど、そのあと僕一人を残し二人で出て行ってしまった。どうもモウーニングを食べに行ったようだ。
「久しぶりに○○のコーヒー、おいしかったな。」
「最近行ってなかったから、たまにはいいね。」
という会話が聞こえたから、きっとおいしい朝食を食べてきたのだろう。
しばらくすると、何やらまた出かけるようすだ。
また、放って行かれたら大変だ。
こんな時、つくづく喋れたらいいのにと思う。そしたら、
「僕もつれてって。」
と、かわいく愛嬌をふりまくのに・・・・。
しようがない。ご主人さまの周りを離れないようにしよう。連れていいてもらうためには、かあちゃんよりとうちゃんの方がいい。かあちゃんは僕のことを愛してはいるけど、つれないところがあるんだよな。とうちゃんはときどきに物を投げて怒ったり、「このくそ犬が…。」と暴言を吐いたりするけど、本心は僕のことが好きなんだよね。一緒にいろんなところに連れて行ってくれるのは、とうちゃんのほうだ。
やっぱり、今日もとうちゃんが、
「元気も行くか。」
と声をかけてくれた。僕は、すかさず
「ワンワン(行く行く)。」
答えた。
勝手なとうちゃん
僕のとうちゃんは、ちゃんとした会社があるのに家で仕事をするのが好きだ。家で仕事をするとちょっと疲れたらごろんと横になれるし、気分転換にギターを弾いたり、テレビを見たりできるからだろう。実際、よく観察をしていると時には仕事をしている時間より、気分転換の時間のほうが長かったりしている。僕が横になっている隣にわざわざやってきては、僕の安眠のじゃまをすることもよくある。ぼくとしては、一人で長時間お留守番をするよりはとうちゃんが家にいてくれることはうれしいのだけど、放っておいてほしいと思うことも・・・。何といっても一番困ることは、とうちゃんが仕事のお客さんと電話で話している時だ。ちょっとでも僕が吠えると、物を僕に投げて怒るんだ。僕としてはインターホンが鳴ると番犬の務めとして吠えるのが習性になっているのに、電話をしている時はそれをするとすごく叱られる。普段は吠えても何も言わないのに、電話をしている時だけはだめなんてそんな区別はあまり頭のよくない僕には無理。だから、とうちゃんが物を投げても僕はそれをひょいっとかわすんだ。身軽さが僕の武器だからね。そんな僕にとうちゃんは余計に腹が立つみたいだけどね。そして、かあちゃんが仕事から帰ってきたときに、僕のことを
「この馬鹿犬が、・・・。」
と報告する。でも、かあちゃんは何があっても僕の味方だから
「元気が吠えるのがいやだったら、会社で仕事をしたらいいじゃない。」
と、言い返してくれる。僕は、ひそかにほくそ笑んでいるんだ。
「ざま~~みろ。」
ぼくのいたずら
僕は、かあちゃんにに溺愛されているので、少々悪さをしてもゆるされることを知っている。まだ、小さいときには、かあちゃんを困らせることをたくさんしたものだ。炬燵の足をガリガリしただけでなく、スリッパを何足ももぼろぼろにした。ごみ箱からティッシュペーパーを取り出し、部屋に散らかしたり、座布団の角を噛みちぎり綿を出したり・・・・。こたつのコードを噛んで使い物にならなくしたときには、さすがにかあちゃんは僕を叱った。でも、僕にも言い分があるんだ。朝8時にはみんな仕事や学校に出て行き、僕一人が家に残されるさびしさは何とも言えないものだ。そこらじゅうにあるものを手当たりしだい噛んで、気を紛らす以外どうしようもなかったのだ。
ぼくも、大きくなっていくにつれて、さびしさにも慣れ、おまけにとうちゃんが家で仕事をする日も増えてきたので、物に当たらなくても済むようになっていた。とうちゃんが家で仕事をすると、仕事の合間によく僕と遊んでくれる。寝ていても起こして僕にちょっかいを出すのは閉口してしまうけどね。
ぼくのかあちゃん
ぼくは、自分で言うのもなんですが、かわいい顔をしています。
目はぱっちりとしていて、鼻筋が通って上品な顔をしています。それもそのはず、きちんとした血統書がついています。柴犬の中の柴犬というわけです。どうも僕の生まれは山形県のようです。どういうわけか岡山県にやってきて、今のご主人さまのとうちゃんに見初められて、この家にやってきたわけです。とうちゃんは、自分の息子が元気がなくどうも様子がおかしいと感じ、犬を飼うことを思いついたようです。息子のことを考えての行動だったのですが、僕の存在は、息子よりかあちゃんに影響を与えたようです。
かあちゃんは、さっそく名前は何にしよう、餌はどんなふうにあげればいいのか、散歩はどうしたらいいかなど考えて、本を何冊か買ってきました。「柴犬の気持ちがわかる本」なんてタイトルの本を熱心に読んでいるかあちゃんに向かって、とうちゃんは、
「子供の気持ちがわかる本を読んだほうがいいいいんじゃない?」
と、おもしろがって冷やかしていました。あれだけ犬を飼う事を反対したくせに、僕を一目見るなりがらっと態度を変えたかあちゃんにとうちゃんはちょっとあきれていたのです。
僕の名前もかあちゃんが「元気」とつけてくれました。家族みんなが元気になれるようにという思いが込められています。
かあちゃんの僕に対する溺愛ぶりは、7年間ずっと変わらずです。
はじめまして
僕の名前は、「元気」です。
2001年9月4日生まれの7歳。オス
人間でいうともう中高年のおじさんといったところです。
もうひげも白くなって、少々メタボ気味になった体に年を感じる今日この頃であります。
でも、かあちゃんは僕のことをいつまでたっても
「かわいい。かわいい。」
と言って、猫っ可愛がりをします。
実はこのかあちゃん、初め僕がこの家にやってくるのを反対したようなのです。これは、僕がこの家に来てしばらくたってわかったことなのですが、
どこの家にもあるように、かあちゃんは
「誰が犬の世話をするの。絶対反対だからね。」
と、家族に冷たく言い放ったとのこと。だいたい、とうちゃんが僕に一目ぼれをして後先考えず衝動買いをしたのがいけなかったのですが・・・。でも僕も一目でとうちゃんのことが気に入ったので、買ってくれたときにはすごくうれしかったんだけど。
父ちゃんの車に乗って初めてこの家にやってきたとき、僕はドキドキ緊張していたのだけど、かあちゃんは僕を見て
「うわ~~。かわいい。」
とにこにこして言いました。僕はその笑顔にほっと一安心しました。
そして、その日から僕のこの家での生活が始まったのです。そのころのほんとにかわいかった僕の写真がないの、最近の僕を見てその様子を想像してみてね。