底力 [復興への心の支え]
自分達の場所で底力を魅せることで、被災地に力を注ぎたい・・・
開幕で紆余曲折があったプロ野球ですが、結局、選手会の想い通りに、4月12日に延期され、セ・パ両リーグの同時開幕となりました。
3月11日に発生した東日本大震災の被災地である宮城県仙台市を本拠地とする、東北楽天ゴールデンイーグルス。
オープン戦や練習試合で日程の都合や交通手段が整わず、震災から1ヶ月を過ぎようとする4月7日に仙台入りしました。
開幕まで5日は、選手には大事な最終調整の時期であり、指揮官である星野仙一監督も悩んだ上での決断だったと言います。
兵庫県明石でオープン戦の最中に東日本大震災が発生しました。
選手達は、携帯電話を握りしめ、家族の安否を確かめたといいます。
家族や友人、知人が被災で苦しんでいる中、1ヶ月以上も帰ることができず横浜、名古屋、神戸、福岡、札幌、大阪を転々とし、各地で復興支援の募金活動を行いながら「すぐに仙台へ帰るべきじゃないのか?」と自問自答していた首脳陣や選手達。
「いつも東北のファンの声援で励ましてもらったり、助けてもらっているのに、本当に苦しんでいるときに何もできなかった。『何もできなくて、すみませんでした』と伝えたい」と選手会長の嶋基宏選手。
結局、東北新幹線が不通、仙台空港も機能停止状態であったことから、空路で伊丹から600kmを移動して、山形空港に入り、バスで50kmを移動しての帰省でした。
予定より遅れて、午後6時30分に、本拠地であるクリネックススタアジアム宮城に到着すると、星野監督は、まず選手達を家族が待つ自宅へ帰宅させたといいます。
そして、ご自身は、 田淵ヘッドコーチ、佐藤投手コーチを伴って、避難所の一つを訪れ、被災者約230人に熱いメッセージを伝えました。
「何と言っていいか、言葉が見つからないです。」
声が震え、言葉に詰まりながら陳謝の言葉・・・
「遅くなってすみません。1日も早く、みなさんのところへ手助けに行きたい気持ちでいっぱいだった。」
第一声は、陳謝の言葉だった。
「若い人たち。今のときを我慢しましょう。耐えましょう。耐えれば、必ず強い人間になれる。」
「夏が過ぎ、秋になって、必ずやみなさんに喜んでもらえる報告がしたい。最後に子どもたち、負けるなよ。」
「しっかりがんばろう。」
そして、一人、一人と握手を交わしました。
翌日の8日には、選手と首脳陣が、4グループに分かれて県内5市町村の避難所を訪問し、被災された方々を励ましました。
選手達は、「がんばろう東北」と書かれたパネルをプレゼントし、キャッチボールをしたり、プラスチック製バットとゴムボールを使って野球をしたりと、野球を通して子供達を元気付けた。
「これまでは自分のため、家族のために戦ってきた。今年は何よりも被災者のために全力で戦いたい。」と被災地に向けての想いを山崎武司選手が語った。
「変わってしまった…。」
震災2日前に義母を仙台空港へ送迎していた岩村明憲選手は、その変わり果てた姿を見て、1日も早い完全復旧を願った。
そんな地元の想いとチームの想いを背負って、自身の30歳の誕生日でもある12日の開幕戦に先発したのは、7度目の開幕投手を務めるエースの岩隈久志投手でした。
昨年の日本シリーズ覇者である千葉ロッテ マリーンズとの対戦。
低めに球を集めて、9回1死から3ラン ホームランを浴びてしまい完投こそならなかったが、108球、7安打4失点の粘りの投球を魅せます。
打線も岩隈投手の力投に応えます。
同点で迎えた7回、嶋選手が捉えた初球は、様々な人達の想いを乗せてレフトスタンドに飛び込みました。
「何とか笑顔にしたいという思いで打ちました。」
実は、4回に失策して先制を許していた嶋選手であっただけに、正に名誉挽回の一発でした。
今月2日の慈善試合で嶋選手が選手会長としてスピーチした「見せましょう底力を!」を有言実行したともいえるでしょう。
開幕戦を勝利した楽天は、その後も勝利を重ね、4月16日の試合を終えて、4勝1敗でパリーグ首位に立っています。
まだまだ、始まったばかりではありますが、是非とも、復興に向けての被災地の心の支えとなる「底力」を魅せ続けていただきたいと思います。
禍福 [災い転じて福となる]
東日本大震災から、1ヶ月が経とうとしています。
親しい方が亡くなられたり、行方の判らない方々・・・
避難所生活の続く方々・・・
先の見えない原発事故・・・
悲惨な災いの傷跡が癒えることは、いまだありません。
「塞翁が馬」(さいおう-が-うま)という言葉をご存知でしょうか。
「良いこと・悪いことは、どちらに転ぶかわからない。予測できないものである。」といった意味合いの言葉です。
ある塞(とりで)のほとりに、老人(翁)とその息子が暮らしていました。
ある日、彼ら親子の馬が突然逃げ出してしまうのです。
村の人々は馬を失った親子を気の毒がりました。
しかし、当の老人は「不幸かどうかは、果たして分からんよ。」
と意にも介しません。
間も無く、逃げ出した馬は立派な馬を連れて戻って来ました。
不幸が転じて幸運となったために人々は親子の幸福を感心しました。
それでも、老人は意に介しません。
間も無く、息子がこの馬から落ち、足が不自由となってしまいました。
村の人々は同情しましたが、それでも老人は意に介しません。
その後、戦争が始まって村の若者は皆、兵に徴収されました。
息子は足が不自由だったことで兵役を免れます。
結局、徴収された村の若者のほとんどが戦死してしまったことから、
兵役を免れて村に残った息子は、命拾いをしたことになります。
こうして、老人と息子は共に生き長らえ暮らしました。
故事 「淮南子(えなんじ)」人間訓から生まれた言葉です。
世の中には、避けられない災いがあります。
また、悔んだり、何かを怨んだところで、どうにもならない災いもあります。
それをいつまでも、引きずっていても、活路を見出すことはできません。
「禍福(かふく)は糾(あざな)える縄の如し」と言う言葉もあります。
人の幸福や不幸などは、縒(よ)って作った縄の目の様に交互に訪れるものであって、一方だけが続くことはないがと言う意味です。
勿論、割り切れない思いがあるのも尤もですが、どこかで断ち切らないと前に進めません。
また、「災い転じて福となる」にもいえますが、待っていれば必ず「福」が訪れるものではないということも自覚しなければなりません。
大切なのは、現状の「災い」を受け入れて、如何にして「福」に転じさせるような意識を持って行動できるかであると考えます。
合わせて、「福」だからと油断していると、いつ「災い」が訪れるかわかりません。
「災い」の痛みを忘れる必要はないと思います。
しかし、その痛みを糧として、その痛みを踏み越えなければなりません。
しかし、一人で踏み越えるのではなく、国民が共に手を携えて踏み越えて行かねばならないのだと想います。
錯誤 [利己的なこだわり]
3月11日に発生した東日本大震災。
地震、津波、原発の三重苦は、国内最大規模の災害となってしまいました。
その実態は、デレビ報道程度で感じられるものではなく、おそらく、生の現場を見ずして、その悲惨さを理解できる人などいないものと思われます。
震災から1週間も経たない16日。
プロ野球の読売ジャイアンツ球団会長である渡辺恒雄氏が、公の場で、プロ野球を予定通り3月25日に開幕させると関係者に厳命しました。
その理由を以下の様に力説させておられました。
「明るい活力を持って、国民の大衆に見せることができるのはプロ野球選手。」
「開幕を延期しろとか、プロ野球をしばらくやめろとか俗説がありましたが、大戦争のあと、3ヶ月で選手から試合をやりたいと声があり、プロ野球を始めました。」
「フェアプレー、緊張した試合をすれば見ている人は元気が出て、エネルギーが出て生産力が上がる。」
東北地区は当然ながら関東一円、新潟、長野、静岡に至るまで、今回の地震の余震と思われる地震が続いております。
また、東京電力の福島第一原子力発電所などの発電施設トラブルにより、関東圏の電力不足が発生し、計画停電や節電の動きが高まっています。
大規模なスポーツ大会においては、多くの人が集まることを想定しての安全面とそれに伴う電力や様々な物資の消費あるいは浪費に繋がる可能性もあって延期や中止される傾向にあります。
当然、プロ野球のナイターともなれば、相当量の電力を消費するのは、子供にも理解できるはずです。
私は戦後の復興期を知りません。
よって、渡辺氏の言葉を否定できる訳ではありません。
しかし、戦後の日本と現在の日本は違うのではないかと思います。
確かにプロ野球は素晴らしいスポーツだと思います。
そのプレーを見て勇気づけられる人々も少なくないと思います。
しかし、現在は、プロ野球だけが、国民に対して復興の活力を見せられる特別な存在ではありません。
事実、多くのプロ野球選手達が、野球のプレーではなく、街頭募金などで精一杯の活力を与えてくれています。
今、何故にプロ野球のプレーのみで活気を与えることに執着するのか疑問でなりません。
プレーでの活気は、もう一歩、復興を歩んでからでも遅くないと思います。
結局、プロ野球のパリーグは、選手会の延期要望を受け入れて開幕を4月12日に延期しました。
対して、読売ジャイアンツが属するセリーグは、強行に25日開催を決定します。
ところが、その後に政府指導を受け、「重く受け止めている。こだわれない状況。」との言葉を残して29日開幕に延期するのです。
重く受け止めているにも関わらず、何とも中途半端な僅か4日の延期に止まります。
国民や選手の声に耳を傾けぬまま、何にこだわっているのか理解ができません。
そして、24日の臨時理事会。
遂にパリーグと同じ4月12日開催を決定するに至るのです。
本当にお粗末で、人として、情けない二転三転です。
被災地では、未だに大勢の行方不明者がいます。
精神的な苦痛の中、電気、水道、燃料などの供給が成されないまま、飢えや寒さに絶えて頑張っている方々がいます。
対して、自発的に被災地に配慮しようと節電や義援金や支援物資を集めようとする国民がいます。
反面、自分達の生活を守ろうとガソリンや食料品を買い貯めようとする国民がいます。
そして、その様な状況下でも平気で利己的な時代錯誤のこだわりを主張する人もいます。