第四章 橋
幸一は静かに言った。
「佐伯さん。あなたが失ったものは大きい。でも、あなたが今ここでさらに失おうとしているものがあります」
「何だ」
「あなた自身です」
沈黙。
「あなたの怒りは正当な部分がある。未払い賃金は犯罪です。生命保険金を無心するのも違法性がある。取引先との癒着も、捜査対象になります」
「……本当か」
「あなたが人質を解放し、包丁を置けば、私はあなたの証言を記録し、捜査につなげます。あなたの声は、ここで終わらせません」
数十秒の静寂。
やがて、金属が床に落ちる音が響いた。
「……分かった」
人質は解放された。
佐伯は両手を上げ、涙を流しながら確保された。