プレーバック劇団芝居屋第40回公演「立飲み横丁物語」NO15 | 序破急

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劇団芝居屋を主宰しています。50年以上携わって来た芝居のあれやこれや、また雑感などを書き散らしたいと思っています。

第十場 同日・公園

凛子達が心配する健三は仁と共に夜中の公演にいました。

三澤の追い詰められた状況を聞いた健三は、その共同出資金を工面するために嘗て先輩として瀬村組で一緒だった総一を頼ったのである。

 

仁 「すいません、こんな所までご足労願って」

健三 「突然押し掛けたこっちが悪いんだ。気にしないでくれ」

仁 「何しろ社長の深夜のランニングは毎日の日課なものですから、恐縮です」

健三 「毎日走ってるんだ」

仁 「社長三年前にコロナに罹りまして・・」

健三 「えっ、兄貴がコロナに?」

仁 「ええ。生死の境を彷徨ったらしいんですが、運よく退院できましたね、それ以来の習慣です」

 

健三 「・・・しかしあんたが磐田金融の人だったなんてね。横丁の連中は知ってるのかい」

仁 「いえ」

健三 「そうだろうな。知ってたら姐さんがいる横丁には入れやしねえもんな」

仁 「そうでしょうね」

仁 「アッ、来た。ここでお待ちください」

 

健三 「叔父貴、ご無沙汰しております」

総一 「これはこれは・・・堅気の方がヤクザの金貸しに何の用かな」

 

健三 「叔父貴のところに顔を出しちゃいけねえ俺ですが・・」

総一 「そうだろう。こっちは縁を切られた側だ、切った側が来るてのは変な話だ」

健三 「それを重々知った上で叔父貴にお願いがあって来ました」

総一 「ホウ、お願いね。言ってみろ」

 

健三 「実はこのコロナ禍で瀬村組はにっちもさっちも行かなくなりまして・・・」

総一 「おっと、余計な前置きはいらねえんだ。金貸しの所に来たのは金が借りてえからだろう」

健三 「・・・ハイ、その通りです」

総一 「それは組としての事か」

健三 「俺が出張った限りは瀬村組の借金のお願いです」

総一 「お嬢さんはこの事を知ってるのか」

健三 「いえ」

総一 「オメエの一存か」

健三 「ハイ」

 

総一 「幾らだ」

健三 「三百万」

総一 「はあ?三百万だ」

総一 「三百万ぽっちのはした金で、ヤクザとはつるまねえ筈の瀬村の掟を破るのか」

 

健三 「これは瀬村を立て直す為に必要な金なんです。どうか俺に男を立てさせて下さい。お願いします」 

総一 「お前の男がどうなろうが俺の知ったこっちゃねえが、瀬村組の為じゃ仕方ねえや、貸してやろう」

 

総一 「但し、期限には元金利息ひっくるめて返して貰うぞ。返せるのか」

健三 「何としても」

総一 「返せなかったらどうする」

健三 「・・・その時は、俺をいかようにもして下さい」

総一 「おめえを何とかしたって、金が戻ってくるわけじゃねえ。それよりこうしようじゃねえか。担保を出せ」

健三 「担保?」

総一 「そうだ、金借りるんだったら返せない時の為の担保が必要だろうが」

健三 「そんなものはありませんよ」

総一 「立派なものがあるじゃねえか」

健三 「なんですか。それは」

総一 「瀬村組の看板だよ

健三 「瀬村組の看板?」

総一 「そうだ。瀬村組の金看板だ」

健三 「それは・・・」

 

総一 「できねえのか。それじゃこの話はなしだ」

健三 「・・・わかりました。瀬村組の看板担保にします。金を貸してください」

 

総一 「よし、わかった。金は貸してやろう。そのかわり念書を書け」

健三 「念書を」

総一 「後で四の五の言われても困るからな」

健三 「・・・わかりました。後でお届けします」

総一 「明日までに持って来い。金は念書と引き換えだ」

健三 「分かりました」

総一 「いいか、この事はお嬢さんに知られちゃならねえぞ」

 

双方の事情を理解している仁にとってこの光景は見るに堪えないものでした。

 

さてこの続きは第十一場にて。

撮影 鈴木淳