プレーバック劇団芝居屋第40回公演「立飲み横丁物語」NO11 | 序破急

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劇団芝居屋を主宰しています。50年以上携わって来た芝居のあれやこれや、また雑感などを書き散らしたいと思っています。

第六場  六月十四日後午後・瀬村組村山健三宅・居間

六月の例祭が終わって十日後、凛子達に健三から急な招集がありました。

何事かと訝っている二人の前に少し慌てた様子の健三が現れます。

 

 

大輔 「親分、今日は何の招集ですか」

健三 「ああ。昨日、市の保健所からこの前の海道神社のコロナ患者発生報告ってのがあってな、今んとこ祭りの所為でコロナ患者が増加したっていう兆候もないんで、後の祭りや縁日に影響はないじゃないかって話だ」

大輔 「じゃ、出来るってことですかい」

健三 「今んとこは、だぜ」

凛子 「ああ、良かった」

健三 「それでな今日招集をかけたのは他でもねえんだが、三澤さんと会う約束があったからなんだ」

大輔 「ああ、三澤さんと」

この前の立飲み横丁での再会時に、例祭の後感染状況が好転していたら仕事の話を聞くという約束になったそうで、その話の立ち合いとして二人を呼んだのだ。

緊張した面持ちの三澤と中村景子が金吾の案内で現れます。

 

健三 「ところで三澤さん、今日いらしたご用向きはなんでしょうか」

純一 「率直に申しますと瀬村さんのお力を借りに来ました」

健三 「どういうことですか」

純一 「私がこの時期こちらに来ましたのは、本年に入ってからのコロナ抑止に対する国の戦略の変化を見越し、次の行動に出る為の下準備の為だったんです。でも、感染状況とそれに対する国の対策の優柔不断さみると内心は戦々恐々としたものでした。でも昨今の急激な国の方針転換とこちらでの例祭の保健所の経過報告のお話をお聞きして、私も勝負を賭けようと決心したんです」

 

三澤と健三は旧知の仲とはいえ、五年の空白がある間柄。

その話を鵜吞みにはできず身構える健三でした。

 

純一 「・・正直言えば、私もこの三年のコロナ禍でひどい痛手を受けましてね。もう少しで会社が倒産という所まで落ちましてね、長年育ててきたスタッフとも別れる始末です。でもこれまでのジュン三澤事務所の活動を惜しんで手を差し伸べてくれる方がいましてね、何とかここまでたどり着いてきたんです。ですから瀬村さんの苦境は十分理解しているつもりです。さし使いなければ今の的屋としての瀬村組の状態をお話願いませんか、これはこれからお話しするお力を借りたい事に関わって来ますので」

 

健三も組合の三年間のコロナ禍の影響で多くの廃業者を出したことを正直に話します。

すると。

純一 「仮に今その三寸(露店)を全部出す仕事があった場合、今の組合の状態で可能ですか」

健三 「そうなったら、三代目瀬村組村山健三の名に懸けてどんな事をしても二十四台出してみせます。そうだろう」

大輔 「ハイ。そりゃそんな現場なら喜んで休んでいる連中も手挙げますよ」

純一 「そうですか。期間は十月六日から三日間ですか。可能ですか」

健三 「ずいぶん具体的ですね。もう、決まってるんですか」

景子 「ええ、場所と時間は確保しています」

凛子 「あのう、もしかしてそれって、カムイ公園の野外コンサートの事ですか」

的屋としてのプライドを傷つけられたムッとする健三達を前に、三澤は今度の仕事をすることなった経過を説明します。

純一 「分かりますよ。ほとんど十月の恒例行事化していた大きなフェスティバルをなんで私が手懸けることになったか不思議に思うのも無理はありません」

健三 「いや、別に疑っている訳じゃねえんですよ、疑ってる訳じゃねえんですが・・そちらに協力するって事になりゃ、こっちも腹を括らなきゃならねえんで裏表のねえ話を聞きたいと思いましてね」

純一 「ええ、よくわかります。私がこのフェスティバルに関わることが出来たのは、皮肉にもコロナが切っ掛けなんですよ」

健三 「コロナが?・・・」 

純一 「ええ。三年前にこのフェスティバルが開催直前で中止になりましてね、実行委員会が大赤字を食らったんだそうです。それ以来コロナの状況を図りながら企画しては中止するという状態が続きましてね。スポンサーの撤退などから実行委員会も歯抜け状態になったんです。で、今年はどうするか形ばかりの検討会があると聞きまして、自分が長年温めていたプランを私も藁をも縋る気持ちで提出したところ、図らずも採用されましてね。まあ、ゼロコロナは不可能だということで、半ば実現は難しいだろうという観測があったのでしょうね、それで私にお鉢が回って来たんです。でも全面的に任せるというよりは、実現できる具体的な可能性を証明するという事が条件で共同出資者の資格を手に入れたんです。その大きな証明の一つが瀬村さんとの活動という事なんです」

 

畳みかける様に景子がプロジェクトの概要を話します。

景子 「フェスティバルの検討会に社長が提出したプランというのは「和と洋の融合コラボカーニヴァル」というものでございまして、コンサート会場内を洋のセクション、コンサート会場の外側を和のセクションと分けるものです。これはコンサート会場入り口に至る道を日本のお祭りの象徴である露店で囲みまして、存分に和を堪能した後、会場で洋に浸り、終了後に再び縁日気分で帰路につくという設定で考案したものです。この三年のコロナ禍で半ば忘れられた人が集う楽しさと日本の祭りというものの良さを再び見直す機会になればという三澤の思いから出た企画です」

凛子 「すると何ですか、そのコンサートの会場を露店がグルッと囲むんですか。すると三寸はどの位必要なんだろう」

景子 「ええ、単純に計算すると・・三寸ですか、それが二百五十台ほどの数になりますね」

凛子 「二百五十!」

大輔 「二百五十ですか・・そりゃ、大ごとだ」

 

だんだん乗り気になる健三達。

 

健三 「そりゃ、駄目だ。とてもそんな数は揃えきれませんや」

純一 「それはご心配なく。こうして具体的な形で協力をお願いするのは瀬村さんの所が初めてですが、始めから必要な露店の数は分かっていましたから、それとなくこの地区の十五の露天商組合の皆さんと顔繫ぎはしていたんです」

健三 「ああ、そうですか」

純一 「ええ、こうして世の中の動きも実際の活動も出来る方向に動き出したので、これから説得に回ろうと思ってます。ああ、瀬村さんの親しい吹石地区の露天商組合の村瀬さんにも話は行ってるんです」

健三 「村瀬の兄貴の所へも・・そうですか」

景子は会場の完成予想図や参加する予定の露天商組合の名簿を提示します。

 

景子 「これが話が通っている露天商組合の皆さんの名簿です。組合長さんのお名前と連絡先が書いてあります。ご覧になりますか」

健三 「ちょっと拝見」 

景子 「ああ、お見せするのが後先になってしまいましたが、これが会場と周辺の完成予想図です。上から俯瞰した形になってます」

大輔 「おいおい、こりゃすげえな」

凛子 「ホント、こいつは楽しいね」

景子 「観客はコンサート会場のガイドラインにそって観客同士の間隔を取った状態で考えています。動員は三日間で約四万五千人を見込んでいます」

凛子 「ぶったまげ」

景子 「それにコンサートに関心のない方でも会場周りの露店通りは縁日やお祭りを連想させるので結構な集客になると思ってます」

 

景子 「ああ、お見せするのが後先になってしまいましたが、これが会場と周辺の完成予想図です。上から俯瞰した形になってます」 

大輔 「おいおい、こりゃすげえな」

凛子 「ホント、こいつは楽しいね」

景子 「観客はコンサート会場のガイドラインにそって観客同士の間隔を取った状態で考えています。動員は三日間で約四万五千人を見込んでいます」

凛子 「ぶったまげ」

 

凛子 「親分、これ見てくださいよ」

健三 「どれどれ・・・おお、こりゃ大したもんだ」

景子 「お気に召していただけましたか」

健三 「いや、お気に召すも召さねえもねえでしょう、これだけきちっとしてるんじゃ。・・・」

三澤の熱意と周到さにほだされた健三は協力することになります。

元々的屋稼業は義理と人情の世界ですから。

 

ところで、ねえ三澤さん。場所割はどうなるんで」

純一 「場所割といいますと」 

健三 「露店をどんな順番に並べるかって事ですよ。俺達的屋にとってそれは大きな事なんでね」

純一 「それは参加する組合の皆さんでお決めになればいい事だと思いますが。どうだろうね」

景子 「社長。それはやっぱり初めに声をかけた瀬村様にリーダーシップを取っていただくのか筋だと思いますけど」

純一 「そうだ、確かにその通りだ!瀬村さんやっていただけますか」

健三 「えっ、俺でいいんですかい。本当に?」

純一 「お願いできますか、いや、お願いします!」

 

純一 「お願いできますか、いや、お願いします!」

健三 「やります。この三代目瀬村組村山健三が謹んでやらせて戴きます」

純一 「(健三の手を取り)ありがとう、ありがとうございます」

大輔・凛子 「オオッ!」

 

     凛子・大輔大きく拍手。

     つられて拍手をする景子。

     感激し、互いを見つめ合う健三と純一。

こうして健三と三澤は十月のフェスティバルに向けてました。

果たしてうまくいくのでしょうか。

第七場に続く。

 

撮影 鈴木淳