プレーバック劇団芝居屋第40回公演「立飲み横丁物語」NO9 | 序破急

序破急

劇団芝居屋を主宰しています。50年以上携わって来た芝居のあれやこれや、また雑感などを書き散らしたいと思っています。

はてさて巷ではサッカー日本代表がベスト8を掛けた今夜の決戦に話題沸騰です。

是非頑張って貰いものです。

てな訳で、第四場へと参ります。

 

第4場 六月四日・立飲み横丁・夜分。

時の経つのは早いもので日日江南新聞の取材から一か月。

今日は6月の例祭の最終日です。

祭りの終了の合図の花火が夜空に上がります」

 

綾子 「カアサン、例祭終わったね」

幾久 「ああ、そうだね。・・・いやいや、何事もなく終わって良かったよ」

綾子 「これから忙しくなるから用意しなきゃ」

幾久 「そうだね、今日はドンチャン騒ぎだ」

 

客の第一号は例の有村仁でした。

 

仁 「女将さん今晩は。綾さん、今晩は」

綾子 「何だい仁ちゃん、今日は遅いじゃないか」

仁 「ええ、ちょっと祭り見物をしていたもんですから」

幾久 「どうだい。人出はどうだった」

仁 「結構な人出でしたよ。みんなやっぱり待っていたんですね、祭りを」

 

次は商工会議所青年部の誠の案内で参りましたのがちょっと派手めな男女。

三澤純一と中村景子でございます。

 

誠 「こちらです」

純一 「はあ、ここが瀬村の女将さんのいる立飲み横丁?」

誠 「ハイそうです」

景子 「確かに立飲み横丁だわね」

 

実はこの三澤純一は幾久とは旧知の仲でして久しぶりの再会です。

 

幾久 「・・・あのう、どちらさん?」

純一 「お忘れでしょうか。東京でジュン音楽事務所をやっております、三沢純一でございます」

幾久 「えっ、ミサワって・・・あらあ、三澤さんだ。ちょっとふっくらしちゃったから御見それしちゃった。お久しぶりね。お元気」」

 

景子 「・・・あの、社長。私も」

純一 「ああ、そうだね。女将さん、紹介します。ウチの事務所でイベントプロデューサ

を任せている中村景子です」

幾久 「あっ、どうも」

景子 「中村景子でございます、よろしくお見知り置き下さい」

幾久 「瀬村幾久です。よろしく」

景子 「社長からはお噂はかねがねお聞きしております。こちらでのイベントの際に瀬村組の皆様には大変お世話になったそうで、その瀬村組の親筋に瀬村様が当たると聞きまして是非ともお目にかかりたいと思いお伺いした次第です」

純一 「組合長さんとはこちらで待ち合わせをしているので、待たせて頂いてよろしいですか」

 

三澤は瀬村健三を訪ねて来たようです。

 

純一 「神崎君とは五年前にここで星ひかるの野外コンサートを商工会議所後援でやらしてもらった時に会ったんだよね、確か」

景子 「あら、星ひかるの」

誠 「ええ、そうです。あの頃は私はまだ下っ端でいろいろ至らないことがありましてご迷惑をお掛けしました」

純一 「いやいや、非常に熱心に動かれていたことは印象的でしたよ」

景子 「そうでしょうね、とてもテキパキなさってるから」」

誠 「そうですか。恐縮です」

純一 「あれから五年ですから、神崎君も商工会議所青年部じゃ相当な役割を持つ様になってるんだろうね」

誠 「ええ、私もすっかり中堅どころになりまして、地域振興貢献活動を立案する側になりました」

純一 「例えばどんな活動?」

誠 「まあ、例えば。今日のようなお祭りや縁日の再開やイベントへの協力などですね」

純一 「ああ、そりゃいい事だ。なにしろイベント関係は的屋さんもそうだけどコロナ禍で大変だったからね」

誠 「ええ、何とか手助けできればと思ってます」

 

三澤に関心を持った綾子は幾久に紹介を頼むと芸能界に身を置く者の如才なさで対応します。

まあ、普通だったら「まあ、礼儀正しい人」ってな事になるんでしょうが、この綾子、大輔の女房だけあってその如才のなさが鼻につきます。

 

幾久 「紹介しますね。この人、瀬村組の長男の大城大輔の奥さん」

純一 「ああ、大城さんの。初めまして、ジュン音楽事務所の三澤純一です」

景子 「イベントプロデューサの中村景子でございます」

綾子 「大城大輔の家内です。よろしくお願いします」

 

 

いやはや人の第一印象ってのは難しいもんです。

嫌な感じを抱いた綾子、幾久に三澤の以前の仕事ぶりを説明されても、好意を持てなくなっているので素直に入って来ません。

 

幾久 「ほら、五年前に大池公園で星ひかるの野外コンサートやったでしょう。あれを企画した先生よ」

綾子 「ああ、あれならあたしも行った。縁日みたいに露店が会場をぐるっととり囲んでね、まるでお祭りみたいなすごい人だかりだったよね」

そうこうしているうちに健三が大輔を伴い現れます。

健三、三澤を立飲みで接待というわけにはいかず、由紀のやっているクラブへ連れた行くことにします。

それでもとりあえずの乾杯は幾久の店でという事で一杯。

 

純一 「それじゃ、露店の再開オメデトウございます」

景子 「おめでとうございます」

健三・大輔 「ああ、どうも」

 

三澤が来て誠一と会っているという事は何かあると推測した誠はイベント関係の情報がないかと商工会議所事務所に確かめます。

すると

 

誠 「モシモシ・・・・ああ、分かった?十月の・・ああ、カムイ公園の野外コンサート・・・ああ、有難う。助かったよ」

 

三澤に関連するような情報がきます。

河岸を変え健三と同行しょうとする三澤を呼び止め確認しょうとする誠。

 

誠 「(声を潜め)さっきの企画の件なんですが、それってもしかして・・・」

純一 「なんですか、もしかしてって」

誠 「もしかして、十月にカムイ公園で予定している野外コンサートの事じゃないんですか」

純一 「・・いや、それは違うともそうだとも言えないね。緩和されては来ているけれどどう状況が変わるかわからないんでね。悪しからず」

 

食い下がる誠の熱意に負けた三澤は・・・

 

誠 「じゃ、違うって訳でもないんですね。協力要請で商工会議所青年部に知らせが来てるのはそれだけなもんですから」

純一 「調べたの、相変わらず熱心だね。特別君にだけ話すがその知らせっていうのは確かに十月の野外コンサートの件です。はっきり決まったら改めてお知らせしますんで、その節はよろしく」

誠 「はい、頑張ります」

 

三澤達を好感を持って見送る幾久とは異なり、綾子は嫌な感じを拭い去る事が出来ませんでした。

 

綾子 「ねえ、あの三澤って人大丈夫?」

幾久 「どういう事?」

綾子 「なんだか胡散臭くない」

幾久 「そうかね、礼儀正しい人でないの」

綾子 「正しすぎるのがなんか気に入らないのさ」

 

これでこの物語の登場人物は全員登場です。

第五場に続く。

 

撮影 鈴木淳