プレーバック劇団芝居屋第40回公演「立飲み横丁物語」NO7 | 序破急

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劇団芝居屋を主宰しています。50年以上携わって来た芝居のあれやこれや、また雑感などを書き散らしたいと思っています。

第三場 五月二十日瀬村組村山健三宅・居間

 

六月の海道神社の例祭の開催が決定しましてね、瀬村組もその準備にかかります。

なにせ三年の空白があり、会場も試しという事もありので普通とは状況は違います。

 

健三 「神社側と実行委員会で打ち合わせてきたが、今回は試しって意味合いもあるんで、感染対策上普段だと二十四台だが今回は半分の十二台でお願いしたいって事だった」

大輔 「十二台ですか?そりゃ、削りすぎでしょう」

凛子 「十二台じゃポツリポツリって感じですね」

健三 「すぐに元通りになる訳はねえさ。それでよ。感染対策上、店の間隔は二メートル以上欲しいんだそうだ。感染対策といわれちゃしょうがねえや」

大輔 「それだとやっぱり十二台ですかね」

凛子 「それじゃ賑やにするのは難しいよ」

こういう露店の準備に掛かりますと、まだまだ世の中が普通に戻ってないことを実感する健三

達です。

 

そんなとこへ、三年間倉庫に眠っていた三寸(露店)の点検に行ってた若い衆の谷田新司と絹田金吾が戻ってきます。二人とも的屋稼業が休止していた間に入ってきたおっちょこちょいです。

 

新司 「ただいま戻りました」

金吾 「した」

大輔 「三寸はどんな様子だ」

新司 「天幕類はずいぶん埃かぶってましたね。それに支柱なんかだいぶサビてたんで磨いておきました」

大輔 「そうか。三年だからな、サビも浮くさ」

健三 「おい、新司。こいつ少しはお前の役に立ったのか」

新司 「いや、大助かりでしたよ。こいつ町工場で働いていたそうでやたら磨きがうまいんですよ。おかげで焼き台はたこ焼きも焼きそばも全部磨きました」

健三 「そうか。金吾お前使えるじゃねえか」

金吾 「ヘヘ・・アザス」

そんなこんなの話の中に女将さんの由紀が現れ、今日が日日江南新聞の取材であることを告げます。

由紀 「あなたその格好で取材受けるの」

健三 「そのつもりだが・・・」

由紀 「駄目よ、そんな恰好じゃ組合長の名が泣くわ。ホラ、いらっしゃい着替えるわよ」

健三 「ああ、ハイ」

この三代目瀬村組の実権は由紀が持ってますな。

てな訳で、健三が着替えに行く間なごやかな時間が訪れます。

 

凛子 「どうだい、少しは慣れた?」

金吾 「ええ、どうにかこうにかやってます」

大輔 「金吾。お前なんで的屋になろうと思ったんだ」

金吾 「ええ・・・そうですね、俺ガキの時から縁日があるちゃそこでチョロチョロしてたんですよ。兎に角あの雰囲気が好きであそこに居たいなって思って、それで・・」

新司 「それで、町工場やめてこの世界に飛び込んだわけだ。俺と似たようなもんだ」

金吾 「そうなんすか」

凛子 「的屋稼業に入るのは大体そんな様なもんさ。ねえ、兄さん」

大輔 「ああ、そうだな」

ここでやめときゃ良かったんですが、みんなが自分と同じような動機で的屋になった事を聞いた金吾は調子に乗りましてね。

金吾 「でも、組に入れてもらってから的屋の仕事が全然なくて拍子抜けですよ」

言っちゃった。

さてこの続きは後ほど。

 

撮影 鈴木淳