間が空いてしまいました。
前回に続き、ゲノム医療の現状および遺伝子パネル検査等についてです。
盛り沢山の内容なので絞りましたが、それでも長いです。

⚫️肝胆膵がん
がんとゲノム異常
消化器内科医長  上野 誠先生

肺がんと比べて、ゲノム診断、治療ともに遅れていると冒頭に話された。

理由の1つとして診断に必要ながん組織の摂取が簡単でないとのこと。
・肝がんはCT検査で90%分かるので病理組織を摂っていない。
・胆道がん、膵がんでは内視鏡生検を行うが、検体となる腫瘍量が少ない…など。

そんなこの領域でゲノム関連が進んでいるのは胆道がん。
遺伝子変異は、胆管の各部位で異なる。
頻度は5%-10%と少ない。
・肝内胆管がん…FGFR2融合遺伝子  、BRAFV600E、EML4-ALKなど。
・肝外胆管がん、胆嚢がん…HER2(乳がん治療で行われる)

2019年米国腫瘍学会の臨床試験でBRAF V600E遺伝子に2種類の抗がん剤(ダブラフェニブとトラメチニブ)が約90%の患者に治療効果が見られたそうだ。
早速海外のがん情報、リファレンスで検索したが、出ていなかった。
聞き漏らしではないと思うのだが…。


⚫️乳がん
ここまでわかってきたがんとゲノム異常
乳腺内分泌外科医長  菅沼 信康先生

がんは、がん細胞で変異を起こすタイプ(環境要因)と生まれつき正常細胞に変異があり発症するタイプ(遺伝要因)がある。

「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」(HBOC) は後者のタイプで BRCA1、BRCA2遺伝子変異が原因。 
乳がんだけでなく、卵巣がんも高リスクで発症する。
前立腺がんや膵がんの発症もある。

乳がん発症リスク
①一般女性                    9%(12人に1人)       
②乳がん家族歴あり   18~36% 
③遺伝性乳がん卵巣がん症候群 49~90%

②で2~4倍、③だと6~12倍に上昇する。
特徴として、若年性乳がんやトリプルネガティブ乳がんの発症など。
ハリウッド女優さんの件で一気に情報が浸透したが、こうなると本当に事前検査の必要性が増す。 

HBOC診断は、採血でBRCA1、BRCA2遺伝子解析を行う。自費診療で20-25万。

治療では手術、薬物治療。特にBRCA変異の弱点を突いた治療薬オラパリブが登場(2018年7月承認)


⚫️なかなか聞けないがんと遺伝の話
遺伝診療科 
認定遺伝カウンセラー 羽田恵梨さん

認定遺伝カウンセラーは日本で250名。(2018年時点)  
神奈川県立がんセンターに2名在籍。
医師、看護師などと連携し患者の遺伝や遺伝性の病気に関するサポートを行う。

遺伝カウンセリングの流れ(ざっくり)
初回(60~90分)   費用12000円
・疾患の概要
・遺伝学的検査を受けるメリット/デメリット等
      ↓
遺伝学的検査希望
・意志確認
・採血
      ↓
結果説明

勿論、カウンセリングを受けたからと言ってその後の検査に進まなくても良い。
遺伝子的検査についての詳しい説明が受けられ、個人に沿った検査も提示してくれるそうだ。(検査により料金はまちまち)
これからの医療にとって、病院にひとり常駐してほしいスタッフだと思う。


⚫️全体を通しての質疑応答(抜粋)
Q.  遺伝子検査で適合した薬が効かなくなるのは何故?
A.  遺伝子変異が作るタンパク質に効く薬を使うと、別の場所にその薬に耐性を持つ遺伝子変異ができ、薬が効かなくなる。

Q.  肺がんの遺伝子異常はリキッドバイオプシーでわかるか。
A.  わかる。肺がんはEGFR遺伝子変異でゲフィチニブ等治療後に再発した場合、T790M遺伝子変異が出てくる。
治療薬はオシメルチニブ。

Q.  大腸ポリープ腺腫はがん化するか。
A.  10年位でゆっくりがん化する。
ポリープのある方は毎年検査することをお勧めする。しかしガイドラインは不十分で明確化にはなっていない。

Q.  オラパリブは遺伝子BRCA1とBRCA2両方に効くか。
また、BRCA検査は保険適用か。
A.  両方に効く。オラパリブはBRCA遺伝子陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんに保険適用。予防的な使用はできない。
再発時のBRCA1、BRCA2の遺伝子変異の有無を調べる検査も保険適用となっている(約6万円)

Q.  遺伝子検査の結果、BRCA遺伝子が判明。娘に知らせ、カウンセリングを受けさせるべきか。
A.  娘さんが20代なら伝えた方がよい。
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)は20代で乳がんを発症することがある。遺伝カウンセリング外来で説明を受け、遺伝子検査を受けるかどうか、娘さん本人が考えて判断するのが良いと思う。


参加者の大半は、患者およびその家族。
私の隣は、同年らしきご夫婦、前にはお子さん連れの若い母親の姿。車椅子の男性が通路を通れず、職員が手を貸す場面もあった。
みんなが、どれだけの期待をゲノム医療に寄せているかを感じた。質疑応答の予定時間30分に対して16の質問が物語る。
多くの質問に少しでも答えようとなさっていたが、中には、答えにならないような切実な内容も…。

今年は前半(予定)に2つの遺伝子パネル検査「NCCオンコパネル」と「FoundationOne CDxがんゲノムプロファイル」が保険適用と明るい材料がある。

すべての方々のために医療の果すべき役割が小さいと思いたくないし、あってはならない。
エビデンスを超えて行きましょう。







柴犬ポチ🐶