こんばんは。
ここ数日の朝晩の寒さはなんだか秋の深まりというより初冬を思わせます。
週末は天気もいまひとつではありましたが、再び秋葉原に出かけてきました。
今回の市民講座は、NPO法人『日本せきずい基金』が主催するシンポジウム、
「Walk  Again  2018  再生医療最前線~基礎から臨床まで」
場所は秋葉原コンベンションホール。
(少々、専門的なレポートになっていますので、ご容赦ください)






⚫️講演1 『iPS細胞を用いた再生医療と創薬研究』
慶應義塾大学 医学部生理学教室教授  岡野栄之先生

交通事故や転落外傷などで脊髄損傷となった場合の治療として、iPS細胞を使った神経幹細胞移植が注目されている。
国内の患者は毎年5000人。総数10万人以上。

・病態の段階
1. 急性期 (物理的損傷後で炎症が見られる時期)
     一次損傷…直接的損傷
     二次損傷…血液-脊髄の破綻による浮腫などの続出
2. 亜急性期(損傷後2~4週)
     再生する力と変性する力のせめぎ合い
     ※細胞移植が最も適する時期。
3. 慢性期(損傷後6ヶ月)
     病変が固定。
     軸索(神経軸)が変形、または大きな空洞化が生じる。

・これまでの取り組み
マウスiPS細胞を用いたマウス脊髄損傷治療
ヒトiPS細胞を用いたマウス脊髄損傷治療
ヒトiPS細胞を用いたサル脊髄損傷治療(正常の7~8割まで回復)
いよいよ、臨床段階へ着手。

・移植サイクル
患者→体細胞→iPS細胞→iPS細胞由来の神経幹細胞→患者
※iPS細胞樹立に3ヶ月、神経分化に3ヶ月。更に安全性の確認等で事故後移植まで1年半。かかり過ぎる!と思ったが、現在はiPS細胞バンクCiRA(サイラ)が発足している。
京都大学の山中先生の下、再生医療の普及などのために、あらかじめ安全性の確認を行い品質保証されたiPS細胞を作製保存している。

ちなみに、この再生医療用iPS細胞ストックから提供を受けている医療機関は、
・理化学研究所(眼疾患)
・京都大(パーキンソン病・血小板製剤・軟骨疾患)
・大阪大(重症心不全)
・慶應大(脊髄損傷・心疾患)
・横浜市大(肝疾患)…他、多くの研究機関と連携している。

・移植後の腫瘍化対策
iPS細胞には、性質の悪いものがあり、これを移植すると、一度は運動機能がよくなるが、その後腫瘍が増え脊髄を圧迫するようになる。そこで、移植前のiPS細胞由来の神経幹細胞に※GSI薬剤を投与する。※もともとはアルツハイマーの治療薬らしい

・創薬の開発
筋萎縮性側索硬化性(ALS)に対する治療薬として塩酸ロピニロールを既存薬から発見。「nature  medicine」2018年8月20掲載の論文(先生)の紹介がなされた。
有効な治療法がない中で、iPS細胞技術により治療薬候補を見つけることができたとのこと。


⚫️講演2  『網膜視細胞移植』
理化学研究所  網膜再生医療研究開発プロジェクト  プロジェクトリーダー  高橋政代先生

・眼の構造
最初に光を受け取る網膜は、視細胞と網膜色素上皮(RPE)細胞とから成る。
前者は、脳が眼球に入ってきた情報を感知する中枢神経の一部。
後者は、視細胞をメンテする組織。

・「加齢黄班変性」について
症状は真ん中が見えにくく、まわり(端)は見えている。中心が見えないと視界が悪いため文字は読めない、相手の顔も見えず、両眼になると非常に苦しい病気。
原因は、網膜色素上皮細胞の老化が殆ど。

・移植サイクル
患者→iPS細胞→鈍化RPE細胞→RPE細胞シート→患者
iPSから作った細胞で置き換える治療をする。
・臨床試験の成果
最初は、自分のRPE細胞を使うところからスタート(2014年9月自家移植)
他家移植の場合、RPEは視細胞と違い拒絶反応が大変。
免疫抑制剤を高齢者の患者に使うと副作用による全身の危険があり躊躇したが、予定の5例はすべてクリアしている(2017年11月)

・「網膜色素変性」について
視野が徐々に狭くなり消えていく。遺伝子異常が原因。
治療法がなかったのだが、視細胞移植で光明が見えてきた。
視細胞の増加率は0.03(0.01もないと言われた世界だから、先生はチャンピオンデータだと)。
来年には、治療に入りたいと言われた。
                            

⚫️講演3 『損傷部保全と神経幹細胞移植の併用による脊髄損傷治療法の開発』
九州大学大学院医学研究院  応用幹細胞医科学部門・基盤幹細胞学分野  教授   中島欽一先生

前述の講演内容と重なる点もあるので、治療法についてのみ。

・治療法について
神経幹細胞移植との併用で、HMGB1抗体療法を行う。(二次損傷段階治療)
HMGB1とは、元々細胞の核の中にあるタンパク質。細胞が障害を受けると細胞外に放出される。これにより、特異的な受容体に結合、シグナル伝達が活性化。
炎症性サイトカインの増大に繋がる。
抗HMGB1抗体の投与により、この増大が阻害され、劇的に抑制できることがわかった。

・抗体投与の効果時間
ケガの発生から6時間までに効果あり。
9~12時間では何もしてない時と変わらない。
今後は投与時期などを臨床で進めていくとのこと。


現在、再生医療は体のあらゆる部分についての研究がなされており、一部では臨床に進んでいます。
免疫拒絶反応が起こりにくい細胞から再生医療用iPS細胞を備蓄する機関や、難病患者の皮膚などから作ったiPS細胞で原因解明や新薬開発を行う機関も増えているそうだ。
研究に携わる先生方の努力には有り難くて頭が下がる。

医療の世界の日進月歩をまた知ることができました。





柴犬ポチ🐶