前澤友作さんが、ロシアの宇宙船に乗ってISSへの旅行に出た。

いいなあ。僕も行ってみたい。

 

一緒に出かけるはずだった女優とは別れてしまって、別の近しい人と連れ立って、らしいけれど、でもだからこそ、宇宙旅行に際しての報道が際立っていた。「ガールフレンドと一緒」だと、そちらにばかり話を振ろうとして、見ているこちらも報道にうんざりしただろう。

 

宇宙服姿で座席に座った前澤さんがアップになる。そのむこうでは風景が動いている。宇宙船がすでに滑走を始めたことがわかる。そして、宇宙に関するだけの質問。すっきりしていた。

 

幼い頃から、僕は宇宙が好きだった。当時、今の西東京市にあった家からも天の川は見えたし、満月にウサギが餅をついている姿が見えると言われて、どう見たらそう見えるのか、一生懸命たずねた記憶もある。

 

ふだん宇宙に関心がない人でも、今回の前澤さんの旅行は、特別なイベントとして興味をひかれたかもしれない。

 

「決まった人しか海外旅行に行けない時代がありました。今では誰でも海外旅行に行けます。宇宙旅行も、誰もが行ける、身近な旅行になる日が間もなくやってきます」

 

テレビのアナウンサーの言葉は、相変わらず陳腐で嘘っぽい。

当たり障りのない言葉を選んでいるつもりだろうからしかたないとしても、「宇宙旅行が身近になる」までには、まだ相当に時間がかかる。だからこそ、今、行ける人がうらやましい。

 

「金持ちの道楽」

 

前澤さんの宇宙旅行をそう批難したコメンテータがいたらしい。

 

バカみたい、と瞬間的に思った。自分で稼いだカネくらい自由につかわせろよ。

なぜ君が、他人のカネのつかい道までコントロールするんだ?

 

もちろん、道楽だ。

カネをつかって遊ぶこと、そして、「情熱はあるかもしれないけれど、覚悟とか切羽詰まった事情なんてない」のが、道楽だ。お気楽だから、いいんでしょ?

 

背水の気持ちで、全財産をつぎこんで宇宙に行くのなら、許してくれるのかな。

それなら、「道楽」じゃなくて「人生を賭けて」だから彼は気に入るかも。でも、重いなあ…。

道楽で宇宙に行っちゃ、だめ? それとも、ただのいやがらせの言葉だろうか。

 

金持ちの苦労は、金持ちになってみなきゃわからない。

初めて耳にしたときに、シミュレーションをしてみた。そしてそうだろうと思った。

莫大な資産を、どんなふうにして、つかう?

 

ネットでは、前澤さんの資産は2000億円超ということになっている。彼が、あと40年、自由に元気に動けたとして、これをつかうのにどんなアイデアがあるだろう?

 

庶民感覚でちまちまつかっていたら、利息が増えるスピードのほうが速そうだ。だって、ほぼゼロ金利の日本の銀行に全額を預けてあるわけじゃないだろうし。

 

島を買う、自家用ジェットを買う、豪邸を建てる、馬主になる…。あれれ、どんどんスケールが小さくなっていく。すぐにやりつくしちゃいそうだ。はまるものが見つかって、全世界の島を買い占めたい、など、方向性が見つかれば、そこそこ消費できそうだけど…。

 

宇宙旅行体験、は、「企画してくれてありがとう!」なつかい道かも、と感じる。ちょうどいいスケールの選択肢がひとつ増えたし、しかも、楽しそうだ。

 

カネはつかってこそ、だけれど、子どもたちの未来を手に入れるために貯める、だって、将来、野垂れ死にしないように貯める、だって、つかう目的があればいいと思う。

「カネを集めるために貯める」「貯金のための貯金」がいちばんバカバカしい。

単純にかっこいいのは、自分の道楽のための無駄づかいだとも思う。なかなかできないから、かっこいい。

 

テレビで前澤批判をしていた内容に、こんなのも、あった。

ロシアの宇宙船に何十億も払って、それが日本攻撃の原資に回ったらどうする、だって。

他人のカネのつかい道に、想像だけで脅しをかけるなよ。

 

それにこの人、本当につね日頃から、ロシアや中国との戦争についてばかり考えているのかも。でなきゃ、数十億円をロシアに落とすことと、日本侵略は簡単には結びつかない。

 

前澤さんがロシアに数十億を払う。その一方で日本の1本のアニメがロシアで数十億を稼ぐことだって、あるはずだ。前澤さんはひとりで、アニメは総体として数十億だろうけれど、この程度の金額で、国どうしの影響にまで話をもっていくの? あまり現実的とは思えないなあ。

 

数十億の一方で、チンケな報道もある。

伸晃、とかいう派閥の領袖「だった(もうすぐなくなるだろう)」政治家が、庶民向きの補助金を申請して、60万円を得ていた、とか。

 

ふーん、やるだろうね、と冷めた目で見ていたら、世間が放ってはおかなかった。

 

冷めた目で見ていたのには、過去の行状がある。

(詳しいことは忘れたけれど)以前、おそらく災害被害者のことを「どうせ、最後は金目だろ」と吐き捨てるような発言をしたことがあったのだ。

 

災害で家を失ったり、土地を追い出された人々。

自分の暮らしを元通りにしてもらえれば最善なのだろうけれど、それは無理そうだ。だからしかたなく補償金で手を打とうと交渉をしているけれど、なかなかまとまらない…。

そのときに伸晃が吐き捨てたのだった。

補償金がせりあがるのを待っているんだろう、という意味だろうと僕は解釈した。

 

言い訳ばかりしている人は、批判されると、言葉に詰まることなく、適切な言い訳をすらすらと返すことができる。経験値があるし、つねに言い訳で頭をいっぱいにしているから、よどみなく瞬発的に言葉を出せる。前述の「日本攻撃の原資」の人は、同様に「侵略」ばかりが頭にある(けんかが好きなのかな)。

 

「ああ、こいつは、つねにカネのことで頭がいっぱいなんだろうな」

と、僕は伸晃のその言葉に、そのときそう感じた。

だから、わずか60万円にしかならないのに、庶民向けの給付金を手にしていたことに、ああ、彼ならやるだろうなと冷めた感想を抱いた。

もちろん、伸晃は氷山の一角。こんなふうな政治家はごろごろしていそうだ。

 

いやな話だけれど、2か月前の衆議院選挙が終わってから、あまりにも多くの「選挙違反めいた話」が報道され続けている。これほど表面化するのは、それだけ政治家や選挙への「たが」が緩くなっている証しだろう。

 

かつて農道をベンツが走った。それに批判が集まると、今度は山間地域にバラマキをして日本の林業をダメにした。「補助金」という名のバラマキ公約が続いて、日本は借金の山をこしらえたうえに、国際競争力を失った。

 

税金をもとにしたバラマキで票を買う、それができなければ、自分でカネを集め、権力を手に入れるために周囲に配る。それを「有効なカネのつかい道」と思ってるんだろうね。

 

権力を得て、その先に何をしたいのだろう? カネが集まってくる人こそ偉い人だから、そういう人になるためにカネを集める訓練をしている、とでも思っているのだろうか?

 

権力の証しとして、カネを持ってくればお願いを聞いちゃう人、は、怖い!

ある人が、そうした人のもとに、彼の権力欲を十分に満たすだけの金額を持ってやってくる。

彼は大いに満足する。これほど自分を「正当に評価」してくれる人は初めてだ。

うん、彼のためになら、日本の秘密も、日本国民さえ売り渡してしまってもいい、

そう考えちゃうかもしれない。……スパイ映画の始まり始まり!

 

フィクションならいいけど、カネを集めることを目的とする人、が増えると、そんなことだってありがちになりそうだ。

 

「自由になるカネ」を、道楽につかう、くらいがいい。平和な証だ。誰も傷つかない。健全だ。

そんな世の中なら、自由にものも言えるだろうし。

 

僕らの世代が排除してきた「同調圧力」は、いつの間にか以前よりひどくなっていたことが、コロナ騒ぎでわかっちゃって、ちょっと気持ちが暗くなっている。だからせめて、以前はよく演芸番組で目にした政治ネタの漫才や、政治家のものまねを、またテレビで見てみたいな。

なぜああしたものが姿を消してしまったのだろう? 政治家への忖度? 息苦しいね。

 

この文章を書いた二日後、大宅映子さんが伸晃について、テレビでこう発言していた。

 

「選挙に落ちて、岸田さんに(内閣の職を用意されて)救ってもらったんでしょ? かっこ悪い」

 

そう、「かっこ悪い」んだよね、大宅さん! 

 

せっかく選挙で落とした人が、なぜか内閣に雇われちゃう。選挙民にしたら、バカバカしさを通り超した悪い冗談だ。ふざけんなよ、と思うだろう。

 

先日、ゴルゴ13の作家、さいとうたかをさんが亡くなった。

ゴルゴ13は、かっこいい。自分のスタイルのためにストイックだから、かっこいい。

 

かっこ悪い、の意識を、伸晃やほかの政治家は持ってないのかな?

「お殿様」として生まれ育っちゃうと、自分を俯瞰して見られないのだろうか。

「お前、そんなことして、かっこわりいって思わないのかよ」

そんなことを言いあって遊ぶ友達は、いなかったのかな。

 

海外の上流階級がもつ、ノブレス・オブリージュみたいな凛とした姿勢や道徳心は、日本の為政者にはなさそうだけれど、せめて「武士は食わねど高楊枝」くらいの「やせがまん」はしてほしい。それもできないほど、背骨がふにゃふにゃしていそうだなあ…。

 

ふにゃふにゃだから、世間から叩かれても、心もからだも折れることなく、気づきもしないの?

 

宇宙から地球を見てきたほうがいいんじゃない?