今年の4月頃に書いた文章を見つけたけれど、憶えがない…。
タイトルが、いろっぽい。
想起されるような楽しい話は、まったくなかったのに…。
読み進んだ。誰の話だっけ…? 読み終えた、ああ、そうか…。
友人に気のいい奴がいる。わりとなんにでも興味を持つ奴だ。
ある日、そいつが、あれ、ちょっと気になるな、と思う女の子と目があった。
きれいとか、小悪魔的とか、そういうのではなく、ただ気になる。放っておくよりは少し手を出してみたい。
そんな衝動にかられていると、女のほうから、小さく手招きをした。
友人はついふらふらと彼女のほうへ行き、なんとなく知り合うことができた。
といっても、いろいろはぐらかされて、思うようにことははこばない。どこに住んでいるのかさえ、まだ知らない。
「スマホがあるんだから、すぐに連絡とれるじゃない」
というのが彼女の口癖だった。
でも、実際にはメールでさえ連絡がつかない。電話は、受話器をとったと思うと切られる。
ようやく連絡がとれて、彼女についていろいろたずねようとしても、核心に近づくと話題をそらして、こういうのだという。
「そんなつまらないことに時間をさきたくないの。今、大切なのは、私たちの世界をどうやってうまくやっていくかだけでしょ? それ以外のことを追求するなんて、どうかしてる。私がこうしてあなたとの時間を過ごそうとしているのに…。いつだって、私たちの仲が深まらないようにしてしまうのは、あなた。あなたはそうやって私の真心を邪魔してばかり。私が嘘をついたことがあって? もし嘘をついたら、すぐにでも、ほかの男友達全員と縁を切ってもいいわ。親とだって絶縁するわよ」
その言葉を信じて、ずいぶん長い時間がたっている。
でも、友人は相変わらず、その女性に引っ張りまわされるだけで、どんな本が好きで、どんなファッションが好きなのかも、わからずじまいのままだ。そして今度は本格的に連絡がとれずにいる。
その反対に、そこここで彼女の悪い噂が耳に入るようになった。今までも悪い噂は何度も耳にしたけれど、友人はどうにか気持ちを立て直してきたし、噂もまもなく消えた。でも、今回にかぎっては、次々に新しい噂が聞こえてくる。
友人は耐えられなくなって、もう彼女をあきらめよう、前に進もうと思うようになった。
「わかりそうでわからないところが魅力的だったんだけど、結局は、何年かけても、ほとんど教えてくれなかったよ。行きたいという場所にも連れて行った、ほしいものもあげた。力を貸してと言われれば世間に顔のきくやつを紹介した」
彼はふう、とため息をついた。
「でも、いつでも僕が希望をかなえるだけで、彼女が僕にしてくれたことはほとんどなかった。山ほどあった知りたいことののひとつさえ教えてくれず、いつもはぐらかされてばかりだった。核心にせまると、話題を変えられちゃってさ…」
「うん…。聞いてるだけでも、つらいよ」
「ああ…。最後のほうなんて、「つまらない質問を繰り返して、あたしたちの時間を台無しにするのは、いつもあなたよ」って、責められ続けたよ…」
彼は最後に、「あぁ!」と息を大きくついた。
「悪女の深情け、って言葉もあるけどなあ…。情を感じないなあ…」
「そんなもんいらないよ、もう。むしろ、目の前からきれいに消えてほしい」
★ ★ ★
安倍政権を揶揄して書いた文章だったらしい、と読み終えてわかった。
女性が安倍さんね。スマホ、は、記者会見。
気になって近づいていったら好き勝手されて、追及すると、そのうち説明するからと言い、でも、説明せずにまた翻弄する。記者会見や国会質問では全部相手のせいにして、罵倒までする。そうした僕が抱えたフラストレーションを書こうとしていたみたいだ。
安倍さんのやっていることは、まるで質の悪い悪女みたいだ、と感じて書き始めたものの、悪女に悪いかな、とか、全体的に野暮だな、もっと洗練したストーリにできないかな、なんて考えているうちに、安倍さんがやめちゃった。
「むしろ、目の前から消えてほしいよ」
という一文の通りにもいかず、安倍さんはちろちろとたまに姿を現して、まだ影響力があるぞ、と感じさせている。
悪女なら、むしろ、いろっぽさが残って、悪くないのに…。
お粗末でした。