「はりせんぼん のーます」の「はりせんぼん」って何だと思う?」

「え、指切りげんまん、の最後のフレーズ?」

「そう」

「針を千本、飲ます、でしょ?」

「ブーッ。フグのハリセンボンを、バツとして飲み込ませるんだって。痛そうでしょ?」

「嘘ッ?」

本当にびっくりした。

「うん、嘘」

 

でも、調べてみたら、本当にそう思い込んでいる世代もあるらしい。wiki にはわざわざ「フグのハリセンボンではない」と書いてあるほどだもの。ハリセンボンを飲むのも相当に痛みを伴いそうだから、辻褄は合う。

 

いつ頃、このしゃれが行き渡ったのだろう。小学生の頃、少なくとも僕は「フグ」は知ってても、「ハリセンボン」は知らなかったから、もっとあとの時代だろう。

 

子ども時代の「指切り」は、たぶん無邪気な遊び。約束を破っても、指を切られることはなかったし。でも、子どもごころにも、怖さは少し感じていたから、言葉に言霊をのせたおまじないの一種なんだろうなあ。

 

「指切り」のもとは、江戸時代の遊女が、まごころの証(あかし)に自分の小指を切って、客(=間夫=まぶ)に渡した、というのが由来らしい。

「あたしを信じて、おまえさんだけは別だよ」の証。

 

でもなあ、そんなふうに思われたとして、指を渡されたら、どう? 

指一本は、僕には重すぎる。それとも、色男なら、これをもらったら、自慢したくなるのかな。ふたたびその遊女に会いに行くのに、気がひけそうだけれど。

 

最初のうちは、本気で自分の指を切った遊女が、何人かいたのかも。

でも、そこは廓。騙すのが商売だから、やがて「にせものの指」をこしらえる業者も現れて、それを桐の箱につめて客に渡すようになったとか。(「つるつる」か何かの落語で聞いたことがあったかも)。

 

これならもらっても自慢になるよね。しゃれだもの。

「ふざけんな! にせもんじゃねえか」

もしそんなふうに怒ったら、そいつはボンクラかサイコパスかどっちかだ。

 

しゃれにできなさそうな客がいるとしたら、侍。ことに上級武士。

こういう人の相手をするのは、張り店でお客を待ってるような女郎じゃなく、いついっか(何日何時)にお待ちいたします、と約束のうえにお客をとるような花魁。侍相手に、指を切って夫婦約束、なんていうふうに騙すのも、命がけかも。

 

侍に「切った指」を渡した日は、まあ何ごともなく終わると思う。

指を渡された客だって、その日は、動転したり感動したりして冷静じゃないだろうし、たとえ冷静な侍でも、突っ込めるほどの人はなかなかいないと思う。

 

問題は、次の回以降。客のほうもきっといろいろ考えるし、女も、客が来る刻限に合わせて、指に包帯を巻いたり見せないようにしたりと、大変だったろう。

 

まあ、今でも、舞子の水揚げには何億ってカネが動くという。しかも水揚げする客が何人もいるらしい(当事者は、自分だけだと信じているんだろうなあ。慣れた人はわかってるだろうけど)。騙しのテクニックは、奥深い。

 

残念ながら確かめられるような立場にないので、しゃれだと思ってね。

確かめたい方は、ご自身で。

ただ、いろいろ知りたいので報告してもらえると助かるなあ…ハハハハ。