▼前回の話▼

 

 

今日は西之園さんとやっている音楽活動の演奏会当日。
本番後、いつものように音楽仲間たちと打ち上げを楽しんでいた。
おしゃれなイタリアンの明るい個室にめっちゃ長いテーブル。テーブルの隅っこで向かい合う形で俺と西之園さんは席に着いた。先日のLINEの会話もあって、意識しまくりな俺は必死に周りの友人の会話に首を突っ込んでは会話を楽しんでいた。

 

そして2次会。10人くらいいただろうか。狭めのテーブルに詰め込まれる感じで案内され、安酒をチビチビやりながら楽しんだ。気づけば隣には西之園さん。すっかり酔いも回り、下ネタ全開のトークにも参加していた。余談だが俺は下ネタ王(自称)だ。

 

西之園さんはいつものノリで俺の隣に陣取ろうとし、俺は距離を取ろうと離れる。ここまでワンセットでいつもの光景。2人でいるときには距離が縮まり意識が高まったとはいえ、トモダチという一線は守っていた・・・まだね。

 

テーブルの隅のほうに、俺、友人A子、友人A男、西之園さんの順で座っていた。
A子とA男は俺と西野さんの共通のトモダチ。同じ音楽仲間だから当たり前か。
この2人、実はW不倫なんじゃないかと俺は疑っている。それぐらい仲がいい。しかも驚いたことにお互いの伴侶とも面識がある。つまりオープンな関係を築いている。

 

西之園さんは実に良く(たくさん)酒を飲む。そんでしこたま酔う。でも明日には残らないらしい。そんな人。この日も普段見せない下ネタトークが全開になるほど、ナメクジみたいに酔っぱらっていた。

 

やがて終電の時間。
最初に席を立ったのは西之園さん。
今日のメンツでも一番家が遠いみたい。

 

フラフラとした足取りで店を出ていき、後には少しトーンダウンした仲間と西之園さんの残り香だけが残った。もう30分、1時間もすれば残りのメンツも終電だ。そろそろお開きかね?と話していると俺のスマホに西之園さんからLINEが届いた。

 

西之園さん「カバン持ってない。お店がどこかわからない」

 

…出た。
典型的な面倒であざといタイプ。
だが確かに西之園さんは泥酔していたし、店がわからないというのが少し心配だった。

 

すぐに折り返しで電話をかけ、呂律の回らない西之園さんに所在地を問いただした。
的を得ない答え…どうも最寄り駅だけはわかる様子だったので、俺は「とにかく駅に行け。俺がかばん持ってくから!」とだけ告げた。

 

この時、残りのみんなはどんな目で見ていただろう。どんなふうに思っていただろう。俺の西之園さんへの気持ちがバレちゃうかも?

 

でも俺も相当酔っていたし、このあと酔った西之園さんと2人きりになれるかも?と興奮して周りが全然見えなかった。

 

自分の帰り支度と西之園さんのカバンを持って店を飛び出し駅に向かうと、駅と店の間で西之園さんの姿を見つけた。

 

西之園さん「あれぇ~?犀川さ~ん」

 

キャバ嬢のように西之園さんは俺にもたれかかった(ん?キャバ嬢に失礼かな)。
それから駅を支える太い柱の近くまでヨタヨタと歩き、自然と抱き合った。

 

俺「やっとハグできた」
つい本音がこぼれた。

 

西之園さん「犀川さん…」

 

ずっとこうしたかった。その時俺はそう確信した。
守ってきた最後の一線をついに超えてしまったような感覚だった。
少しだけキスをした。
少しだけというのは、思いのほか西之園さんが恥ずかしがって、できなかったから。

 

もう終電ギリギリ。
しかも残りの連中が帰り道にここを通る…。

 

ほんの5分、10分?
長いような一瞬のような時間をハグして過ごして俺たちは、後ろ髪をひかれるようにお互いの帰途に着いた。

 

つづく・・・

 

 



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