『アメリカン・スナイパー American Sniper』
監督 クリント・イーストウッド
脚本 ジェイソン・ホール
原作 クリス・カイル「ネイビーシールズ最強の狙撃手」
出演 ブラッドリー・クーパー/シエナ・ミラーほか
132分 2015年公開 アメリカ
★★★★
★★★★
MOVIX仙台で鑑賞。
「米軍史上最多、160人を狙撃した、ひとりの優しい父親」
実在の人物を扱ったこの映画につけられたコピー、
そしてクリント・イーストウッドの監督作。
それだけで、精神的に超ヘヴィであろうと、観るのをためらっていた映画。
じきにMOVIX仙台での上映も終わるという頃、この映画に関するアメリカでの
論争のニュースを見て、これは見ておかねばならないのでは?と急遽映画館へ。
主人公クリス・カイルのテキサスの少年時代から、
カウボーイに憧れてロデオに興じる青年時代、
正義感からネイビーシールズに入隊し、過酷なトレーニングを経て、
そして戦場へ。奇しくも初めての出撃を知るのが、自分の結婚式。
前半の映画の語り口は淡々と、しかし物足りなさを不思議と感じさせない。
tour one 、と数えられていく戦場がするっと挿入され、
その後は祖国に戻って穏やかな日常生活と、tour=戦場が交互に現れる。
その戦争がどういったものであるか、映画の中で説明はほとんどない。
あるのは、何度も繰り返される「祖国を守っているんだ」というセリフ。
主人公の動機づけの表現も最低限で、説明は少ない。
そして彼は何度も言う。「野蛮人から味方を守っている」
女性も子どもも、武器を持って米軍に危害を加えそうになれば、ためらわず標的とする。
tourは4度目まで続けられる。
生死の境目の極限状態でスナイパーとして「伝説」と呼ばれるまでに戦績を残し、
それでも救えなかった仲間の死を経験する。
アメリカの穏やかな日常生活の中に戻っても、心の視線は戦場に向かったまま。
妻は幼い子どもを抱え、携帯電話の向こうに銃声が飛び交うという、
愛する人を失う恐怖に苦しみながら、
必死に夫を平穏な世界に呼び戻そうと、何度も訴える。
主人公は頑なに、祖国を守るためだ、と戦場から離れられない。
アンバランスさが、どんどん心を蝕んでいく。
その過程を追随することで、観ているこちらの心も疲弊していく。
ひとりの人間が壊れていく語り口の、静けさの中の雄弁さ。
あえて時代背景を説明しないことにより、その人間ドラマが浮き立つ。
(背景がわかりづらいことも、批判のひとつであるが)
右翼的な映画?この映画の中に、美化された戦争は一切ない。
登場する人々は傷つき、苦しむ。
「伝説」と呼ばれ感謝されようと、ヒーローと言われようと、そこに喜びはない。
エンディングに、全ての音が消えて静寂の中テロップだけが流れていく。
何が悪かったのか、誰が悪かったのか。
何が正義だったのか。
イーストウッドは、戦争そのものを批判しつつ、兵士や帰還兵を否定せずに
描こうとしている。
相対する敵を「野蛮人」と主人公が何度も言うことも批判される点だが、
それすらも、そう思わなければ保てない、精神の防衛策ではないか。
(標的ではなく、生身の人間であることは、観ているこちらは百も承知。)
これのどこが、祖国を守っていることになるのか?という問いを持つことは
それまでの自分を否定することになり、耐えられないのではないか。
132分、身じろぎもできず画面に釘付けになった。
ブラッドリー・クーパーの抑えた演技のすばらしさ、
イーストウッドの問題提起の手腕、見事というしかない。
追記;アメリカで巻き起こった論争で、マイケル・ムーアがtweetが非難の的になったが、
インタビューを読んだら至極まっとうな意見だった(考え方はそれぞれだが)。
一読の価値ありです。
映画『アメリカン・スナイパー』オフィシャルサイト(日本語版)


































