”さて、何を聴こうかな?”と思った時の曲選びは結構難題です。

 

いくつもの曲や演奏が浮かんではきます。その場合は当然ながらよく聴き知ったものばかりなので浮かんだ途端に聴いた気になってしまうのです。

 

そうなると、一瞬で興醒め。

 

そんな時、よく登場してもらうのがサヴァリッシュ/ドレスデン国立管弦楽団のシューマン「交響曲全集」のCD。

 

同じ録音をレコード、CD両方持つことは殆どしませんが、これだけは多分唯一の例外でレコードも持っています。

 

ここには若いサヴァリッシュの、1972年の録音ですから当時49歳で指揮者としては若いと言っていい年齢です、意気込みとか勢いとかまでマイクに入っている感じがします。

 

その才能に危機感を抱いたカラヤンがベルリン・フィルの指揮台に立たせなかったと言われる何人かの指揮者の一人がサヴァリッシュと言われています。

 

そのカラヤンを筆頭に指揮姿が美しい指揮者はそれだけで信頼が置けると思うのですが、サヴァリッシュもその落ち着いた風貌に似合わないエネルギッシュな指揮ぶりを見せてくれる人です。

 

「交響曲第1番”春”」の冒頭のトランペットのファンファーレがスピーカーから流れてくるだけで”ああ、”ああいい演奏だなあ”といつも感じてしまいます。

 

ジャケット表紙ではオーケストラが表記が”The Dresden State Orchestra ”となっていて”?”と思いますが、中の解説では”ドレスデン国立管弦楽団(シュターツカペレ・ドレスデン)”となっているので、多分このオーケストラの英語表記なんでしょう。

 

1548年創立と書いてしまうと歴史あるオーケストラなんだなと思ってお終いですが、ヴィヴァルディが生まれたのが1678年、バッハは1685年ですからそれらよりもずっと前に誕生している考えるとちょっと驚きませんか?

 

わがNHK交響楽団も技術的には一流と言っていいかと思いますし、その前身となる新交響楽団が設立されたのが1926年ですから、2年後には創立100年を迎えようとしている訳ですがをの歴史的な重みという意味ではドレスデンの足元にも及びません。

 

もちろん旧ければ何でもいい訳ではありませんが、ドレスデン国立管弦楽団を聴いているとその歴史が音に詰まっているような感じを受けます。

 

サヴァリッシュがいつかのインタビューでこのドレスデンとのシューマンを”私の最高の作品”と自慢げに話していますが、本当にオーケストラにサヴァリッシュが乗り移ったかのような演奏です。

 

「交響曲第2番」はバーンスタインのレコードデビュー曲で彼のお気に入りです。この曲に関しては晩年のバーンスタインが若い音楽家たちを北海道に集めたPMFオーケストラを指揮した演奏会が忘れられません。

 

こんなことされたら、ダメと分かっていても拍手しちゃいますよね。もちろんこんな事をプロのオーケストラに要求しても照れてしまって受けてもらえないでしょうから、若さの勝利とも言えます。

 

バーンスタインの例は稀に起きる奇跡のようなものですから、これはたまに楽しむ宝物として、サヴァリッシュももちろん最上の演奏を聴かせてくれます。

 

「交響曲第3番”ライン”」は「第4番」が時系列的には「第1番」の後に書かれていますので、事実上シューマンの最後の交響曲です。

 

冒頭の幅広さを感じさせる響きからこれが大作であることを証明しています。30分程度の今ではコンパクトと言える規模なので大作といっても内容的にという意味です。

 

この曲にはライン河上流にあるケルン大聖堂から受けたインスピレーションが元になったと書かれていますが、確かにそんな宗教的な感じがあります。

 

この曲は5つの楽章を持ちますが、第4楽章は第5楽章の序奏とも考えられます。第4楽章は一つのフレーズが繰り返されるという単純な音楽なのですが、何とも言えない当別な雰囲気があります。

 

「交響曲第4番」は昔から大好きで、シューマンといえばこの曲ばかり聴いていたものです。フルトヴェングラーの目眩くような開始に感動したりしてました。

 

この曲にも印象的なものがあって、それはカラヤンがウィーン交響楽団とのレコーディング前のリハーサル映像です。全曲に渡って1時間ほどですが、冒頭カラヤンが”おはようございます”と登場すると早速始まります。ここで長々と演説しないのが好ましい。

 

出だしの部分を繰り返し演奏させる部分。

 

出だしが違うと感じたカラヤンが言葉で説明しますが、同時にタクトの下ろし方も変えているのは見事です。この映像はずっと見ていても飽きることがありません。

 

ただ、カラヤンのシューマンも以前はよく聴いていたと思うのですが、サヴァリッシュを知ってからは殆どサヴァリッシュだけです。一時バーンスタイン/ウィーン・フィルに浮気しようと思った事がありますが、すぐサヴァリッシュに戻っています。

 

このレコードを買ったのはもう何十年も前のこと、だから何十年もシューマンといえばサヴァリッシュなのです。

 

最後はサヴァリッシュの第4楽章を聴いて終わりにしましょう。