ワーグナーの毒にハマってみたい、とずーっと思っています。

 

”ワーグナーの毒”、とても魅惑的な響きがします。ただ残念ながら、今までハマったことがありません。

 

とにかくあの長大なオペラや楽劇を聴き通すのが難しいのです。

 

若い頃、年末になるとバイロイト音楽祭の中継録画されたものがNHK-BSでやっていて、それを録画したりはしてました。バイロイトのテレビ放映って今でもやってるのかな?

 

そうやって時間がある時に観ようとは何度もしましたが、毎回序夜にあたる「ラインの黄金」の途中で投げ出してしまってました。

 

「ラインの黄金」だけの印象ですが、ワーグナーの楽劇って劇の比重が大きいような気がします。もちろん最初の”昔、昔…”という所だったり、色々要所要所で聴きごたえのある音楽も沢山あるのですが、どうしても劇の進行に神経が言ってしまって、例えばヴェルディの「アイーダ」みたいに歌を無視して音楽だけ聴いていられるという音楽とは全く違うように感じます。

 

だから、疲れるのです。

 

音楽を聴いて疲れてしまっては、何のために聴いているのか最早意味不明です。

 

モーツァルトのオペラも話の筋が重要で、歌手が何を言っているのか分からないと全く楽しめないと思います。

 

私はベーム/ウィーン・フィル、フレーニのスザンナ、フィッシャー=ディースカウのアルマヴィーヴァ伯爵という豪華メンバーによる「フィガロの結婚」のフィルム動画を観て、一発でハマりました。

 

もし、オペラはどうも、と感じている方がいらっしゃったら是非このフィガロをご覧になることをお勧めします。交響曲や協奏曲とは全く違うモーツァルトが味わえます。

 

結局は音楽が素敵なのです。

 

ワーグナーはオペラや楽劇の中での音楽の役割がモーツァルトとは随分違うのです。今風に言えばサントラという感じでしょうか。物語の進行に合わせてその音楽も波打ちます。

 

まだ私はその波に乗れていません。

 

そんな残念な思いを少しでも癒してくれるのが序曲や前奏曲です。今回はカラヤン/ベルリン・フィルを聴いてみたいと思います。

 

「第1集」「第2集」とあって、今回は「第1集」の方を聴いてみます。

 

 

🔷「タンホイザー」序曲〜ヴェーヌスベルクの音楽

 

この曲には「ザルツブルグのカラヤン」で知られている、あのジェシー・ノーマンとの初共演で話題になったザルツブルグ音楽祭のCDで聴いた「タンホイザー」が余りにも素晴らしかった印象があります。

 

それまで「タンホイザー」はワーグナーの中でも好き順位で言えばそんなに上位にいなかったのですが、これを聴いてからしばらくはトップの位置を占めていた位です。

 

”出だしから”やけにゆっくりしたテンポだな”と感じます。もちろんザルツブルグのものと比べてですが、実際には微妙な違いなのでしょうがザルツブルグ(ライブ)には勢いというか推進力のようなものがあったと思うのですが、このスタジオ録音はより音楽を作り込んでいる感じです。

 

オケの違い、ザルツブルグはウィーン・フィルに対しこちらはベルリン・フィル。ウィーン・フィルは弦の特有な響きがよく言われますが、こうやって聴いてみると木管にこそウィーン・フィルらしさがあるように思えます。よく言えば素朴、田舎臭いとも言えそうな響きが何ともノスタルジックな雰囲気を醸し出します。

 

またこちらはザルツブルグと違って「パリ版」という、当時パリではオペラにバレエが無いと客が入らないということで、元々無かったバレエの場面を入れた版なのでザルツブルグでの迫力あるエンディングは無く、続いてすぐオペラが始まるようになっています。

 

この「ヴェーヌスベルクの音楽」でもカラヤンは秘術を尽くしたような演奏を聴かせます。

 

もしかしたらザルツブルグよりもいいのでは?

 

念の為もう一度聴いてみました。

 

実はこのアルバムはPCに取り込んであるので、簡単に操作できてこういう時便利です。

 

いや本当に凄い。素晴らしい。

 

カラヤンの聴かせる音の重ね方、その響きに一々納得させられてしまいます。これに比べるとザルツブルグの方はどこか勢いに任せたような所さえあったように思えて来ました。

 

「タンホイザー」序曲の印象さえ変わってきます。

 

これならながーい楽劇も聴き通せるかも、と思わせてくれた素晴らしい演奏です。

 

 

🔷「ローエングリン」第一幕への前奏曲

 

この曲は大好きです。

 

ワーグナーの序曲、前奏曲で一番好きなのは?と聴かれれば”ローエングリンの第一幕への前奏曲”と即答します。

 

ただ条件があって”ケンペ/ウィーン・フィルの録音に限る”ということです。

 

そんなお気に入りがあると、どうも他の演奏には何かとケチを付けて受け入れようとしなくなってしまうのは損な性分です。

 

さて、カラヤン/ベルリン・フィル。

 

カラヤンらしい素晴らしい演奏なんだとは思いますが、何せ私のイメージと違います。ここにはケンペが聴かせた夢の世界のような響きがありません。言ってみればリアルな世界。

 

残念ですが。

 

 

🔷「トリスタンとイゾルデ」第一幕への前奏曲と「愛の死」

 

これもザルツブルグのライブ録音との比較になります。

 

一聴感じたのは”とてもシンフォニックな演奏”だと言うこと。これはザルツブルグの方に軍配が上がります。

 

ワーグナーは”対位法などというものは無い、あるのは和声だけだ”と言った人ですが、ザルツブルグでのウィーン・フィルとの演奏にはワーグナーの和声の魔術に翻弄させられてしまうような所がありましたが、このベルリン・フィルとの演奏は比較で言えば対位法的なのです。

 

それが”シンフォニック”と感じた理由です。

 

カラヤンは「トリスタン」の全曲録音もあったはずですが、そこでもこんなシンフォニックな演奏をしているのでしょうか。

 

この曲はもっとモヤがかかったような曖昧なイメージがあったのですが、しかし考えてみれば赤裸々な男女の愛の物語なのですから、もっと肉感的で直接的な演奏だっていいはずだとも言えます。

 

この録音で残念なのは「愛の死」に歌が無いこと。ザルツブルグでのジェシー・ノーマンが素晴らしかっただけに勿体無い。

 

ただ面白かったのは、ジェシー・ノーマンとの最初のリハーサルでカラヤンは”今日はそこに座ってオーケストラの練習を聴いていなさい”と歌手に一節なりとも歌わせなかったこと。

 

カラヤンはオーケストラだけで十分ワーグナーがそこに込めた思いを表せされると信じているのでしょう。

 

そのせいもあってか、ここでのオーケストラは雄弁です。そのピークでは身体がゾクっと反応してしまいました。これはこれでありです。

 

色々書いてきましたが、この「トリスタン」が一番だったと思います。

 

(前奏曲と愛の死)