今回は、ルドルフ・バルシャイのショスタコーヴィチ「交響曲第7番”レニングラード”」のCDを取り上げます。
このアルバムには大曲が2つ収められています。
🔷マーラー「交響曲第9番」
ルドルフ・バルシャイ指揮/モスクワ放送交響楽団
1993年/モスクワ音楽院大ホール(ライブ)
🔷ショスタコーヴィチ「交響曲第7番”レニングラード”」
ルドルフ・バルシャイ指揮
/ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニー、モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団員
1991年/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス(ライブ)
私がこのCDを買ったのは、”鳴り止まぬ拍手も収録した”という宣伝文句に釣られてしまったもので、ショスタコーヴィチの曲は知らなかったものの、マーラーは名曲であることを知っていたことも後押ししました。
そしてもうとにかくショスタコーヴィチの感動的な演奏にどハマりしてしまいました。(だからマーラーの方は殆ど聴いていません)
この曲の歴史を知っていればドイツのオーケストラは中々手を出しにくい所ですが、ユース・オーケストラであるユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニーに属する18歳から28歳までの団員には、もうそんな足枷は無くなっていて当然です。
そこにモスクワ・フィルハーモニーの団員が混ざってオーケストラが編成されたことを知ると余計にこの演奏会の重みが感じられます。
🔶ショスタコーヴィチ「交響曲第7番”レニングラード”」
曲の開始早々からあけっぴろげと言えるほど力のこもったオーケストラの音にまず気がつきます。そしてナチス・ドイツ軍の侵攻を表した例のボレロを模した部分、特段感動する場所でもありませんが、この白熱はそこでさえ感動的に響きます。
ユースと言っても常設のオケなのでその合奏能力は安定して高く、トップレベルのオケに引けを取っていません。それはバルシャイの指揮の賜物でもあると感じます。
ここで聴く限り、バルシャイはカラヤンのような指揮者だと感じます。一つ一つのフレーズがよくねられていながら自然で、またスケールが大きい。
初めて聴く曲にも関わらず、もう全て知っている曲かのように何の抵抗もなく耳に入って来たのを覚えています。
何度書いても書き足りませんが、とにかく熱気に満ち溢れた演奏が続きます。
この曲ではその後、バーンスタインやゲルギエフ、ノイマン、インバルといった指揮者のものを訊いてそれぞれ良かったのですが、このバルシャイ盤ほど純音楽的で、かつ白熱した演奏を他に知りません。
この演奏は、”ナチのソ連侵攻50周年記念日”に開かれていることを知ると、バルシャイに
”過去の悲惨な出来事を忘れてはいけないが、もうそこに縛られることなく皆が同胞として前に進んでいこう”という思いがあったのではないかと、勝手に想像してしまいます。
この曲が好きなら一度は聴いておきたい演奏とお勧めします。最後など居ても立ってもいられない程の感動が得られるはずです。またこのアルバムはBISというレーベルですが録音の素晴らしかったことも書き添えておきます。
第4楽章フィナーレです。
🔷マーラー「交響曲第9番」
ショスタコーヴィチに入れ込み過ぎてマーラーは殆ど聴いてこなかったので、こうやって落ち着いて聴くのは初めてかも知れません。
こちらはモスクワでのライブですが、バルシャイにとってはショスタコーヴィチの時より思い入れの強い演奏会でのものです。
亡命していたバルシャイはソビエトでは長らく歴史から抹消されいましたが、ソ連崩壊によって祖国から招聘を受けます。バルシャイに取っては祖国での久しぶりの演奏会で期するものがあって当たり前ですが、そこで自分の最高のものを披露しようと選んだのがマーラーのこの曲とベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」でした。
第一楽章が始まると、この曲で色々著名な録音を聴いている人なら、段々と違和感を感じてくると思います。
何だかチャイコフスキーの「悲愴」みたいなのです。
確かに二つとも”死”がテーマであることに違いは無いのですが、第1楽章が音の洪水のように鳴らされると、ちょっと違うのでは、と感じてしまいます。
これはモスクワ・フィルハーモニーの特性なのかも知れませんが、一々音が太いのです。細い線が対位法的に微妙な重なっているのがこの第1楽章なのですが、それが全く感じられないまま終わってしまいます。
第3楽章は最後のクレッシェンドが命だと思うのですが、それまで散々に音の塊を味わっているので何だか呆気なくさえあります。
速めのテンポで始まる第4楽章も音の洪水は止まることがありません。もちろん弱音部ではグッと音量は下がるのですが、それでもどこか一本調子な感じは変わりません。
一風変わったマーラーでした。
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マーラーでちょっと興醒めしてしまいましたが、ショスタコーヴィチは特筆すべき名演であることに間違いはありません。