ピアノの音を聴いて”いいなあ”と思う時はどんな時でしょうか?

 

個人的に印象深いシーンを思い起こすと、

 

・ポリーニのショパン「練習曲集」のレコードで、作品10の第1曲の滝を模したと言われる勢いよく流れるフレーズで、細かな一音一音がまるで光に当てられた宝石のように輝いて聴こえた時

・ルービンシュタインのショパン「夜想曲集」の第1曲が始まった途端、”なんて綺麗な音だ”と思った時

・アラウがコリン・デイヴィスとやったベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第5番」冒頭のピアノの燻し銀のような深みのある音を聞いた時

 

などがあります。

 

それに一つ加わるようなアルバムがあります。田部京子さんがシューベルトの曲を集めたCD5枚組のアルバムです。

 

 

🔶「ピアノ・ソナタ第18番」

 

シューベルトのピアノ曲には全く不案内なので、この曲も初めて聴きます。

 

第1楽章冒頭のなんとも優しく深いピアノの響き、それだけでこのCD5枚という大きな山を登ってみようという意欲が湧いて来ました。

 

ベートーヴェンの推敲に推敲を重ねたがっちりとした構成感のある音楽を好む私としては、どうもシューベルトのどこか拡散してしまうような音楽にはどこか心かな馴染めない所を感じます。

 

そういうシューベルトらしさと構成感が奇跡的に両立したのが「交響曲第9番”グレート”」(今では「第7番」の方が通りが良いのでしょうか)だったと思っているので、この曲は大好きです。

 

そしてシューベルトで忘れてならないのが、とても魅惑的な旋律。この曲の第一楽章のテーマなんて、もうその最上のものの一つじゃないでしょうか。

 

またこれはデンオンから出ていますが、素晴らしい録音技術だと思います。私の好きなフィリップスとか、クラシックに特化した歴史あるグラモフォンのような個性的な音とはまた別の感覚、これはクラシック後進国である日本ならではとも言えますが、真水のような音の録り方になっています。

 

オーケストラのように色々な楽器の音色が重なり合った時にこの録り方が通じるのか分かりませんが、独奏とかトリオやカルテットのような小編成のものには合っているように感じました。

 

この曲は20分に渡る長大な第1楽章に5分から10分程度の3つの楽章が続く、4つの楽章で出来ています。

 

これは私のシューベルト観を変える必要がありそうです。続く3つの楽章に統一感のようなものは無いものの、感覚的に凄くバランスが取れていてこれならシューベルトも悪くは無いと思わせてくれました。

 

 

🔶「ピアノ・ソナタ第13番」

 

今回は5枚組の最初の一枚を聴いていますが、「第13番」が収録されています。

 

「堕18番」に比べると規模は小さく、「第18楽章」から第1楽章を覗いたような感じの3つの楽章から出来ています。

 

第1楽章はいつものシューベルトらしく、とても魅力的です。

 

この曲も悪くない。

 

メンデルスゾーンに「無言歌集」という素晴らしいピアノ曲がありますが、そんな雰囲気を持った曲。

 

最後に「ピアノ・ソナタ第18番」の第1楽章を載せておきます。20分と少々長いですが田部京子さんのピアノの音に浸ってみて下さい。

 

 

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田部京子さんのシューベルトのアルバム。いつか機会があればまた戻って来たいと思います。