日本の音楽教育はドイツ音楽こそ本道とばかりに教えられていますが、これがロシア音楽こそ本道と教えられていたら、チャイコフスキーは今のベートーヴェンの地位を得ていたかも知れません。

 

ロストロポーヴィチがロンドン響を振ったチェイコフスキーの交響曲は正にそんな演奏だと思います。

 

今回は、このコンビによるチャイコフスキーの「交響曲全集」から何曲か聴いてみたいと思います。

 

 

ロストロポーヴィチは世界的なチェリストとして有名ですが、指揮活動もかなり早い時期から取り組んでいたことは、今回改めて調べてみて知りました。

 

今回は、「第4番」「第5番」「第6番」と馴染み深い曲を選んでみました。

 

🔶「交響曲第4番」

 

チャイコフスキーの交響曲の中で一番好きな曲です。冒頭の金管のファンファーレからどこか重たく、ロストロポーヴィチがこの交響曲をどう捉えているかを予感させます。

 

ロンドン響はアバドなどと素晴らしい演奏を聴かせてくれていますが、ここでも素晴らしい演奏を繰り広げています。

 

その響きは良い指揮者を得た時のボストン響に似ている感じで、その響きはロストロポーヴィチの明確な意思が働いていることは明らかです。それだけでもロストロポーヴィチの指揮者としての力量が分かります。

 

第一楽章の終わりでもロストロポーヴィチの考えがはっきり出てきます。ムラヴィンスキーやカラヤンはこれでもかとばかりに追い込んでいったものですが、ロストロポーヴィチはそこまでの追い込みは見せません。

 

それではつまらない演奏だったのかと言えば、全く違ってその地に足が付いた演奏は、音楽を一段とスケールアップさせています。

 

ロストロポーヴィチによる第4楽章冒頭は爆発です。ここでもそこまでの速いテンポは要求しておらず、その代わり火山が噴火したような響きを獲得しています。

 

そしてコーダ。前にも書きましたが私も学生オケの一員としてこの曲を演奏した時、指揮者が感極まって予定外にアンコールとしてもう一度演奏した思い出の箇所。

 

しかしロストロポーヴィチの指揮では、そういう身の置きどころの無いような興奮はなく、まるでベートーヴェンでも聴いているかのような充足感を感じます。

 

聴いていて、ムラヴィンスキーやカラヤンが思い出されたのは確かですが、ロストロポーヴィチの首尾一貫した考えを明確に打ち出した、一つの名演だと思います。

 

第4楽章だけでも貼り付けたかったのですが、youtubeにあることはあったのですが、貼り付け禁止になっていたので、興味があったら直接聴いてみて下さい。

 

まだロストロポーヴィチは聴いたことが無い方には一聴の価値は十分あります。

 

 

🔶「交響曲第5番」

 

第一楽章冒頭のクラリネットによる”運命の動機”を異常とも思える遅いテンポで吹かせます。

 

この演奏には本当にびっくりしました。

 

ロストロポーヴィチはそれこそ一小節足りとも流した演奏は許さんとばかりに、色々なものを聴かせてくれます。だからこそこのテンポだと納得できます。

 

大袈裟に言えば新しい交響曲のように聴かせます。そして指揮者に応えるロンドン響も素晴らしい響きを聴かせます。

 

第2楽章、第3楽章と同じような傾向の演奏が続く、第4楽章が始まると今まで以上の遅いテンポに再び驚かされます。

 

ちょっとやり過ぎと思うほどの遅さ!ここまで来るとまるでブルックナーを聴いているかのようです。そして内声部を強調するやり方、嫌いではありません。

 

従来より、「第4番」「第5番」「第6番」と並べると、どうも「第5番」だけ異色な印象がありましたが、ロストロポーヴィチで聴くと全くそんなことはなく、「堕4番」に続く交響曲なんだということが分かります。

 

第4楽章の終わりの方で、一瞬オーケストラが黙って再び始まるところなんか葬送行進曲と言ってもいいようなテンポ。最後アップテンポになる終わり部分も、ロストロポーヴィチはオーケストラに華美になることを冷徹に押さえます。

 

異色ではありますが、驚くべき名演だと思います。

 

 

🔶「交響曲第6番”悲愴”」

 

この交響曲は作曲者が込めた想いがはっきりしているだけに、これまでの2つの交響曲の新しい面を引き出したロストロポーヴィチがどんな演奏ぶりを聴かせるのか、大変興味があります。

 

第一楽章冒頭のテンポは普通です。流石のロストロポーヴィチでも独自の色を出すのは難しいのかと思った途端、今までに増して激しさを増した音量に驚かされます。

 

そして例のクラリネットからバスクラリネット(オリジナルはファゴット)とどんどん音量お音程も低くなって突然の爆発が起こるところ、分かっているのに初めて聴いた時のように驚いてしまいました。

 

どうやらロストロポーヴィチはテンポは諦めて、一つ一つの音、そのバランスに勝負をかけたようです。そしてそれは成功しました。

 

こうやって聴いてくると、もうこの先は予想ができます。繰り返しになりますが是非youtubeで聴いてみて下さい。

 

これほど重量感を持ったチャイコフスキーは中々聴けません。これなら初期の交響曲も面白く聴かせてくれそうです。

 

またいつか聴いてみたいと思います。