今回はカラヤン/ベルリン・フィルによるモーツァルトのいわゆる後期交響曲のレコードを聴きながらカラヤンの指揮について書いてみたいと思います。

 

 

🔶カラヤンのやり方

 

カラヤンの演奏への考え方の一端を知る助けになる動画があります。シューマンの「交響曲第4番」レコーディング前のリハーサル映像で、元々は西ドイツのテレビ放映のため撮影され、このリハーサルとレコーディング本番で1時間半の番組になっています。

 

オーケストラはウィーン交響楽団。

 

オリジナルに英語の字幕を付けた動画があります。日本語のものが無いのが残念ですが時折分かる単語が出てきたりするので、全く無いより増しです。(誰か日本語字幕を付けてくれたら嬉しいのですが)

 

もう出だしから凄い。オーケストラが和音を鳴り響かせる出だし。カラヤンがタクトを振り下ろし、オーケストラが”バーン”と鳴ると直ぐに止めます。皆が一斉に弾き始めることで生まれるアクセントを嫌ってのことで、コントラバスが弾くのを聴いて他の人が弾き始めるといったようなこと(英語字幕なので細いところは間違っているかも知れません)を指示。カラヤンもタクトの振り方を変え、ゆっくり振り下ろします。

 

結果は直ぐ出ます。

 

そして、フルートが旋律を吹くところでコンサートマスターに「なぜフルートとコンタクトを取らない?」と言うシーン。

 

これは「フルートが聞こえるように弾きなさい」という意味なのですが、このお互いの音を聴くというは、正にカラヤンがベルリン・フィルに20年かけて教え込んできたことです。

 

小澤征爾だったともうのですが、カラヤンのベルリン・フィルのリハーサルで、ティンパニ奏者がリハーサル中に何か覗き込んでいるので、出番の無い時に雑誌でも読んでるのかと訝っていたら、それはその曲のスコアだったので本人に聞くと、「カラヤンはオーケストラに他の演奏者が何をやっているのか知っておくことを要求するんだ」と答えたそうです。

 

カラヤンは本番は暗譜で通しますが、リハーサルでも全て頭の中に入っているようで譜面を見ません。時折演奏を弾き始める箇所を指示するために何かを覗き込むような仕草をしますが、多分アシスタントが映像には映らないような位置でスコアを示しているのでしょう。

 

オーケストラの指示が徹頭徹尾、その弾き方に限られていること。これは凄いことだと思います。クーベリックのリハーサル映像の中で「ここは虚無なんだ」と言っているシーンを観て、「虚無」と言われた80名が皆自分と同じ感覚を持つと思っているのかこの人は、と唖然とした思いがあるのとは全く正反対でこれこそプロだと思います。

 

カラヤンの頭の中には自分の考える演奏がかっちりと出来ているのがはっきり分かります。もちろんそれは経験と共に微妙に変化はするのでしょうが。

 

小澤征爾とボストン響によるブラームスの「交響曲第1番」の演奏会にカラヤンが聴きに来ていて、演奏後に小澤に最初の第1小節から気になったところを、「あそこは指揮者の問題だ」「あそこはオーケストラに問題があった、指揮者ではない」と事細かに指摘されびっくりしたと話しています。

 

プロの将棋の棋士が対局が終わった後、最初の一手から淀みなく指し手を並べているのを見て驚くのと同じ感覚なのかも知れません。

 

ついでに書いてしまうと、小澤のやり方はもっと民主的でオーケストラ側からの意見も取り入れながら演奏を仕上げていきます。そしてカラヤンとの違いをこう語っています。

 

「カラヤン先生(小澤はいつもこう呼びます)は、ある楽曲のフレーズやその一連の流れがあるとすると、それをどんな風に演奏すべきかがはっきり分かっているが、自分にはそれが無い」

 

前置きが長くなってしまいましたが、リハーサルの冒頭から10分程度の動画を貼り付けておきました。

 

 

🔶カラヤンのモーツァルト

 

「交響曲第35番”ハフナー”」の冒頭の厚い響きから圧倒されっぱなしで、最後の「交響曲第41番”ジュピター”」まであっという間に3枚のレコードを聴いてしまいました。

 

モーツァルトを現代の大オーケストラで聴くなんて、という方もいらっしゃるとは思います。また、こんなピカピカに磨き上られたモーツァルトはモーツァルトじゃない、とは昔の一部の偏屈な音楽評論家たちが声高に言っていたことです。

 

流行りの”ひろゆき流”に言えば「それって、あなたの感想ですよね」。です。

 

こうやって細部まで読み込まれながらも、流れの良い堂々とした演奏の前に、これ以上何を求めるのか、と思います。

 

「交響曲第41番”ジュピター”」のフィナーレです。

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と、ここまで書いて例によってyoutubeでこの演奏の動画を探したら、何と見つかりませんでした。カラヤンの「第41番」というとウィーン・フィルのものばかり。

 

ベルリン・フィルとのモーツァルトはあまり人気が無いのかも知れません。

 

それでも、私は好きですが。