今回の”私の視聴室”はリヒテルの弾くベートーヴェンの最後の3つの「ピアノ・ソナタ」を取り上げます。
いつものように適当にyoutubeで音楽を流していたら、リヒテルの弾くベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第30番」が流れ始め、びっくりしました。
音源は「リヒテル・イン・ライプツィヒ」とあるように、1963年のライブ録音でベートーヴェンの「第30番」「第31番」「第32番」の他にブラームスやショパンも弾かれています。
🔶ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第30番」 リヒテル
ベートーヴェンの最後の3つのピアノ・ソナタである「第30番」「第31番」「第32番」と言えば、私にとって、それはゼルキンの弾くそれであり、晩年のベートーヴェンの精神の飛翔のような音楽だったはず。
しかし、リヒテルの弾く「第30番」は、地面にしっかり立って力強く、まるで「熱情ソナタ」のような生命力を持ったものです。とてもロマンティックな演奏でリヒテルにとってピアノを弾くということは、こういうことなんだと説得力のある演奏です。
第2楽章の深く沈み込んでいくような演奏には思わず聴き入ってしまいます。
youtubeでリヒテルを扱ったNHK-FMの昔の放送を聴いていたら、リヒテルの演奏会で花束を渡す役目に選ばれたピアニストの仲道郁代さんが、「リヒテルとは絶対に目を合わせないように、ステージから逃げてしまうかもしれないから」と事前に注意されていたという話をされていました。正にそんな感じの演奏です。
第3楽章はベートーヴェン得意の変奏曲。それぞれ見事ですが、特に最後の第6変奏の巨大さには驚かされます。
第6変奏をお聴きください。
🔶ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第31番」 リヒテル
ベートーヴェンのこの3つの「ピアノ・ソナタ」はそれぞれ別個の作品番号を持つものの、同じ時期にまとめて書かれています。
そのため、3曲の中間にあたる「第31番」は中間楽章的な意味合いがあると思ってましたが、改めて聴くとやはり十分説得力のある作品です。
第3楽章に素晴らしいフーガが置かれます。ベートーヴェンはこのフーガの途中途中に”疲れ果て、嘆きつつ””次第に元気を取り戻しながら”といった書き込みをしています。
🔶ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第32番」 リヒテル
ソナタ形式で書かれた第1楽章と変奏曲の第2楽章。ベートーヴェンにとって愛着のある2つの形式書かれた、ベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ」の最後を飾るに相応しい曲。
この二つの楽章をエトヴィン・フィッシャーは”此岸と彼岸”と例えています。
リヒテルは、ここでも無慈悲なまでに感情をぶつけます。
ゼルキンだってもちろん激しいところは激しく演奏したはずですが、そこには全てを赦したベートーヴェンの自由な精神が聴こえました。
リヒテルはどうでしょう?
この曲は是非全曲通して聴いて頂きてご判断下さい。
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ベートーヴェンの最後の3つの「ピアノ・ソナタ」の別の一面を見せられた感のあるリヒテルの演奏、聴けてよかったです。