今回の”私の視聴室”は映画を取り上げます。

 

いつもながら旧い映画ですが、「3月のライオン」。前編と後編の2本立てという贅沢な作りですが、見応え十分でした。

 

 

将棋好きなので、この映画も前に観たと思うのですが改めて観てこんなに面白い映画だったんだと思った次第。

 

とにかく、演技上手の俳優が揃っています。一人でも中途半端な役者がいると、途端に興味が薄れてしまう映画が多い中、久々の傑作だと思います。

 

🔶この映画の見どころ ⚠️ネタバレ注意

 

将棋の話なので、将棋のルールはともかく将棋界のことを知っていた方が「あれは、あのプロのパロディか」と楽しめる部分もあるかと思いますが、将棋の手筋を表す画面は一つも無いので、将棋の知識は知っているに越したことはないという程度です。

 

ただ、将棋のプロになるためには奨励会という育成機関があることだけは知っておいた方がいいと思います。

 

映画の中で、有村架純演ずる幸田香子が棋士である父親に向かって、「なぜ、奨励会を辞めなければいけないの」と激しく詰め寄るシーンがあるので、奨励会の仕組みを知っておかないと訳が分からないでしょう。

 

将棋のプロになるには奨励会に入って、そこで四段まで昇段するとプロとして登録されます。しかしプロになれるのは年間4人という超狭き門なのです。その上26歳という年齢制限があって26歳までにプロになれなければ強制退会となります。

 

父親が香子に退会を促したのは、プロになれる見込みが無い以上、早く別の人生を歩ませた方がいいという親心なのです。

 

しかし、香子と弟は将棋の道が閉ざされたことで人生の暗部を歩むようになります。

 

桐山零にとって幸田家は暗部になって行きますが、反対に陽の光のように明るく輝いているのが川本あかり(倉科カナ)、ひなた(清原果耶)、モモの3姉妹が暮らす家。

 

映画ではこの3姉妹についてかなり詳しく描かれ、ひなたのイジメ問題、かつて家族を捨てた父親との問題に関し、桐山零も翻弄されていきます。

 

将棋の騎士たちも、佐々木蔵之介、伊藤英明、等々魅せてくれます。後にドラマ「石子と羽男」でペアを組む中村倫也も親しい騎士として出ていますが、ここではちょい役といった感じです。

 

出てくる俳優陣を並べるだけでも大変という、豪華な映画です。

 

前に事前に知っておきたい知識として奨励会を挙げましたが、将棋界にあるタイトルについても最低限の知識はあった方がいいでしょう。

 

この映画が作られた当時、将棋界には名人、竜王を始めとする7つのタイトルがあり羽生善治が前人未到の七冠同時制覇を成し遂げています。ただ現在ではもう一つタイトル戦が増え、8つのタイトルがあり、現在は藤井聡太が八冠全てを保持しています。

 

映画では、一人神格化されて描かれるのが加瀬亮演ずる宗谷冬司という棋士で、七冠を保持していますが、登場するのは対局シーンのみでその人物像は詳細には描かれず、別格な存在であることが強調されます。

 

宗谷プロ絡みで個人的に面白いと思ったシーンは、佐々木蔵之介演ずる島田プロとのタイトル戦で、激闘の末、島田プロが投了してしまいますが、実際には逆転の手があったことを見逃してしまっていました。終局後、宗谷が静かにその手を指し示す所。

 

現実の将棋でも、藤井聡太が同じように相手に逆転の手を示したことがあり、その読みの深さに多くの人が驚かされています。

 

映画は、最後桐山五段が宗谷とのタイトル戦に挑む所で終わりますが、ここがこの映画で唯一残念だったところ。

 

どこか山のお寺でしょうか、カメラは対局場に向かう桐山五段を追い続けまます。そして宗谷が待つ対局場へ入り、着座、激しい戦いを予感させながら映画は終わります。

 

しかし、実際にこんなことはありません。もちろんそんなルールはありませんが、礼を重んずる将棋界にあってタイトル保持者よりも後に挑戦者が着座するなどいう非礼な行動は見たことがありません。

 

演出上のことでしょうが、最後の最後で作り物めいてしまったことが残念でした。