今回の”私の試聴室”は、これぞバーンスタインというレコードを聴いていきます。
バーンスタインと言えば、マーラーであり、ウィーン・フィルと盛んに演奏していた頃のベートーヴェンなどのドイツ物の印象が強いですが、彼は根っからのアメリカ人。アメリカものにこそ、彼の魅力が最高に発揮されていると思います。
今回聴くのは、
・ガーシュイン 「パリのアメリカ人」、「ラプソディー・イン・ブルー」
・グローフェ 組曲「グランド・キャニオン」
・バーンスタイン 交響的舞曲「ウェストサイド物語」
が入ったお得な2枚組のレコード。全てニューヨーク・フィルの演奏です。
早速順番に聴いていきます。
🔷ガーシュイン「パリのアメリカ人」 バーンスタイン/ニューヨーク・フィル
ガーシュインは今でもスタンダードして残る数々のヒット・ソングを書いたほどの人ですから、クラシックっぽい音楽を書いてもとても分かりやすい。
ガーシュインの音楽はシンフォニック・ジャズと言われます。
この曲は奇しくもニューヨーク・フィルからの委嘱により1928年に発表されています。
ガーシュインが過ごしたパリの紀行文のような音楽で、パリの雑踏を思わせる音楽や、彼がパリから持ち帰ったタクシーのクラクションを使っていたりと楽しい曲です。
途中に入るトランペット・ソロのジャズっぽい香りも素敵です。
ガーシュインは本格的なクラシック音楽を書きたくて、ストラヴィンスキーやラヴェルらに教えを乞おうとしますが、ストラヴィンスキーからは”にクラシックでそんなに稼げる方法を教えて欲しい”と言われたとか、ラヴェルには”すでに一流のガーシュインなのだから二流のラヴェルになる必要ない”と断られています。
次に聴く「ラプソディー・イン・ブルー」は管弦楽への編曲はグローフェに頼んでいますが、この「パリのアメリカ人」はガーシュイン自らが管弦楽化しています。どこか素人っぽさを感じさせる単純な音楽ですが、それが分かりやすさにつながっています。
🔷ガーシュイン「ラプソディー・イン・ブルー」 バーンスタイン/コロンビア交響楽団
冒頭のクラリネットのグリッサンドからもうジャズっさ満載です。そしてピアノが活躍しますが、これはバーンスタイン本人が弾いていて、この録音の聞き物です。
バーンスタインはもちろんクラシック畑の人ですから、どんなにジャズっぽく弾いてもどこかクラシックを感じさせる見事な演奏です。
こちらはコロンビア交響楽団ですが、「パリのアメリカ人」とオーケストラが違うことは聴いただけでは判然としません。ジャズ風の音楽の作りが理由かもしれませんが、コロンビア交響楽団は常設のオケではなく、団員は都度集められますが、この時はジャズ畑の人を集めたのかも知れません。
「パリのアメリカ人」のところでも書きましたが、この曲の編曲はグローフェが行なっています。グローフェもクラシックから出発したもののジャズ・バンドの編曲を行なっていた人です。
次に聴く「グランド・キャニオン」は彼の作品です。
🔷グローフェ 組曲「グランド・キャニオン」 バーンスタイン/ニューヨーク・フィル
題名だけは知っていましたが、この2枚組のレコードを取り出す時は、いつもガーシュインだけ聴いて満足していましたので、殆ど聴いていません。
今回の試聴の目玉とも言えます。
第1曲「日の出」
第2曲「赤い砂漠」
第3曲「山道を行く」
第4曲「日没」
第5曲「豪雨」
の5曲で構成されている標題音楽で全曲が続けて演奏されます。
第1曲「日の出」では静かな音楽から段々と音量を増し、鳥の鳴き声が聞こえてきます。どうしてもリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」と比べてしまいますが、シュトラウスのアルプスの山々に徐々に陽の光が当たっていく様子がリアルに伝わってくるような臨場感は残念ながら感じませんでした。
第2曲「赤い砂漠」は刻々と変化する砂漠の様子が描かれているとのことで、色彩豊かなオーケストレーションが施されています。実際の砂漠を知りませんのでそのイメージは湧いてきませんが。
第3曲「山道を行く」ではソロ・ヴァイオリンのカデンツァが入り、その後ロバにまたがって山道を進様子が描かれます。最後に聴こえてくるチェレスタのカデンツァは山小屋から聞こえてくるオルゴールだそうです。
構成感がしっかりしている音楽です。
第4曲「日没」、日没と言われればそうか、という感じです。グローフェのオーケストレーションの単調さを感じてしまいます。
第5曲「豪雨」を最後に持ってきたのはもちろん全曲のクライマックスという意図でしょう。グローフェもウィンド・マシンを導入し、最大の力を込めて書いたようです。
嵐の音楽と言えばお手本のようなベートーヴェンの「田園」があり、ウィンド・マシンはすでにシュトラウスの「アルプス交響曲」で使っています。残念ながら嵐の音楽に一石を投じるには至りませんでした。
こう書いてしまうと、身も蓋もありませんが”一度聴けば十分”という感じでした。
🔷バーンスタイン 交響的舞曲「ウェスト・サイド物語」
あの有名なミュージカル「ウェスト・サイド・ストーリー」がバーンスタインの作だと知った時は驚いたものです。
確かバーンスタインは他にもヒットしたミュージカルがあったはずで、それで随分稼いだはず。本人は多分マーラーのような作曲家権指揮者になりたかったようですが、それは終生かなわぬ夢となってしまいました。
この交響的舞曲が面白くない訳がありません。
オーケストレーションもガーシュインやグローフェとは一線を画す本格的なもの。残念なのは、このミュージカル最大のヒット曲「トゥナイト」が聴けないことくらい。バーンスタインの指揮でこれを聴くためには全曲版を聴くしかありません。
それでも「Some Where」の美しいメロディが壮大に鳴らされる箇所など涙が出そうなほどの感動があります。
「体育館のダンス・シーン」のマンボのノリの良さ、そしてミュージカルに登場する両軍団の戦闘場面の音楽等、聴きどころ満載です。
この曲の前では流石のガーシュインも霞んでしまいました。