今回の”私の試聴室”は、つい最近もやった”バッハの素晴らしさ”ということで進めていきたいと思います。

 

無伴奏チェロのための経典のように扱われる「無伴奏チェロ組曲」を聴いていこうと思います。聴くのはバッハの「無伴奏チェロ組曲」といえばカザルスの名前が筆頭に上がります。

 

そのカザルスのレコードを聴いていきます。

 

 

🔷バッハ「無伴奏チェロ組曲」

 

バッハは長い間忘れられた作曲家だった事実は、私たちを驚かせます。メンデルスゾーンがそれが書かれた100年も後に「マタイ受難曲」を蘇演したことで現在の地位を獲得したのですが、それまではバッハは単に教育用の音楽を書いた人くらいの認知度でした。

 

「無伴奏チェロ組曲」は更に180年以上後に、パブロ・カザルス少年がバルセロナの楽器店で偶然その楽譜を手に入れた時からその運命が変わります。

 

カザルス少年は10年以上の歳月をかけこの曲に取り組み、公開演奏に踏み切ります。それ以来名曲の仲間入りを果たした訳です。

 

🔷カザルスの弾く「無伴奏チェロ組曲」

 

「無伴奏チェロ組曲」は6曲から成り、それぞれレコードの片面を占有する長さがあります。カザルスのこのアルバムには解説書の中に全曲の楽譜が収められているのですが、その譜面を見ると、同じ無伴奏でも「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ集」とは決定的な違いがあります。

 

ヴァイオリンの方で多用された重奏(二つ以上の弦を同時に弾くこと)がほとんど使われず、使われたとしても和音を鳴らす時だけ。

 

これはチェロという楽器の制約上仕方の無いことなのですが、殆ど単音が連なるだけで30分近くの曲を聴かせるというのは大変です。

 

個人的に「無伴奏チェロ組曲」はバッハの作品としてそこまでのものとは感じられないのは、そこにあります。

 

今回は”バッハの素晴らしさ”ということで進めている訳ですが、本音を言えばカザルスの素晴らしさを訴えたいというところです。

 

この録音はモノラルですが、楽器一つなので特に問題を感じることはありません。かえって音像が一箇所に固定されることの方が好ましく感じます。

 

「無伴奏ヴァイオリン」をヴァイオリニストたちがこぞって録音したがるように、この曲は著名なチェリストは皆録音しているのでは無いでしょうか。

 

私は聴いていないので、想像で書いてしまいますが、この曲をロストロポーヴィチで聴きたいとは思いません。カザルスの思慮深さを感じる演奏にこそこの曲を聴く意味があるように思えます。

 

カザルスで聴いていると、一曲一曲がどうのこうのというよりその瞬間瞬間のチェロの響きに心が奪われてしまいます。

 

「オペラ」の3枚組は聴き通せないのに、カザルスの3枚組はいつの間にか聴き通してしまいました。

 

素晴らしいレコードです。