”この曲にはこのレコード(CD)”、といったお気に入りが何枚かありますが、今回紹介するアラウのピアノ、デイヴィス指揮のドレスデン・シュターツカペレのベートーヴェンはそんな一枚です。

 

 

「ピアノ協奏曲第5番”皇帝”」、「第4番」が入っています。

 

🔸ピアノ協奏曲第5番”皇帝”

 

 CDをかけると、いきなり「皇帝」の冒頭のオーケストラがバーン!と鳴り、一瞬間を取っ

 てピアノの堂々たるアルペジオが鳴らされると、部屋の空気が一変します。

 

 もちろん「皇帝」は誰の演奏で聴いても同じ始まりをする訳ですが、部屋の空気が変わっ

 たと感じるまでの演奏はそうそうありません。

 

 コリン・デイヴィスという指揮者はベルリオーズの「レクイエム」やシベリウスの「交響

 曲」で聴かせてくれた”骨太”という言葉がピッタリするような華がありながら重厚な指揮

 ぶりが良かったですが、このベートーヴェンではオーケストラがドレスデン・シュターツ

 カペレに変わったことでよりドイツ風の響きを得ています。

 

 フィリップスの録音が、いつもながらまた素晴らしい。

 

 どこか古武士のような響きのアラウのピアノがいい。この響きはベーゼンドルファーだと

 思い込んでいましたが、解説には楽器について触れて無いのでちょっと調べてみたらスタ

 インウェイだったのでちょっと驚いています。

 

 アラウのピアノはベーゼンドルファーと錯覚するような、ちょっと輝きを抑えた響きがし

 ますが、デイヴィス指揮のドレスデン・シュターツカペレの響きとマッチしています。

 

🔸ピアノ協奏曲第4番

 

 「皇帝」よりもこの曲の方が好きという人も多いそうですが、納得の名曲です。

 

 ピアノの弱音から始まるユニークさ。

 

 ベートーヴェンは”始め方の大家”といっていい程、印象的な曲の始まりが多いですが、こ

 の「第4番」の始め方は、「ヴァイオリン協奏曲」をティンパニの微かな連打で始めたの

 と双璧といってもいい位の霊感豊な始まり。

 

 前にベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」は後進にその地位を奪われた、というよう

 な感想を書きましたが、「ピアノ協奏曲」の方は、この後続々と名曲たちが誕生してきた

 訳ですが、その中でも揺るがない地位を確保し続けていると思います。

 

 名曲を名演奏、名録音で楽しめるCDでした。

 

実は今回はアシュケナージとショルティ/シカゴ響によるベートーヴェンの「ピアノ協奏曲全集」のレコードについて書き始めたのですが、参考までにとアラウとデイヴィスのCDを聴いて内容を変えました。

 

 

ショルティは色々聴いていきますが、聴いた当初の感動が続かない指揮者という印象です。つまり繰り返し聴こうと思わない。

 

この人のレコードで決定的に趣味が合わないなと感じたのが、ウィーン・フィルとワーグナーの序曲や前奏曲と「リング」からの抜粋を入れたレコード。ショルティには同じウィーン・フィルと録音した有名な「リング」の全曲レコードがあって、悪い訳は無いだろうと買った二枚組のレコードでしたが、その余りにも平坦な演奏に逆に驚きました。

 

この録音当時、アシュケナージはまだ30歳になっていない若さで倍以上年上のショルティに付き従うという形だったと思いますが、そのリリックなピアノは、もちろんアラウとは全く違いますが、独特な瑞々しさがあります。

 

ショルティはいつもながらの即物的な指揮ぶりながらシカゴ響は意外と充実した響きを聴かせてくれます。これはアシュケナージのピアノが指揮者やオーケストラにインスピレーションを与えたのかも知れません。

 

話は逸れますが、ビートルズに「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」というジョージの曲があり、ビートルズにしては珍しく長いギター・ソロがあります。ジョージはそのソロのため、友達のエリック・クラプトンを招いていますが、録音のためクラプトンがスタジオに入ると、ビートルズの面々にもいつもと違う緊張感があったそうです。

 

クラプトンは当時三大ギタリストの一人として名を馳せていましたので、まだまだ若いアシュケナージとは状況が違うかも知れませんが、似たようなことがあったとしか考えられない、ショルティの充実ぶりです。

 

全5曲、一気に聴いてしまいました。