バルトーク唯一のオペラ「青ひげ公の城」は一風変わったオペラです。
オペラというより劇音楽と言った方がいいかも知れません。
”青ひげ”伝説はヨーロッパではよく知られた話だそうです。
🔸バルトーク「青ひげ公の城」
登場人物は”青ひげ公”と家族を捨て彼の元に来た”ユディット”の二人だけ。ただ、オペ
ラが始まる前に”前口上”を語る語り手と姿だけ見せる青ひげ公の三人の前妻たちがいま
す。
青ひげ公の元に身を寄せたユディットは、青ひげ公の再三の説得にも応じず城に留まる
ことを望みます。
窓も無く暗く湿った城、城内には7つの扉が閉まっていてユディットをそれを開けるよ
う青ひげに頼みます。
後悔しないか念を押しながら青ひげは次々と部屋の鍵をユディットに渡します。
オペラはこの7つの扉の中の様子を描きながら進行します。
”血に染まった拷問道具がたくさんある拷問部屋”
”武器庫、そこにある武器にも血がついている”
”宝物庫、立派な王冠も血に染まっている”
”花園、花の根本も血に染まっている”
”バルコニーから広大な領地が見渡せる、雲は血の色をしている”
”涙の溜まった部屋”
最後の扉、青ひげはここだけは開けさせまいとするが、ユディットに負け鍵を渡す。そこ
には青ひげの前の三人の妻たちが(おそらく歳を取ることなく)生かされている。
第7の扉を開けた時、他の6つの扉は順に閉まっていき、ユディットは王冠を頭に頂き三
人の前妻たちと一緒に部屋の中に入っていく。そして扉が閉まる。
不気味な物語ですがバルトークの付けた音楽が素晴らしく聴きごたえ十分です。音楽的に
は眼前に広がる広大な領地を表した第5の扉(部屋)にクライマックスが置かれます。ち
ょっとリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」の”頂上にて”みたいなところがあ
ります。
バルトークは元々「ツァラトゥストラはかく語りき」を聴いて作曲家を目指した人です。
二人の歌手も歌うというよりは語るといった感じです。
レコード一枚に収まる長さというのも聴きやすいかと思います。話自体は一風変わってい
ますが、面白いですよ。
3枚のレコードを聴いた感想です。
🔸ショルティ/ロンドン・フィルのレコード。
青ひげ公:コロシュ・コヴァーチ(バス)
ユディット:シルヴィア・シャシュ(ソプラノ)
このレコードを基準に聴き比べていきます。
🔸ブーレーズ/BBC交響楽団のレコード。
青ひげ公:ジークムント・ニムスゲルン(バスバリトン)
ユディット:タティアーナ・トロヤノス(ソプラノ)
ブーレーズの演奏には前口上が入っていません。前口上の有無で演奏の価値が変わると
は思えませんが、あるべきものはあった方がいい。
ユディットはショルティ盤のシャシュは若々しいシャシュとブーレーズの妖艶さを感じ
させるトロヤノス。物語としてはシャシュの方が合ってると思いますが、トロヤノスの
方が好きです。
指揮はブーレーズの劇的な演奏の方が良かった。
🔸サヴァリッシュ/バイエルン国立管弦楽団のレコード。
青ひげ公:ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
ユディット:ユリア・ヴァラディ(ソプラノ)
前口上無しです。
ヴァラディとフィッシャー=ディースカウの情感豊かな歌はショルティ盤、ブーレーズ
盤を遠く引き離します。
夫婦ならでは、なのでしょうか。
サヴァリッシュは何を聴いても素晴らしい指揮者だと思いますが、ここでもバイエルン
国立管弦楽団のドイツ風の重厚な響きを活かした素晴らしい演奏を聴かせてくれます。
第一におすすめしたい一枚です。