カルロ・マリア・ジュリーニ。
もう亡くなっていますが、若い頃にオペラから離れてしまったイタリア人指揮者としても有名でした。
特に晩年にベートヴェン、シューベルト、ブルックナー、マーラーといった作曲家の最後の交響曲を続けて録音し、その重厚な演奏に感銘を受けた方も多いのではないでしょうか。
ジュリーニは2005年に亡くなっていますが、1991年から1993年にかけてミラノ・スカラ座とベートーヴェンの第1番から第8番の交響曲を録音しています。残念ながら第9番を録音することなく亡くなってしまいましたが、この第9番にはベルリン・フィルとの名盤が残されています。
🔸交響曲第7番
スカラ座とのベートーヴェンはこの「第1番」「第7番」のCDが皮切りでした。
これから今回は「第7番」を絶賛する訳ですが、実はスカラ座とのベートーヴェンはこの
1枚しか買っていません。
聴いた当初は、「いい演奏なんだろうけど取り立てて騒ぐほどでもないかな」程度の認識
しかなかったのが理由です。
あれから30年近く時がたち、私もその分歳をとった今改めて聴いてみて、その歌に満ち
たジュリーニの演奏に感動しきりです。
ジュリーニのこの録音がこの曲のベストとまでは言いませんが、フルトヴェングラーやカ
ラヤン、そしてカルロス・クライバーとは全く違ったアプローチを聴かせてくれます。
フルトヴェングラーたちの演奏は、ワーグナーが「舞踏の聖歌」と呼んだ、その流れの中
に含まれるそれぞれ個性豊かな演奏ですが、ジュリーニの演奏の根本は、
「歌」です。
そしてジュリーニは弦楽部、特に内声部がクリアに聞こえるよう管楽器を抑え気味に演奏
させます。
ベルリン・フィルやウィーン・フィルの木管だったら、ここぞとばかりに輝かしい響きを
聴かせたでしょうから、ジュニーニがスカラ座を選んでのは正解でした。
内声部をクリアにといってもバーンスタインのように「ほら、ここにこんな素晴らしいパ
ッセージがあるよ」といったわざとらしさは微塵もなく、ベートーヴェンが譜面に書いた
通りに普通に、但し気持ちを込めて、弾かせているだけです。
ベートーヴェンは「第3番」のフィナーレでも素晴らしい弦楽部を書いていますが、この「第7番」のフィナーレもそれに匹敵する、あるいは凌駕するほどの素晴らしい弦楽部にな
っています。
フィナーレは、「舞踏の聖歌」はどこへやらまるでブルックナーのように一節一節が耳に
入ってくるような遅めのテンポで始まりますが、その効果は絶大で内声部の動きが明確に
聞こえてくるため、曲に奥行きが備わってきます。
ジュリーニはヴァイオリンを両翼に配置しますが、「第7番」を演奏するためには必須の
配置だと思います。コーダに入って同じパッセージをヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが
受け渡し始め出すところからがこの曲の白眉、最後はファーストとセカンドだけがお互い
が追いかけるように交互に弾き、ついにはファーストとセカンドが合奏する時の感動!
スコアを写真に撮ったので分かりにくいかもしれませんが。
ジュリーニの采配はここで最高潮に達します。
よく聴いてみて下さい。ここには「第9」を先取りしたようなコーラスが聴こえてくるか
のようです。
そしてジュリーニは最後の和音を重厚な最強音で締めくくります。
第4楽章で弦楽の追っかけが始まる少し前から。PC等のスピーカーで聴くと木管が強目に響きますが、実際はもっと落ち着いた音色です。