有名な録音。

ことによったら一番有名かも知れない。

 

ベートーヴェンの「交響曲第3番”英雄”」の1944年のライブ録音盤。

フルトヴェングラーは生前販売を許可しなかったが、死後奥さんが許可した。

 

ここではフルトヴェングラーの特徴であるテンポの変化が特に顕著に現れる。音楽に勢いが増すところではテンポを速め、ゆっくりしたところでは落とすという具合だが、曲想にマッチしているため聴いている人の感動を呼ぶ、という感じかな。

 

当時は私もこのレコードを聴いて興奮しまくったものだ。

 

今は、こういったテンポを動かすやり方は好きじゃない。

フルトヴェングラーなら後年のウィーン・フィルとのスタジオ録音の方が数倍も優れていると思うし、”英雄”の録音としても最高峰に位置すると思う。

 

レコードを買わないと好きな音楽が聴けない時代、レコード評論家と称する輩がのさばっていて、例えばウラニア盤などを激褒されたりすると、こっちはそれに惑わされてしまっていた。今考えれば彼らもレコード会社の方を向いていたに過ぎないんだが。

 

一度はかかる麻疹のようなものだったのかも知れない。

 

久々に聞いてみる。

 

第一楽章からテンポの動きが煩わしい。

1952年の堂々とした響きが、ここには無い。

 

このレコードはステレオでは無いが、そこはあまり気にならないし、音も流石に古いがそれでも聴きにくいということはない。

 

第二楽章”葬送行進曲”の沈み込むような音楽は、好きな人にはたまらないんだろうな。

1944年といえばドイツの敗戦が色濃くなってきた頃じゃないだろうか。

フルトヴェングラーはそういう思いを演奏に込めているのかも知れない。

 

第三楽章、立派だ。

スケルツォということもあってテンポの動かしははほとんど無い。トリオも堂々としたものだと感心していると最後のところで大きくテンポを落とされてがっかり。

 

第四楽章、当時興奮のるつぼに巻き込まれた楽章。

オーボエのソロが出る直前の間の長さが天才的。これ以上長いと音楽にならない寸前の長さ、素晴らしい。当時は気がつかなたかったが1952年盤でもこうだったろうか?

コーダに入る直前グッとテンポを落とす。いよいよコーダ、バイロイトの第9は、やり過ぎたコーダが全体をダメにしてしまっているが、ここはインテンポながら強烈な音響で、これはこれでアリかと思う。

 

生で聴いたら名演として記憶に残ったはず。

やっぱりレコードにするべきじゃなかった、フルトヴェングラーはそれを分かっていたんだと思う。

 

何度も聴くべき演奏じゃないと感じました。