「今回はチャイコフスキーの最後の交響曲、『交響曲第6番”悲愴”』です。」
「”悲愴”というのはチャイコフスキー自身の命名ですが、第四楽章が”標題音楽”であ
ると語っていたり、その意味については『今は話せない』と語っていたりで、この曲
の解釈について多くの人の好奇心を掻き立てています。
また自身で初演を指揮した9日後に亡くなっていることもこの曲の内容への関心を高
めています。」
「自殺説が出されたりしましたが、今は生水を飲んでコレラにかかったことが原因だ
と考えられています。」
「この曲にはそういった外野の騒ぎを跳ね除けるだけの魅力があります。それはもち
ろんチャイコフスキーの巧みな作曲技法によるものですが、それだけ技法を凝らして
いても自然な流れが損なわれていないのは特筆すべき点です。」
「とても面白い試みをしている箇所を一点だけ挙げておきます。下の譜面は第四楽章
冒頭の1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンですが、一つの旋律を交互に弾くように
書かれています。旋律になる音に赤丸を付けておきました。」
「2つの効果があります。一つ目は音楽的な意味で、この哀しげな旋律を交互に弾か
せることで感情を乗せにくくしています。後でこの旋律が再現される箇所では1STヴ
ァイオリンだけに弾かせてますので明らかに意図的です。」
「ステレオ効果です。そのためには1stヴァイオリンと2ndヴァイオリンを舞台の両
翼に置く形にした場合だけですが。」
「ただ、ステレオ効果についてはそれが上手くいったのかどうか。これから聴きます
が、第四楽章の冒頭、意識して聴いてみて下さい。」
ムラヴィンスキー指揮のレニングラード・フィルの演奏です。」
🎵(試聴中)
「最初から引き込まれてしまいました。第一楽章の不安と安堵が交互にやってくるよ
うな感じ。第二楽章のワルツですか?も第三楽章の勢いのある行進曲にもどこか哀し
げな影があって、特に第三楽章が劇的に終わって、第四楽章に入った時、『これは凄
い音楽だな』って感じました。」
「曲に夢中になって忘れそうでしたが、そこは注意して聴いてみました。注意しては
みましたがよく分かりませんでした。」
「実は私も同じなんですよ。左右のスピーカーが近すぎるせいかも知れません。生演
奏で聴くと分かるのかも知れませんね。」
「第四楽章の最後の方で静かになった時にドラですか?鳴りますよね。」
「そうよく分かりましたね。重要なポイントです。そこから音楽は様相が一変してド
ロンボーンが葬送の旋律を静かに吹いて、段々と演奏する楽器が減ってきて最後はチ
ェロとコントラバスだけになって余韻を残すように曲を閉じます。何とも素晴らしい
箇所です。」
「チャイコフスキー、ますます好きになりました。次の音楽も楽しみです。」
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