「今回はチャイコフスキーの『交響曲第5番』です。」

「前に聴いた『交響曲第4番』良かったです。」

「チャイコフスキーは6曲の交響曲を書いていて、最後の3つの交響曲の人気が高

   く、録音も多いですね。」

「どんな曲なんですか?」

「『第4番』の10年後に書かれていますが、同じようにメック夫人の庇護の元、作

   曲に専念できる環境にあって円熟期の作品と言われています。」

「先生、”言われています”って何か奥歯に物が挟まったような言い方ですね。」

「『第4番』は運命に抗うような明確なイメージを受けますし、『第6番』はチャイ

   コフスキー自身が”全く個人的な曲”と言ってるように”告別”の曲になっています。し

   かし『第5番』からはそういうメッセージ的なものが聞き取れないんですよ。」

「でも、名曲なんですよね。」

「何もメッツセージを読み取れることが名曲の条件ではないですからね。ただメッセ

   ージが分かりやすい『第4番』や『第6番』の方が好みってだけですけどね。」

   「この曲はムラヴィンスキーとレニングラード・フィルのグラモフォン盤で聴いてみ

   ましょう。」

 

🎵(試聴中)

 

「先ほど、グラモフォン盤とおっしゃっていましたが、何か理由があるんですか?」

「それまでソ連の偉大な指揮者ムラヴィンスキーの音楽を聴くチャンスはほとんど無

   かったんですが、彼らがヨーロッパ公演を行った機会にグラモフォンが急遽録音を決

   行したんです。この曲はウィーン・フィルの本拠地ウィーン・ソフィエンザールで録

   音され、ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルの実了を思う存分西側に知らし

   めた記念碑的な名演になっています。」

「確かに、すごく立派な曲って感じを受けました。」

「ムラヴィンスキーのチャイコフスキーは主情を挟まない厳格な表現になっていま

   す。特にこの『第5番』はお気に入りだったんじゃないでしょうか。」

「そうなんですか?」

「確認した訳ではないんですが、第一楽章に急激なクレッシェンドをする所がありま

   したよね。」

「はい、同じ音型の所で何回かありましたが、迫力ありましたよ。」

「ここはムラヴィンスキー独自の表現で、他の指揮者では聴けません。こういった所

   にムラヴィンスキーのこの曲に対する愛情を感じるんですね。」

「曲に対する愛情ですか。失礼ながら写真で拝見するムラヴィンスキーさんには似合

   わない言葉ですね。」

「ムラヴィンスキーのリハーサルの厳格さは”伝説的”とも言われてますが、人を魅了

   するユーモアの精神も持ち合わせていたと言われます。」

「伝説的な厳格さってすごいですね。」

「単に厳しいだけなら”伝説”にはなっていないと思います。素晴らしいエピソードが

   あるので引用してみます。

   【ムラヴィンスキーはオーケストラのメンバーが完璧だと思っても満足せずに、家で

   スコアを研究し尽くし、メンバー全員にぎっしりと書き込まみで埋まった楽譜を配布

   した。通しリハーサルの日は何度も何度も繰り返し細かい要求に応えなければならず

   体力的に厳しかった。忘れられない一日となった。最後の通しリハーサルのときはあ

   まりにも完璧で信じられない演奏となり、そのクライマックスではまるでこの世のも

   のではないような感覚に襲われた。しかし、最も信じ難いことは、ムラヴィンスキー

   がこの演奏の本番をキャンセルしてしまったことであった。その理由は「通しリハー

   サルのように本番はうまくいくはずがなく、あのような演奏は二度とできるはずがな

   い」というものであった。】。」

「すごい話ですね。」

「音楽家って興味深いエピソードが多いですよね。」

「次回の曲も楽しみにしてます。それと面白いエピソードも。」

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「この記事が新たな出会いのきっかけとなれば幸いです。」