「クラシックはこれを聴け」、今回はバルトークのオペラ「青髭公の城」です。

 

バルトークはクラシック音楽の本流からは少し離れたところに位置しますが、その楽曲には独特の孤高さがあり、そう言った点ではベートーヴェンを継ぐ作曲家とも言えると思います。

 

「青ひげ公の城」はバルトークが遺した唯一のオペラです。一幕もので独特の響きを持った音楽に聴き入ってしまいます。

 

バラージュ・ベーラの台本によるオペラですが、その元ネタは”青ひげ伝説”でヨーロッパではよく知られているようです。一般にはペローの書いたおとぎ話集「マザー・グース物語」の中にあるものが、もっともよく読まれています。

 

ベローのおとぎ話の大体の内容は、

「騎士ウラールは大金持ちで、豪しゃな城を持っていたが、その青いひげのため気味わるがられていた。貴族の娘バンドールは彼の7人目の妻となった。結婚して一ヶ月たった日、青ひげは突然旅に出る。その時彼はバンドールに家の鍵束を渡し、奥の一室だけは絶対に開けて見てはならないと言い渡す。夫の留守中、家中を見たバンドールは最後の一室も見たいという誘惑に勝てず、鍵で開けてしまう。その暗い部屋の中には、女たちの屍体があり、そこらが血にまみれていた。彼女はそれが青ひげの手にかかって殺された彼の妻たちであることを知る。青ひげは旅から帰って、鍵に血がついていることから彼女が部屋を開けたことを知り、彼女をも犠牲にしようとする。そこへ彼女のふたりの兄が助けに駆けつけ、青ひげを倒す。そののち彼女は青ひげ公の財産を相続し、再婚する。」

 

といったものですが、このオペラの台本を書いたバラージュ・ベーラでは青ひげ公の7番目の妻の名はユディットになっていて、青ひげ公は旅に出ることなく、結末も変えています。

 

歌い手は、ユディット役のソプラノと青ひげ公役のバス、それと最初だけ登場する語り部だけです。とにかく音楽の素晴らしさには感銘を受けると思います。

 

話の筋に従って場面を紹介していきます。演奏は、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(ユディット)、ジョン・トムリンソン(青ひげ)、サンダー・エルス(語り部)、ハイティンク指揮のベルリン・フィルで、ポイントのみの紹介です。

 

オペラが始まる前に「吟遊詩人の前口上」があります。オペラのあらすじには触れず、観客は日常とは異なる空間に導かれていきます。

 

幕が上がると、そこは大きな円形のゴシック風の広間、左手に急な階段があって、上方の小さい鉄のとびらに通じている。階段の右手の壁に七つの大きなとびらがある。そのうち四つは観客席の正面、三つはずっと右手のにある。明かりの入る窓はありません。

 

続いて”青ひげ”と”ユディット”の会話になりますが、こんなやりとりがあります。

 

(青ひげ)「さあ着いたぞ。ごらん、これが青ひげの城だ。おまえの父親の城のように輝いてはいないが。ユディット、おまえはそれでもわし

      について来るのか。」

(ユディット)「ついていきますわ。青ひげよ。」

(青髭)「あの警鐘の音が聞こえないか。おまえの母親は喪服をつけ、父親は剣を腰につるし、おまえの兄は馬に鞍を置いている。ユディッ

     ト、おまえはそれでもついて来るのか。」

(ユディット)「ついていきます。青髭よ。」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(青髭)「ユディット、やはりおまえは許嫁者の城に行った方がいい。そこでは、白い壁にばらがからみ、瓦屋根に日の光がきらめいてい 

     る。」

(ユディット)「わたしを苦しめないで、苦しめないで、青ひげよ。ばらもいらない、日の光もいらない。いらない....、いらない.....、いらな

        い。」

 

そして、とうとう扉の閉まった部屋を次々に開けていきます。

 

青ひげから鍵を渡されたユディットが最初の部屋を開けます。

(青髭)「何が見えるかね。何が見えるかね。」

(ユディット)「たくさんの鎖や剣、くぎが突き出ている杭や、まっかに燃えている鉄の串......。」

(青髭)「ここはわしの拷問部屋なのだ。」

(ユディット)「あなたの拷問部屋はおそろしい、青ひげよ。おそろしいわ、おそろしいわ。」

(青髭)「こわいのか。」

(ユディット)「あなたの城の壁は血だらけよ。あなたの城は血を吹いている。血だらけよ。」

 

(ユディット)「ごらんなさい。ごらんなさい。もう夜があけるわ。どのとびらも皆あけなくちゃいけないわ。」

 

青ひげから次の部屋の鍵をもらって、扉を開けるユディット。

(青髭)「何が見えるかね。」

(ユディット)「たくさんの残酷なおそろしい武器、さまざまなものすごい戦いの武器。」

(青髭)「ここはわしの武器庫なのだ、ユディット。」

(ユディット)「どの武器にも血がこびり付いているわ、戦いの道具は血にまみれている。」

 

(青ひげ)「では、あと三つの鍵を渡そう。」

 

ユディットが次の扉を開ける。

(ユディット)「おお、たくさんな宝物。たいへんな宝もの。」

(青髭)「ここはわしの城の宝物庫なのだ。この宝ものはみんなおまえのものだ。」

(ユディット)「宝石に血のあとがあるわ。一番りっぱな王冠にも血がついている。」

 

 

彼女は突然落ち着かなくなり。第4の扉を開ける。

 

(ユディット)「おお、花だわ。花園だわ。かたい石の壁の奥にかくれていたのね。」

(青髭)「ここはわしの城の秘密の庭なのだ。」

(ユディット)「この白ばらの根もとに血がついているわ、この花園の土は血に染まっているわ。」

 

(青ひげ)「ごらん、城の中が明るくなってきた。さあ第五の扉を開けるがいい。」

(ユディット)「ああ!」

 

ここで音楽は最高潮の盛り上がりを見せます。まさに広々とした領地を見渡している様子が伺えます。リヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」でも登山者が頂上から眼下に広がる景色を見渡す時に聴かせる音楽も堂々としたものですが、バルトークのこの音楽は表現が難しいですが一段格上の音楽のように聴こえます。

 

(青ひげ)「見てごらん。これがわしの領地なのだ。」

(ユディット)「あなたの国は美しいわ。大きいわ。」

(ユディット)「空の雲は血のように赤いわ。あれはなんて雲なんでしょう。」

 

(ユディット)「まだ二つの扉が閉まっているわ。あの二つの扉も開けて。」

(青ひげ)「なぜ、見たいのだ。」

(ユディット)「あけて、あけて。」

 

鍵を渡されてユディットが6番目の扉を開ける。

(ユディット)「静かな白い湖が見える。何一つ動かない白い湖が。」

(青ひげ)「涙だ、ユディット、涙なのだ。」

 

いよいよこのオペラのクライマックス。第七の扉を開けるシーン。

(青ひげ)「最後の扉はあけないぞ。わしはあけない。」

(ユディット)「青髭よ。わたしをかわいがって。ほんとうにわたしを愛しているの、青ひげよ。」

(青ひげ)「おまえはこの城の光明だ。接吻しておくれ、そして何も聞くな。」

(ユディット)「青髭よ、教えて、わたしの前に愛した人のことを。」

(青ひげ)「ユディット、愛しておくれ、何も聞かないで。」

(ユディット)「第七の扉をあけて。わかっているの、青髭よ。第七の扉の奥にかくされているものが。武器には血がこびりつき、一番りっぱ

        な王冠は血にまみれ、花園の土は血で染まり、空の雲は血のように赤かった。わかっているの、青ひげよ。白い涙がだれのも

        のだったのか。あのへやの中では今までの女たちがみんな、殺されているのだわ、血にまみれて。あのうわさは本当だったの

        ね。あのひそひそばなしは。」

(青ひげ)「ユディット。」

(ユディット)「いまわたしは、はっきり知りたいの。さあ、第七の扉をあけて。」

 

ユディットが最後の扉を開けると、第六、第五の扉が次々と閉まっていく。そして第七の扉からむかしの女たちがあらわれる。王冠をいただき、豪奢な衣装を着け、宝石を身に飾り立てた三人の女たちである。

 

(青ひげ)「むかしの女たちを見るがいい。わしの愛した女たちを見るがいい。」

(ユディット)「生きている。生きている。この人たちは生きている。」

(青ひげ)「第一の女を見つけたのは夜明けだった。」

(ユディット)「ああ、わたしよりきれいだわ、わたしよりもりっぱだわ。」

(青ひげ)「第二の女を見つけたのは真昼だった。」

(ユディット)「ああ、わたしよりも美しいわ、わたしよりもりっぱだわ。」

(青ひげ)「第三の女を見つけたのは夕暮れだった。」

(ユディット)「ああ、わたしよりも美しいわ、わたしよりもりっぱだわ。」

 

青ひげはユディットの前に立つ。第四の扉が閉まる。

 

(青ひげ)「第四の女を見つけたのは真夜中だった。」

(ユディット)「青髭よ、やめて、やめて。」

 

青ひげは、第三の扉から、王冠と夜会服と首飾りとを取り出す。第三の扉が閉まる。

 

青ひげが夜会服をユディットの肩にかける。

「星のように輝くその夜会服はもうおまえのものだ。」第二の扉が閉まる。

青ひげが王冠をユディットの頭にかぶせる。

「ダイヤモンドの王冠もおまえのものだ。」第一の扉が閉まる。

青ひげが首飾りをユディットの首にかける。

「わしの一番大事な宝もおまえのものだ。」

 

(ユディット)「青髭よ、いりません、いりません、ああ、青ひげよ、やめて、やめて。」

(青ひげ)「おまえは美しい、美しい、たぐいなく美しい。おまえは一番美しい女だ。」

 

ふたりは互いに見つめ合い、ユディットは光の流れに沿い、ほかの女たちのあとを追って、第七の扉へ入っていく。扉が閉まる。

 

(青ひげ)「もういつまでも夜だ.........夜だ..........夜だ...........。」

 

さて、今まで書いてきた概要を参考にして全曲を通して聴いてみて下さい。少しでも話の進み具合が分かるようにフィルム動画がありましたので、それを紹介しておきます。

 

最後までお付き合い、ありがとうございました。