「神に必要なのはまず、情報管理のツールだよネ。神はすべての生きているモノの気持ち、行動を知り、管理し、適切な介入を行う。人間だけでなく、虫、チョウチョの類まで含めたすべてを、だ。しかも、地球だけでない。この全宇宙の生命すべてについてだ。生きているモノだけではない。無数にある天体の運行も管理している。並みの情報管理ではできない。“全知全能”などと、スローガンだけで誤魔化せるものではない。」日照は尊いものに打たれたような、厳かな表情になった。日雲はゴクリと唾を吞み、日照の手を強く握った。「人間が想像するようなやり方では神様の頭はパンクしてしまうだろう。そこで使われるのが…」日照はテレビを指した。「アレなのだ…」「えっ、コンピューターのようですが」「そうなのだ…アカシャというそうだ…」「宇宙というのは結局のところ、デジタルな世界なのだそうだ。0と1から成る二進法のコンピューター言語がすべてを支配しているそうだ。その総元締めがアカシャだそうだヨ。神様は基本、通常の仕事はアレに一任している、だからこそ神としての仕事ができるわけダ…」日照は一人納得の表情を浮かべた。「これはと思った大きな物事に対してだけ、自身の判断で介入する。それ以外はアカシャが処理する。アカシャとは宇宙のクラウドであり、すべての生命体はアカシャからダウンロードされたデータに基づいて動く。このデータは他の生命体に転送されることもある。“輪廻転生”というヤツだ」「一人一人の人間にダウンロードされたデータのことをアカシックレコードというのダ。人間の運命、生涯の転変というのは、基本、このアカシックレコードに最初から組み込まれている通りなんだネ。ちょっと味気ない話だが。修練を積んだ人間になると多少このレコードの内容をいじることもできるらしい。“神の介入”を仰ぐ能力、と言っても良いのだろうネ。」「なるほど…」日雲もだんだんと感動の気持ちが強まってきた。

「これで終わりではない」日照はまた日雲を促してテレビに注意を向けさせた。「あの不思議な門がスターゲイトだヨ…」「スターゲイト…神秘的な名前ですネ」「うむ…アレの中に入ると何万光年、何億光年と離れた地点にも瞬時に移動できるそうだ。日本語で地球外転送装置、あるいは星間移動装置というそうだ。」日照は感動のあまり泣きそうになりながら言った。「異星人が製作したものもあれば、天然に存在する次元の狭間がゲイト化したものもあるそうだ。SFみたいな作り話ではない。宇宙は4次元球体における3次元的平面である、というのが実相だそうだ。人間が3次元として知覚しているだけで、実際は4次元空間の中に我々は存在していると言って良いのだ。そうなると、3次元空間とのあいだでひずんだ部分に裂け目があってもおかしくはないよネ」日照はニッコリとした。「そうしたポイントを利用したワープ航法、空間をクシャッと尺取虫のように畳む技法を用いれば、どんな遠くにも行けるのだ。つまり、スターゲイトに一歩入るとそこはワームホールなのだろう。この技術がなければ、神様は自分の意志を宇宙各地点に伝達できないよネ。アカシャからの指令がどんなに超高速であっても、この宇宙では秒速30万キロという光速以上の速さは出せないのだからネ。これが第2の神のアイテムなのだ」日照はトロピカルジュースを一気に飲み干した。

「そして、第3に必要なのが無線での情報伝達だ。生き物にも星にもケーブルが付いているわけではない。無線で情報を送信できなければアカシャのデータは生き物にも星にも入って行かない。そこで出てくるのが電線の類を一切要しない無線送電なのだヨ。この証拠は世界各地に存在していて、頂点がピラミッド型になった尖塔『モノリス』はその筆頭格なのだ。ピラミッドもまたしかり、だ。アカシャ→ピラミッドのキャップストーン→モノリス→モノリス、と情報は伝達される。その他の伝達経路も無論あるが、やはり地球ではモノリスなんだネ。ふーっ」日照は話し切った、という気持ちになった。

「第1にアカシャ、第2にスターゲイト&ワームホール、第3に無線送電、送信技術。これが宇宙全体の神の三種の神器なんだヨ。分かってくれたかな、日雲。これだけ宇宙の真理に近づける番組は、現代世界でこの番組くらいだヨ。全部見ると長すぎるから日戒クンにショートのイメージビデオをつくらせたわけなんだヨ」日照は穏やかに微笑んだ。日雲は日照の胸板に飛びついた。

「ありがとうございます、禅師。私は宇宙の真理に一歩迫れました。この知識は必ずや日照会の信者の役にも立つでしょう…」日雲はまたスマホをいじり出した。「あ、禅師。アカシックレコードのことを取り上げている教育関係の団体などもあるようです。アカシックレコードにつながるための講座も開設されているようですヨ。」日雲は勢い込んで日照の眼前にスマホを差し出した。「ナニ、ふーむ…いかん、いかんヨ、日雲。ずいぶんと高額ではないか。それに結局、“呼吸法”がメインだろ。これではヨガかアロマテラピーだヨ…呼吸を整えるくらいで神の道具に手を掛けられるわけがないダロ!千日回峰行くらいの習練が要るヨ」「ヘヘヘ」日雲は頭を掻いた。「さあ、我らの宗旨をさらに深めるためにも、今少しこの番組に没頭しよう。それにしてもオカルトまがいと見せて飛んだお化け番組だヨ!」日照はポンと膝を鳴らした。(続く)