「禅師、いつまでイワキに逗留するのですか?あまりに長い日数が経ってしまったようです…」日雲は呆れ気味に日照を睨んだ。

「フクシマ公は退去を迫ってきているのカナ?」日照はテレビを凝視していた眼を日雲に向けた。

「いえ、フクシマ公は風評が消し飛んだことに大喜びしていますから、禅師のことはなんとも…」「それなら良いではないか。ここの滞在費は公国持ちだからナ。あれだけの大仕事を成した当会に対する報奨と受け止めて、もう少しお邪魔しよう…」日照は再びテレビを凝視した。

「費用は公国負担かもしれませんが、会の信者が不安がっているようですヨ!」日雲は叫んだ。「もう遊びはそこまでにしてください」「日雲よ、このテレビは遊びにあらず。非常に重要な内容を含んでいる。製作は古いもので10年以上前だが、これを見落として生きていたとは忸怩たる思いだヨ」「日雲よ、君も横で共に視聴しよう…」日照は日雲を手招きした。日雲は日照が寝そべっている横に沿って寝転んだ。日照は日雲の手を握った。

「私が注目しているのは『古代の異星人』という番組なのだ」「禅師、それはオカルトではないですか?」「君はナゼこれをオカルトというのだ?」「いや、だって番組の雰囲気からして…」日照は少し身体を起こした。「それが良くないヨ、日雲。そういうのをレッテル貼りという。あくまでも内容次第、作品の質から判断しなければならない。この番組では神についての根本的な理解が問われているのだ。」「はぁ…」「その前提として、あるいは不可分の関係にあるものとして、宇宙の問題が取り上げられているのだヨ」

「宇宙というのはダークエネルギーが7割、ダークマターが2割超、元素は5%くらいのものに過ぎないそうだ…」「やや、やはりオカルト!」日雲は叫んだ。「引っ掛かったな、日雲。これは国立天文局のホームページに載っていることダ。」「え、そうなのですか…あ、ホントですネ」日雲はスマホで調べて膝を打った。「確かに!」「ハハハ。通説とオカルトの差異など、紙一重だ。権威ある学者なり国家機関が言っていればオドロキの新知識、それ以外が言えばオカルト、それだけのことだ。つまり、人間社会でのパワーゲームに過ぎないのだ。しかし、真理は権威とは関係ないからネ」「得心しました、禅師。しかし、それでもこの番組は…海がパカーンと割れた出エジプトやらロトの妻が塩の柱になったやら、処女懐胎やら…そういうのを真に受けて宇宙人にこじつけているだけではないですか?」「ナゼ真に受けてはならないのだネ?日雲クンは神を信じない人なのかナ?ショックだヨ」日照は日雲の手をより強く握った。「いえ、しかし、それらはあくまでも真理を示すための象徴的なお話でしょう」日雲は恐る恐る答えた。「たいていの人はそう言うだろうネ。なんと聖職者までをも含めて。が、考えてほしい。これらが象徴的な話、ものの例えに過ぎないのならば、神による天地創造、創世記はどうなるのカナ。創造の七日間は単なる神話なのカナ?」「いや、それはそんなことはないでしょう。現にこの世界はこうして“ある”のですから。」「そこだよ、日雲。神がこの世界全部を7日で造った、これほどの話を本当として信じ、神を敬うのならば、出エジプトなどなどは軽々と信じられなければならないはずだヨ。創世記に比べれば全然大したことない話じゃないか」「まぁ、そうも言えますネ…」日雲は何が何だか訳が分からなくなってきた。「じつは世の中の多くの人が自身の信仰をもち、神を信じているはずなのに、争いが止まず不安が収まらないのはこの辺に原因があるのダ。神を信じると言いながらどのエピソードも本当には信じず、例えとして受け取る。それでいて漠然と“神よ~!”と神だけを“本当に信じる”のだ。かなり自分を偽った精神状態だよネ。」日照は深く溜め息をついた。

ドーン!!テレビ画面いっぱいに古代異星人論者のダニエル氏の顔が大写しになった。「この人は敬虔なカトリック教徒だという。聖書に書かれている“神話”から逃げずに、本当に起こったこととして真面目に考えたのだ。それがこの番組というわけだ。だからこそ最高に面白いのだヨ、この番組は。私も宗教者として見習わなければ…、ダニエルさま~」日照はテレビに向かって叫んだ。「見ろ、日雲。通説が次々に覆っていくゾ」「この部分は君のような初学者にも見やすいよう、日戒に頼んでうまいダイジェストのイメージ映像にしてある…心で感じてくれ…」日照は瞑目した。プマ・プンク、ギョベクリ・テペ、オリャンタイタンボ…世界各地にある高度な古代巨石遺跡が次々に映し出されていった。「素晴らしいだろう。これが打製石器だの磨製石器だのしか使えなかったハズの古代人の手になるものカナ?」「いえ、とてもそうは思えないです。現代の技術、あるいはそれ以上の技術によるものでしょう」日雲もとうとう古代異星人論者の学説を認めざるを得なくなった。「そうなのだヨ。神話に出てくるような不可思議な話が本当の高度な古代技術だったと考えてはじめて、この現実と整合性が取れるよネ」「そうは言っても証拠不十分な面もあるようですが…」「日雲、この論者の方々は皆立派な研究室を構えていたり、国家予算をタップリ使えるような身分の方々では、ない。世界宗教の総本山や超大国の政府からマークされている状態で研究活動を続けているのだ。要求できる証拠の水準については多少ゲタを履かせてやらねばならないヨ。見ろ、ピラミッドの中にはかつて通電していた痕が残っている。プマ・プンクの石の切断面は電動工具でなければできないものだとデータが弾き出された!」日照の声はどんどん上ずって行った。「わずかではあるが、状況証拠に過ぎないモノではあるが、これらは“物証”だヨ。そして、古代異星人説に拠らなければこれらの建築は一切あり得ない、という裏側からの立証は、これをもってすでになされていると言って良いのだ」日照は一人感動に打ち震えていた。

「で、神のことだが」日照はウキウキした声で続けた。「ダニエル氏を見習おう。神という存在を実際的に考えよう。神が世界を創造し、すべての生命の、というより宇宙におけるあらゆる出来事、挙動を支配、管理しているとしたならば、神には何が必要カナ?」「なんでしょうか…」日雲は呆然として目が回りかけていた。(続く)