「ふぁ~、マクタンの夜明け、だナ。今日もまだ雪景色が美しいゾ」青木は大きく伸びをした。「さて、ウサギちゃんは沢山届いたカナ?」青木はウサギ海送の船員の顔を覗きこんだ。「長者、豊富に輸送されてきました…」船員は大量のケージを青木に見せた。「おお!ケージの中でも狭苦しそうに飛び跳ねているネ。良い、良いヨ…」青木はニンマリとした。

「クミ、それではよろしく頼むヨ。出陣だ!」クミは青木より一足早く起きて兵馬を整え、突撃できる準備を完了していた。「お父さん、見守っていてネ…けど、また兵を犬死させないか心配だワ」「うむ。そのことだが…大量に届いたウサギを最前列に立たせて前進してくれ!」「お父さん、ウサギは臆病な動物ヨ。戦争の役には立たないワ!」クミは真っ青になって青木を諫めた。「ふふ、良いのダ。とにかくやってくれ」「分かった」プオープオー。進軍のホラ貝が吹き鳴らされ、クミの一団はマクタン要塞を指して一路進撃を開始した。ヤー!槍を持った現地人兵士たちが勇ましく駆けて行った。

「ここら辺ネ、昨日の地雷原の辺りは」クミは少し足が震えるのを感じた…「あっ!」平原に大きく広がって疾駆していたウサギのうち、クミから見て左の方のウサギが次々に破裂していく。ドーン、ドーン。昨日の地雷炸裂のときと同じ鈍い音がした。雪原の中央から右を走るウサギは何事もないように走り続けている。「つまり、地雷が埋まっているのは左側だけなのネ。ありがとう、ウサギちゃん…」クミは白雪の上に真っ赤に染まったウサギの血だまりに軽く礼をしながら雪原の中央を進んだ。「皆、左には地雷があるワ。中央から右を走って!」兵士たちは今日は無傷のままマクタン要塞まで到達することができた。

「これがラプラプ王の居所なのネ」クミの顔に緊張が走った。「入り口はどこなのかしら…ちょっと、そこの船員!外周をずっと回って見てちょうだい!」「承知しました、将軍…」しばらくすると、船員は軽く喘ぎながら戻って来た。「将軍、この要塞の入り口は4か所あることが分かりました。その先がどうなっているかはよく分かりません。高低差の大きい側から観察するに、迷路のようになっているようです…」「迷路なのネ…」クミは困り顔になった。「お父さん、聞こえる?雪原を抜けたは良いけど、入り口が分からないのヨ」「ほう」指揮処の青木は左右に顎をさすった。「クミ、生き残っているウサギはまだいるよネ」「大半がいるワ」「ウサギたちを4つの門に行かせて、行動を観察させなさい」「分かったワ」雪原での作戦の成功があったので、今度はクミはあまり疑いを持たずに青木に従った。ウサギを放ちに各門に兵士が向かい、小一時間ほどしてそれぞれ戻って来た。「将軍、北のウサギは動きが鈍かったです!」「東もです」「西も鈍かったです」「なるほど…南門のウサギはどうだったの?」南門から帰って来た兵士は、自分だけが違うことを答えるのが気が引けるのか、ちょっと躊躇しながら「み、南のウサギは門前で盛んに土を掘ったり、いじったりしていました!」と答えた。「ふーん…お父さん、というわけなんだけど」「ほうほう。クミ、これは役に立つ観察結果だヨ。ウサギは草食動物なので、ナニか地上に良い食べ物などがないか探る癖があるのだ。人の生活臭が強いところではその癖は顕著に出る。つまり、南門がマクタン要塞でふだん使われている出入口であり、アトの3つは行き止まりのダミー門なのダ。お父さんは、個人的にそう思うヨ」青木は無線から滔々と語った。「分かったワ。それに賭けてみる。皆の者、南門から突撃ヨ!」クミは剣を振りかざして全軍を鼓舞した。「行くわヨ~」「ヤ~!」威勢の良いウサギ島兵が全力疾走で南門をくぐって行った。

「ギャー!」ほどなく最前列を走っていた兵士が数人バタバタと倒れた。要塞の中は道が複雑に折れ曲がっており、死角になっているところからマクタンの伏兵が矢を射かけたり、斬り込んで来たりした。「キャー、大変だワ~」「クミ、聞こえるか!」また無線から青木の声が響いた。「すまない。私が説明不足だった。要塞の中でもウサギを最前線に立たせなさい…それも特に耳の長いモノを選び抜いて、ナ」「なんで?」「要塞の中の潜伏兵がいかに訓練された精鋭でも、ウサギの耳は敏感にその気配を察知するのダ。ウサギに少しでも躊躇する素振りや後ろに戻ろうとする動きが見えたら、全軍盾で身を護るようにしなさい。そうすれば上手く進撃できるだろう…」「なるほど…さすがウサギの生態に詳しいウサギ長者ネ、父さんは…言う通りにするワ…」クミは一々指示を受けて行動するのが煩わしくもあったが、心底頼りになる父の存在を誇らしく思うのだった。(続く)