「まいどあり~」

「この温泉もだいぶ寂れてきたナー」

「もしもし」竜神温泉に旅の僧がやって来た。

「この温泉の権利を持っているのは、あなた方ですか?」

「そうですよ、温泉権は5人で持ってます」

「そんなに寂れた温泉なら、私に温泉権を分けてください、1人分で良いので」

「誰が得体の知れない旅僧に温泉権を渡すか!」「帰れ!」僧は叩き出された。

 

「とんでもないケチな奴らだナ、良し…」僧は竜神温泉の山の反対側に向かった。

「お願いします。ここのボーリングをしてください。」「どのくらいですか?」「深くです、ふか~く」

業者は思い切りボーリングした。ピュー!「湧きましたヨ」「ありがとう…」

 

僧の開いた温泉旅館は豊富な湯量で、泉質もさまざまな湯舟ができた。

「温泉って、けっこう繁盛するモンだナー」

「おい!」竜神温泉組合の5人が来た。

「お前が開業して以来、オレたちの湯が出なくなったゾ」「ここが原因ダロ!」

「いやいや、それは言いがかりですヨ。ここの掘削は私が独自にやったモノです。あなた方の温泉権を侵してはいないのデス」

「現に竜神温泉は枯渇した」「それならどうでしょう、私の旅館で働きませんか?」「えっ」「繁盛して人手が足りないので…」

「どうせ竜神温泉は寂れてる、でしょう?」「…」

5人は僧の旅館の従業員になった。

 

「こっちの風呂桶を全部洗ってください~」

5人はため息をついた。「トホホ。一国一城の主だったのが、雇われに転落したゾ」「悲しい」

「おや、また何かありましたか?」僧が歩み寄って来た。「悲しいんだヨ…今の境遇が」

「そうですか…それじゃあ、あなた方の竜神温泉の跡地を私が買い取りますヨ。一人100万円で如何?」

「100万!安過ぎる。買い叩きじゃないか」「もうこんな境遇イヤなのでしょう?」「…」

5人は100万×5人=500万円をもらって、僧の元を去った。

 

「あんな廃屋の跡地、どうするんですか?」

「じつはネ、あそこは竜神川の遊水地にする計画があるらしいんですヨ。暴れ川だからネ」

僧は跡地を1億円で公共事業用地として売却した。

「ところで、お願いがあるんですが…」僧は役場に掛け合った。

「遊水地はふだんは使わないでしょう。温泉客の暇つぶしに、遊覧船を出して良いですか?」

「良いですヨ。面白い見ものでもありますか?」

「グラスボート船にするんですヨ、湖底遺跡の、ネ」「湖底遺跡?竜神温泉のことですか?」

「違いますヨ」僧はかぶりを振った。「欲望の尽きない悪徳の街、ソドムの遺跡です」(完)