忘れないで



忘れないで



私を 忘れないで ―――――










『忘れな草』









『この花にはね、悲しい話があるんだよ。昔、あるところに仲の良い恋人同士がいたんだって。ある時女の人が崖の上に綺麗な花を見つけてね。とても欲しくなったんだけれど崖の上だから危なくて自分では取りに行けなかった。それを知った男の人が、自分が取ってきてあげようと言って崖の上に登って行ったんだ。危険な崖を何とか登ってようやくその花を摘んだ瞬間、彼は足を滑らせて、崖の上から落ちてしまった。落ちながらも彼は最後の力を振り絞って手に持っていた花を恋人のもとへと投げてこう叫んだんだよ。『僕を忘れないで』って。それ以来、この花は「忘れな草」と呼ばれるようになって、そして彼の最後の言葉がこの花の花言葉になったんだ。』




『ずっとずっと、一緒にいようね。』

『うん、ずっとずっと一緒にいよう。』

手を取り合い、頬を寄せ合い、ひっそりと、けれど固く固く誓う。

『約束だからな。』

『うん、約束だよ。』

穏やかに微笑みながら、けれど痛いくらい真摯な思いを込めて、約束を結ぶ。

お互いがいればそれでいい。お互いさえいれば他に何もいらない。


忘れないで。


離れないで。



ずっとずっと、ずっとずっと一緒にいたいんだ―――――。












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『忘れないで、忘れないで、私を忘れないで――――――』
忘れな草の花言葉が頭の中にこだまする。
『忘れて、忘れて、オレのことも何もかも全部忘れて、幸せになって―――――』  
『忘れないで、忘れないで―――――』
『忘れて―――――』
『忘れないで―――――』


頭が、痛い。
心が、引き裂かれそうだ。

遠くで誰かの泣き声がする。

誰?
君は誰?
なぜ泣いているの?
何が悲しいの?
泣かないで。
泣かないで、泣かないで、泣かないで―――。

痛い、痛い、頭が痛い、心が痛い、涙が止まらない。

僕は。
僕は、何か。
何か、とても。
とても、大切なことを忘れているんじゃないのか。
大切な、大切な、大切な人のことを忘れているんじゃないのか。

なぜ?
なぜそう思うのか。

わからない。
わからないけれど。
でも。

誰かの声がするんだ。
誰かが泣いているんだ。
誰かが呼んでいるんだ。

誰だかはわからないけれど。
わからないけれど。
わかるんだ。
僕の、
大切な、大切な、大切な―――――

君は誰?
忘れないでと笑いながら。
忘れてくれと泣きながら。
僕を抱きしめる君は―――――――だれ?


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