小学生の低学年の時、広場で父とキャッチボールをしたことがある。

生涯でただ一回だけだった。

グローブを買ってもらって半年ほど経った頃だ。

買いに行く父は、ファーストミットはどうだと聞いてきた。

私は、普通のでいい、と答えた。

今でも悔やまれる。

(友人が、兄貴のだといってファーストミットを持ってきた。ノコギリクワガタのようなその勇姿に私は惚れ惚れと見とれたものだ。)

私が暴投をして、追った父は球を逸した。

するとすぐさま父は後ろを振り向いた。

ははあ、野球をけっこうやったのだなとわかった。

すぐ振り向いてボールの行き先を見届けないと、捜すのに苦労するのを知っているのだ。

ひと汗かいて、草原の上、二人並んで、仰向けに寝転がった。

ひとは、空を見ることが、めったにない。

父がそう言った時の、雲の形を、私は今でもありありと覚えている。