ベネズエラを海上封鎖して出入りする石油タンカーを全て拿捕すると脅し、軍事介入をちらつかせているトランプ米大統領についてですが、ベネズエラが米国から油田を奪った! という、とんでもない主張をしています。
まずはトランプ大統領のSNSへの投降をご紹介します。
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ベネスエラは南米市場最大の艦隊に完全に包囲されています。それはさらに大きくなり、彼らにとって、以前見たことも無いような衝撃へとなるでしょう。ーそしてそれは 彼らが以前私達から盗んだ石油、土地、そして他の資産をアメリカ合衆国に返還するまで続きます。違法なマドゥーロ政権がこれらの盗まれた油田からの石油を使って、麻薬テロ、人身売買、殺人や誘拐に資金提供している。私たちの資産の強奪、そしてテロリズム、薬物売買、人身売買を含むたくさんの他の理由によって、ベネズエラの政権は外国テロ組織へと指定されています。それゆえに、今日、私はベネズエラに出入りする全ての制裁された石油タンカーの全面的かつ完全な封鎖を要求します。マドゥロ政権が弱体で無能なバイデン政権の間に米国に送り込んだ不法移民や犯罪者は ベネズエラや他の国へと送還されています。アメリカは犯罪者、テロリスト、他国による我が国への略奪、脅迫、損害を許しません。
同様に、敵対的な政権が私たちの石油、土地、他のどんな資産を略奪することを許しません。
これらは即時に米国に返還されなければなりません。この問題に関心をお持ちいただき、有難う!
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以上、ベネズエラが米国の油田を奪い、土地やその他の資産を奪った とトランプ米大統領は主張しているわけですが、このイチャモンの根拠というのを少し説明すると、今のニコラス・マドゥロ政権の前のウーゴ・チャベス政権の時に「油田や石油精製設備の国有化」が行われたことにあります。
ベネズエラの油田の開発をしたのは米国のエクソンモービルなどの石油メジャーだったのですが、ベネズエラ政府が資源や油田の支配を強化するために行った国有化によって、1980年代〜2000年代にかけて外国の石油会社が撤退した時期があります。
しかし、投資を行ったエクソンモービル等の取り分がゼロになった というわけではなく、下のような配分が行われたのです。
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トランプ氏が言っている「盗まれた」石油とは何なのか?
2007年2月28日、当時のベネズエラ大統領ウゴ・チャベスは、油田の国有化に関する法律に署名した。
同国で事業を展開するすべての外国企業に対し、合弁事業への参加が提案され、その合弁事業では少なくとも60%の株式が国営企業PDVSAに帰属することになる。
この大統領令は、アメリカの企業であるシェブロン社、コノコフィリップス社、エクソンモービル社、イギリスのBP社、フランスのトタル社、ノルウェーのスタトイル社に影響を与え、オリノコ川流域で開発中の油田の支配権を失った。
当時、外国投資家が一定の自治権を保持していたのは、オリノコ油田地帯の油田のみであり、法律が制定される以前から彼らはこの油田地帯で主導的な役割を果たしていた。1990年代、ベネズエラ政府はオリノコ油田の将来性が低く、多額の資本投資が必要と判断されたため、外国企業の参入を許可した。
しかし、徐々に大手外国企業がオリノコ油田の原油生産量を日量60万バレルまで増加させました。当初から、外国企業はPDVSAと共同でオリノコ油田における原油の探査、生産、そしてコストのかかる一次処理を行ってきた。
あるデータによれば、その後国有化された資産に対する前述の企業の投資額は少なくとも170億ドルに上るという。
外国の石油会社の主張の一部は、後にベネズエラ当局による直接的な金銭補償を通じて満たされた。
しかし、すべてが解決したわけではなく、問題はまだ完全に解決していない。一部の企業は依然として賠償を要求しており、外国の仲裁機関に訴訟を起こしている。
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そして国際仲裁委員会に賠償を要求していたエクソンモービルには16億ドルの賠償金請求が仲裁委員会から認められた という事例があります。
(上の記事のリンク元はこちら。記事の原文は英語で、上の写真は日本語に変換したものです)
しかし、ここからが大事なことですが、国際法上は 地下資源を開発したのが いくら外国企業であっても 所有者は その地下資源がある国のものです。
石油やガスの開発、掘削、精製設備の建造には多額の費用がかかるわけですから、欧米の石油メジャーが資金も技術も提供しないとベネズエラの現地の人たちだけで出来るわけがないのであって、それは中東の産油国でも 石油を開発したのは欧米の石油メジャーだけれども、途中で国営化されて、その国の人民が豊かな暮らしをできるように使われる という、全く同じ道をたどってきたのです。
それなのに、サウジアラビアやUAE、カタールなどの中東湾岸諸国で親米国家ならば、基地を置くのと引き換えに、国有化には大きな文句を言っていませんが、今でも目の敵にしているのは 反米国家のベネズエラとイランに対してくらいでしょう。
ここでイランの例をご紹介すると、イランでは1951年に民主的な選挙で選ばれたモサデク大統領という方がいました。その頃のイランは今のようなイスラム教の戒律に厳しい国家ではなく、まだ世俗的な国家でした。
このモサデク大統領は 富を国民に分配する為、イランの油田の国営化を打ち出したのですが、それが英米石油メジャーの逆鱗に触れ、クーデターを起こされたのです。↓はムハンマド・モサデク氏のwikipediaページの一部抜粋です。
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第二次世界大戦においてイランは、北はソ連、南はイギリスに占領され(→イラン進駐)、戦後もイギリスの影響力の強い政権が続き、アングロ・イラニアン石油会社(英語版)(AIOC)はアバダンの石油を独占し利益を独占、イラン国内に石油による利潤はほとんどもたらされない状態が続いていた。そのような中、以前から存在した石油生産の国有化案を民族主義者モサッデクは「石油国有化政策」へとつなげていった。
イギリスは懐柔案として「アングロ・イラニアン石油会社の利益をイギリスとイランが半々ずつ受け取る」という石油協定の改正を提案するが、モサッデクはこれをイギリスのイラン支配継続の意図をみて断固として反対した。石油国有化はイランの完全な主権回復を主張する運動のシンボルとして国民の支持を得て盛り上がりを増し、1951年の首相就任後に石油国有化法を可決させてアングロ・イラニアン石油会社から石油利権を取り戻し(イギリスのイラン支配の終結)、石油産業を国有化する。
そして、民主的に選挙で選ばれていたモサデク政権は わずか2年で米英によるクーデターで倒されます。
その後に米英が「操り人形」として連れてきたのが 日本では「パーレビ国王」という呼び名で知られる、シャーです。
この方はペルシャ王朝の王族の末裔ということで連れてこられて「皇帝」を名乗りましたが、実際は王族とは全く関係がなくて、国際政治アナリストの伊藤貫氏の話によれば、イラン軍で馬の世話をしていた人物ということです。
このシャーが米英の完全な言いなりで、権威主義的でイラン国民を弾圧し続けたので、それが宗教指導者のホメイニ師によるイラン革命につながります。
その後、イランは 皆さんもご存じの通り、世俗国家から宗教国家へと変わり、反米路線を今でも貫いている ということです。
このベネズエラとイランの例で分かるように、第二次大戦後、世界の国々が独立していった中で、独立後も米英石油メジャーが他国の資源を何十年も奪い続け、搾取し続ける というのは「新植民地主義」の理論であって、米国は「石油が盗まれた!」とベネズエラに対して文句を言っているわけですが、上にも書いた通り、地下資源は開発した石油メジャーの所有ではなく、あくまで地下資源が眠っているその国の資産ですから、トランプ大統領が 「エクソンモービルが開発した油田から出る石油やその油田そのものは米国の資産であり、ベネズエラが不法に奪っている」 というクレームは おかしい ということになります。







