最初にプラハの旧市街地広場に来たとき、えらく目立ったのが20人から30人くらいで単位となった子供たちの集団。
これは一目見て分かった。
学校の旅行だ。
ボヘミアの偉人ヤンフス像の鎮座するこの広場にもいくつかの集団があった。
カレル橋の上にも。
年齢からみると高校生らしい。
一塊の集団となって、あるいは列を作って歩いている。
中には教師らしき人、あるいはガイドらしき人もいる。
6月に入ったばかりの今の時期は、ヨーロッパでは学年末。
夏休みを挟んで学年が一つ上に行くその前だ。
また、今は本格的な観光シーズンでもない。
まだ少し早い。
ヨーロッパは秋はロマンチックだが、日が短い。
冬は当然のことながら昼の時間が少ないうえに寒すぎる。
従って今が学生旅行には適した時期なのか。
プラハ王宮内に入るとますます多くの集団とすれ違ったりする。
彼らを見ているといくつかの特色に気が付く。
まずは子供たちはほぼ現地のスラブ系白人。
異人種混合の雑多な感じは見られない。
単民族国家と言ってもよいような印象を受ける。
子供はその国の鏡なので、特色がよくわかる。
そして彼らの態度等は概しておとなしい。
行列は二列ではないが、黙って静かに落ち着いて歩いている。
ガイドや先生の説明などは聞いている子もいれば、別な方向を向いている子はいるが、ふざけていたりする者はいない。
服装はもちろん私服だが、男子は半ズボンにTシャツ、女子は太ももの露出する短パン。
スカート、Gパンはあまりいない。
ただこれはヨーロッパ、アメリカなどではどこでもそうだが女子の生徒が装飾品を身に着けるのは盛んだ。
ポニーテールの後ろ髪には色とりどりのシュシュ、長い髪には天使の輪っかカチューシャでとめ、蝶のとまるバレッタ、または装飾クリップ、三つ編みも多い。
耳たぶ、首、腕、指にはイアリング、ピアス、首輪、腕輪などのアクセサリー。
そしてサングラスと大人顔負けだ。
アメリカのハリウッド女優やセレブ達の濃いサングラス姿は写真などでよく見かけるが、すでにこのころからやっているのだと思った。
でもまださすがにタットゥーは見かけなかった。
靴は運動靴ないしはべた底のサンダルと地味目。
ヒールの高いものや上げ底の靴などは道路がすべて石畳のせいか、大人も含めて全く見られない。
金髪やカールをしたブロンドの髪をたなびかせている子も多い。
ポーランドに行っても多かった。
クラクフの旧市街地も学校旅行生であふれていた。
高校生ばかりではなく小学校でも修学旅行があるようだ。
小学校になると誰が児童で誰が先生かがすぐにわかる。
先生に何か話しかけている子。
行儀が悪い子なのか先生に手を繋がれて歩いている子。
これは日本の小学校ともそっくりだ。
小学生は歴史旧跡よりこうした物の中に入って遊んでいる方が楽しそうだ。
迷子にならないようにゼッケンをつけている学校もあった。
しかしこうした児童、生徒の列は一集団30人くらいで終わっている。
日本なら何クラスもあり、京都などではそれこそ7クラス、8クラスくらいがぞろぞろと列をなすのがふつうであるが、ここでは何故か集団が少ない。
ヨーロッパでは修学旅行がクラス単位で行われ、同じ学校内でもそれぞれのクラスによって行先や日程が違うと聞いたことがある。
クラクフの王宮前にもいた。
これは中学生みたいだ。
要するに小、中、高とすべてこの時期に修学旅行を行うということか。
ここで疑問があった。
これはチェコ、ポーランドの国内旅行なのだろうか。
或いは隣国へも含む旅行なのだろうか。
EU、シェンゲン協定圏内なら簡単に行ける。
言葉が若干わかりづらい程度である。
聞いてみればよかったが、高校生くらいになれば、英語は若干は話せるだろう。
学校教育で外国語は今は英語だそうだ。
16世紀まではここがポーランドの王宮であった。
ポーランドが中央部ヨーロッパの大国であったこのころの史跡は一番見せたいところだろう。
自国の名所旧跡を訪ね、先人の活躍の足跡や現代に伝わる文化を知るというのは、どこの国でも同じだ。
王宮の中庭。
生徒たちは一応はガイドの話を聞いているようだ。
高校生くらいになると誰が先生で誰が生徒なのか判別が難しくなる。
しかし一般に見た感じでは教師には中年の女性が多い。
男性教師はあまり見かけない。
東欧の中年女性だから太めの人が多いというのはここでも例外ではない。
子供たちはあんなにほっそりとしているのにどうしてだろう。
こうした様子は押しなべてどこの学校も同じだ。
このことからもチェコやポーランドの人間は結構真面目で、治安状況や社会の安定度ははその深層部においてこうだから、根本的に良いのではないかと思った。
子供は社会を映しており、そのいちばん深いところに存在している。
ザコパネにもいた。
でも他の場所より少ない。
ここはリゾート地だから歴史、文化の学習という観点からは、少し外れるのではないか。
さらにこの場所はザコパネの教会だ。
ケーブルカーで上がった景観の良い場所では全くいなかった。
私が泊まっていたクラクフの一泊5000円くらいのホテル。
三日目の夜8時ころ隣の部屋がかなりうるさくなった。
がたがたという音と話し声が聞こえる。
ひょっとしたらこれはあの修学旅行生か。
一晩中こうだったらいやだと思っていたらそのうちしなくなった。
もう寝てしまったのだろう。
寝るのが早かったのでよかったと思った。
がたがたという音はシャワーには行った時にその正体が分かった。
これはシャワー室のガラスの扉を開け閉めする時にでる音だった。
私の出した音も、隣には聞こえているだろう。
翌朝の朝食は、この修学旅行生であふれていた。
一般客と同じ朝食バイキングを食べていた。
生徒に話しかけると、得体の知れないアジア人の不審者のように思われるかもしれないので、ちょっと気がひける。
あっ、今気が付いた。
先生に話しかけて聞けばよかったのだ。