金沢の次は福井県へ。福井山中の永平寺近くの道の駅で泊まった後、福井市内へと向かった。
福井県には非常にたくさん来ている。
しかしそれも嶺南と言われる若狭地区が主で、嶺北の越前に立ち寄ったことはあまりなく、去年行ったのが初めてである。
福井県の農山漁村の郷土料理に指定されているのは、越前そばとサバのへしこである。
しかしここには第3の伝統料理がある。
それはソースかつ丼。
ソースかつ丼は考案者の高畠氏が、ドイツでの修行ののち大正年間に東京早稲田大学近くで店を開いたのが最初と言われている。
その後関東大震災で壊滅した後、福井市で『ヨーロッパ軒』という名の店を開いた。
確かに名称も大正ロマンを感じさせるクラシックである。
大正年間、すなわち今から100年前に始まったものは、立派な伝統料理である。
江戸時代の野菜類が中心の質素、低カロリーの伝統料理に対し、現代に通じるものがある西洋料理の要素を日本に定着させたその意義は大きい。
その前にソースかつ丼は、焼きそば、焼うどんなどと並ぶB1グランプリの定番料理で、全国各地にいろいろなソースかつ丼がある。
今まで食べたことがあるものとしては、名古屋の味噌カツ丼、長野県の駒ケ根ソースかつ丼、福島県会津若松のソースかつ丼、岡山のデミグラカツ丼がある。
その他にもまだ食べたことはないが、北海道根室、兵庫県加古川、群馬県各地などにたくさんある。
福井ヨーロッパ軒には支店が十いくつあるが、ここはその一つと思われる。
店の前には説明の看板が置いてあった。
カメラレンズの中央が曇っていたらしく、肝心なところの映りがあいまいである。
ソースの味と衣によく職があるそうだ。
ここで注文するものは基本のカツ丼に決まっている。
始めてきたここで、例えばいくら好物だとはいえ、一番値段の高い大ビーフカツ丼を注文する人がいたとしたら、その人の気がしれない。
3種盛りスペシャルカツ丼ならまだよいだろう。
カツ丼にご飯、みそ汁がついているセットメニューにした。
一般的なカツ丼は衣の厚いとんかつに玉ねぎとともに、だし汁で卵をとじて煮たものであるが、ここはかなり違うようだ。
卵とじや千切りキャベツなどがない。
とんかつがそのまま置いてある。
見た瞬間あれっと思った。
これはひょっとしたらパン粉で包んで揚げたものではなく、形態的にはてんぷらではないか。
食感もそのような感じがする。
しかし説明書を読みると初代が作ったものは、パン粉を細かくして豚肉に包んだものだと書いてある。
ちょっと想像とは違うトンカツであった。
米は福井県が発祥のコシヒカリ使用。
正に特色のある郷土料理である。
でも何故このやり方が日本標準のカツ丼にならなかったのだろうか。
今の標準カツ丼は必ず最初に考案した人がいるはずだ。
こうしたことはラーメンにもカレーにもある。
このカツ丼が福井の郷土料理にとどまり、最初に考案したものにもかかわらず全国に普及しなかったのには何かの理由があるはずだ。
一般的カツ丼は親子丼の作り方と似ているので、日本人にはそのほうが親しみやすいのかもしれない。