大丈夫大丈夫
大きな声の看護婦さん
沈み切った私たちの空気を
ほうきでちゃっちゃと掃いてくみたい

すっかり軽くなってしまったとはいえ
それでも起こしたり座らせたり
向きをかえたりはたいへんでしょう
痛がるし気もつかうだろうし

ありがとうありがとう
なにもかも自分でしないと
気が済まなかったあのひとが
なんかいもそういって

大丈夫大丈夫
明るい声の看護婦さん
なんどもなんどもそういって

看護婦さんが行った後
あの人はすこし嬉しそう
ありがとうありがとう
あなたが私たちを支えています
 
 
君が言うようには
かなしみはわかちあえない
むしろ ×人数分のかなしみを
思わなくてはならないのです
 
 
 
「ありがとう、ありがとう
 私の娘もね、去年の24日に亡くなったんです
 きょうはきてくれてありがとう
 ほいて、すんませんけど、どちらさん?」


あなたのこどもです
それに24じゃなくて今日
 
 
電話なんかかけてきて
こっちが心臓止まりそう

前の電話は5年くらいまえの
印鑑持ってこいとかそんな話

親父の時も姉ちゃんの時も
何にも言ってくれんかったやん

いまはおちついてる
何かあったらまたかける

って
そんなに悪いの?
 
自分より不器用な人間は
そうそういないだろう

と思っていたら身近にいた

病室がわからなくて帰ったなんて
吹き出しちゃう
子供か

でもね
長い間
私はあなたを冷たい人だと思っていたのだけど
訂正します
ちっとも落ち着かないあなたを見たから

母はきっと
あなたの名を呼ぶでしょう
期待はずれの私ではなく

母をたのみます
 
 
ハイビスカスはたわたに咲いて
そしてあなたは居なかった

きゅうにばっと起きあがって
やっぱり生きることにするって
いままでのは なしって

あなただったら言いそうな気がするけどな
きれいな病院でいいね
親父のときと大違い
 
ハイビスカス咲いてたよ
言うの忘れた
 
 
しにたい ってことばが
どんなにひとをかなしませるか
きょう みをもってしりました

どうかしなないで
そうのぞむことは酷ですか

痛いのはあなただものね
てのひらからこぼれていくのを
ただ だまってみているだけ
わたしの番がきたのでしょう
いままでしあわせすぎたから
わたしはこれから失ってゆく