仕事の後にまた同僚と軽く飲みに行った。 

場所は金曜の夜と同じバー。

バーで対応したバーテンに聞かれた 

「金曜日は楽しかった?」 

あの忙しい夜に覚えていたらしい。

飲み物のお釣りと一緒に電話番号を滑り込ませてくる。

知らない振りして財布につっこむ。


ストレートのウォッカを何杯か空けた頃

旦那から電話が来た。 

どうやら近くにいるらしい。

彼が合流した頃には軽く酔っていた。


バーに並んで立つ。

 

「酔っているのか?」

酒を飲んで酔っ払って何が悪い、

なんて屁理屈は通じない。


「まだ月曜日だぞ」

ほらその目、私を黙らせようとする目


バーの向こうにいる彼が視線を向ける。

薬指の指輪は飾りじゃない。

旦那に気付かれない様に

軽く肩をすくめてウィンクしてみせる。

彼もウィンクしながら首を傾げてみせる。

小さな背徳は心地がいい。


家に戻ってまたボトルに手をかける。

あきれた旦那の視線を無視して

琥珀色の飲み物をお気に入りのクリスタルのグラスに注ぐ。


思考のしっかりしないこの時間が一番幸せ。

熱い液体が喉をつたっていって

そのまま身体の一番奥に届く気がする。


持て余した身体の熱と未消化な感情の残った心

私にはいつだって行き場がない。






仕事の後に同僚と飲みに行った。

最近いつも飲みすぎてしまう。


酔いを感じ始めた頭と流行の音楽、金曜日の夜はみんなはしゃいで見える。


そうするべきではなのを知りながらグラスを空にする。

何もかもがおかしくなってくる。

いろんな感覚が麻痺していくのがわかる。


時計の針が進んでいく。 終電の時間が近づく。

バーを出て駅に向かう交差点で立ち止まる。

私は本当にあの電車に乗りたいんだろうか。


そのまま街の雑踏に戻ってしまうにはあと少し酔いが足りなかった。




人を本気で好きになった事ありますか。


不意にされた質問。

それまでそんな事考えた事もなかった。


私が今までの人生で本当に愛したのは一人だけ。

もう随分昔の事の様な気がする。

幼かったし経験もなかった。 

あったのは恥ずかしい程の一途さだけ。


その恋が終わってから少なくない数の人達と関係した。

経験だけは増えていった。

いろんな事を覚えていろんな物を失くした。

数年ぶりに再会したあの人はいい女になったと言った。

乱れたベッドの上に横になる私を見下ろしながら。

家族の待つ家に帰る支度をしながら。


胸に感じた小さな痛みはきっと昔の気持ちの欠片。

痛みを無視して微笑む術を私はとっくに学んでしまった。


恋しさに泣く夜はもう来ない。

抜け殻の方がこの世の中は生きやすい。






出張に出たその日に義理の母が怪我をした。
転んで腰骨を骨折してしまったらしい。
出張から戻るもう手術も済み退院していた。 この国では怪我も病気もしたくない。

旦那は男ばかりの3人兄弟。結婚しているのは旦那のみ。
土曜日にお見舞いとお風呂を手伝う為に義母の家に行く。

彼女はとても私に良くしてくれる。
よくある嫁と姑のトラブルとは無縁。 お互いが良くも悪くも個人主義なのだろう。
私と旦那の問題を知ってはいるけど口には出さない。

家族で団らんして彼女のお風呂を手伝った。
旦那と義兄の3人で軽く飲みに行き、電車で1時間の道程を帰宅する。

信号が変わりかけた横断歩道をふざけて笑いながら二人で走る。
不意に強く握られた手を引き寄せてポケットに入れる。

一瞬昔に戻った気がした。
飽きられてしまったならいっその事捨てられてしまいたい。
おもちゃ箱の中で取り出されるのを待つ様な
そんな惨めな時間を過す位なら手放されてしまう方がマシ。
でも彼は所有にこだわり、所有の為に私を手放さない。

何の為に私が必要なのか 私に何を望んでいるのか

きっと一人になりたくないんだろう
私の心はとっくに一人なのに

君は強いから、この台詞は数え切れない程聞きました。


人に強いと言う時は大体その人の希望が入ってます。

強い女は都合が良い だって守らなくってすむのだから。


人前で泣くのが嫌い 泣いても何も変わらないから。

喧嘩で泣くのも嫌い 卑怯な気がするから。


両親が呪文の様に言いました

「アナタハツヨイコダカラ」

愛した彼が言いました

「キミハツヨイヒトダカラ」


みんなそうして私を強くしてくれるのです。

だって強い子じゃない私は私じゃないのですから。

いつの間にか強い私が私を乗っ取ります。

弱い私は望まれません。


涙の行き場がないので代わりに夢の中で泣きました。

夢の中では私は私でいる必要がないのです。

大きな手が助けてくれそうな、そんな所でいつも目が覚めます。

結局その手をつかめる事などないのです。


朝日が昇ったら少し腫れた瞼にアイラインを太めに引き

何もなかった顔をして外に出ます。

弱い私は要らないのです。







この国は私の国ではないけれど

住んでいる以上帰国と言う事になるのだろう。

飛行機が着地する瞬間に軽い頭痛がする。


税金を納めて住んでいても結局は外国人。

時間のかかる列に並ばされる。

熱望して住んでいる訳でもないのに

住んでいる理由を尋問される事に覚える不愉快は

きっと何年住んでも消える事はないんだろう。


不愉快な空港の後は不愉快なホテルまでの道のり。

夕食を結局食べそびれて夕食の代わりにお酒を飲む。

ホテルのバーに女が一人、別に真新しい事でもないのに

やっぱりいつもの視線とアルコールに後押しされた誘いは

いつも私をウンザリさせる。


押し入ってくるほどの勇気もなくあわよくばなんて言う

情けない誘いに乗るほど私は孤独を悲しんでもいなければ

それ程酔えてもいない。

一時の誘いに乗れるほど酔えていたならいっそ楽なのに。


大人3人でも楽に寝られそうなベッドに一人で横になる。

体の感じる物寂しさと同時に不思議な安堵を

感じながら眠りにつく。


明日からまたオフィスでの日々が始まる。



目に弱い。 意思の強い目が好き。

あの人の目はとても強い鋭い目。

最初に会った夜から好きな目だと思った。

秘めたものがある、言葉の要らない目。


触られて押し倒されるのを望んでた。


熱い息が耳にかかる。

頭の中が痺れるのがわかる。


欲情の香りがする。




ちょっと飲みすぎました。

飲み過ぎないように赤ワインを飲んだけど結局飲み過ぎ。

やっぱり開放感のある状態で自制をするのには

私の意思は弱すぎる様です。


出張もそろそろ終わり、あと数日で日々の現実に戻ります。

今日は船の上で食事です。

酔った所で欲情の捌け口もなく持て余すだけ。


欲求不満という言葉は好きではないけれど

Desperateな自分を一人ホテルの部屋で鏡を見ながら自覚する。


裸で映った自分の姿は目を反らせたくなるほど醜い