2023年11月、KANが亡くなった。KANといえば「愛は勝つ」というイメージが一般的だ。もちろん、「愛は勝つ」についての思い出もあるのだが、今回はこの歌について書こうと思う。この歌は、「愛は勝つ」の次にリリースされたシングルであったが、「愛は勝つ」がヒットしすぎたために隠れてしまったようである。生前のKANはこの歌を嫌っていたという話をインターネット上で目にしたことがある。確かに、歌詞は明らかに「愛は勝つ」の路線であるし、「愛は勝つ」にあったストレートさは少しぼやけてしまっているのは否めない。売り上げも「愛は勝つ」と比較すると、どうしても芳しいものではなかった。それでも私は「愛は勝つ」以上にこの歌が好きだ。


 歴史はつくられてきた ぼくなんかが知らないところで
 未来を夢見るなら最初に 目の前の岩を取り除くことから
 すぐに始めよう 見えなかった道がまっすぐにのびてるはずさ


ここまでは「愛は勝つ」の歌詞と(メッセージ性は)大差ないだろう。ところが、「愛は勝つ」と決定的に異なるのはこの後の歌詞である。


 考えが甘かったみたい くねくねと曲がって見えるよ
 思ったより遠い道のり ひとりでずっといるとつい弱気になる


なんと、歌詞に登場する人物(おそらく男性)は一度追い詰められている。「愛は勝つ」はひたすら誰かを励ます歌であったが、この歌は「考えが甘かった」と予想外の出来事に心が折れそうになっている。ここがポイントだと思う。「愛は勝つ」は名曲だが、「信じること」を続ければ「必ず最後に愛は勝つ」などということは、現実においてまずありえない。しかし、「考えが甘かった」から、予想外の出来事が起こって「弱気になる」といった出来事は多くあるはずだ。私にとって、人間関係がそれである。


私の人間関係においてのモットーは、「誠実かつ優しく、人を拒絶しない」であった。それで高校生まではなんとかなってしまった。問題は大学である。大学では「誠実」にやってるつもりがただの空回りで意味がなかった(むしろマイナスであった)とか、知り合いに「優しく」した結果、それにつけこんで授業に出ずに講義のレジュメだけもらおうとする輩であったと分かったとか、どうしても無理な人がいて「ブロ解」してしまったとか、1年生の間だけで色々あった。もちろん私自身も人間関係を築く上で、誤りやタブーを犯していたのだろうと思う。その時私は「考えが甘かった」と思わざるを得なかった。中森明菜の「十戒」ではないが、優しいだとか、下手に出るだけでは良好な人間関係を築けないと知った。


そして、ずっと「ひとり」でこそなかった(「ぼっち」は幸いにして回避できたのである)が、「ひとり」の時間も多かった。その時、私は非常に弱気になっていたと思う。


 だけどいつかはたどりつけるはず
 光のように 絶対に
 

そう、この歌は「愛」を歌っているが、愛以外の人間関係にも言えることだろう。

もちろん、「絶対に」などということはないが、「いつかはたどりつける」という希望を持つことは非常に大切なことのように思う。いつかは上手くいくという希望がなければ、やはり心を保たせるのが難しくなると思う。どこかで「上手くいく」という希望が人間には必要だと思う。今の世の中、もしうまく行っていないとしたら、どこかに絶望と諦観が潜んでいるのではないか。

とにかく、私はこの歌を非常に気に入っている。KANは没後にサブスク解禁がなされたので、このブログをご覧になった読者の皆さんもぜひ聞いていただければと思う。

 

【楽曲情報】

作詞:KAN

作曲:KAN