ルワンダにいた時に全く失っていた趣味、それがサイクリング。

丘が多い地形なことに加え、信頼できる自転車屋等がなく、そもそもサイクリングが庶民の趣味として定着していない。道路のコンディションや交通ルールの順守も、他のアフリカの国と比較すると良いと思われるが、日本の整った道路、ルールを大切にする人々と比べれば雲泥の差である。

 

そんなわけで2年間この趣味を封印してきた。

封印したものが封印を解かれた時の勢いといえば半端ない。9月の上京と同時にクロスバイクを買うと、週末時間があるたびに、いや無理やり時間を作ってでもサイクリングに出かけた。はじめは城南島海浜公園と呼ばれる家から20分の距離にある公園まで行くのでも少々疲れていたが、徐々に距離延長を試み、川崎、横浜、磯子あたりまで足を伸ばした。その度に軽い筋肉痛にはなったが、体が自転車で走ることをだんだんと思い出しているのがわかった。

 

そして、やっと機が熟した11月10日。目的地を熱海として1泊2日のサイクリング旅行に出発することを決断した。

基本的にサイクリング旅行に出るためには、その土日に予定がないこと、また、天気と体調が良いことが条件となるが、幸運なことに今週はそれらが全て合致した。目的地を熱海としたのは、せっかくだから宿泊先で温泉を楽しみたいという思いが強かったからだ。最近はいろいろと忙しくて疲れることも多いため、お湯に浸かって体も心も癒そうと考えた。

 

しかし、予想外の事態により、痛恨の出遅れとなった。

前日金曜日は、とある先生のご厚意により、ある大学でルワンダや外務省についての講演をさせてもらったのだが、その後の懇親会+カラオケの中でおそらくこの半年で一番と言っても良いほど酔っぱらってしまい、しかも家に帰ったのが1時過ぎ、寝たのは2時過ぎだった。もちろん会自体は多いに楽しませてもらったのだが、ついつい翌日のことを甘く見てしまった。

 

起きたのは9時、そこから酔いを醒ましつつ体を必死に起動させた。しかし、少し頭が痛く、カラオケではしゃぎ過ぎたせいか脚も若干だるい感じがする。これは本当に行けるのか??というほどの状態だったが、大盛りカップラーメンと五目風ご飯を完食するという起死回生の荒治療により、何とか出発できるだけの体制は整った。どれだけ体調が悪くても食欲だけは健在だ。

 

出発は11時20分。

この時点で予定よりも2時間以上の遅れ。しかもはじめのうちは陽射しを正面から受けてなかなか快調に飛ばすことができなかった。出発してすぐに国道15号線に入ったのだが、ここでちょうど前を2人組のおっさんたちが走っていた。一人はやたらと背が高くもう一人は小さいというでこぼこコンビだ。サイクリングというのは、一人で走ると気楽だが、ペース作りなどなかなか疲れることもあるので、他の人を追走する方が楽だと感じることも多い。まだ序盤だし、ペースも作りにくい状況だったので、とりあえずこのおっさんたちを追いかけることにした。

 

追いかける側の視点から考えたことはあるが、果たして追いかけられる側はどんな気持ちなのだろう・・・

いくら50くらい?のおっさんとはいえ、見ず知らずの他人に追いかけられるのはそんなに心地よい気がしないのではないか。いや、でも通常は前だけを見て走っているので、それほど気にはしないだろうか。。。 たかがおっさんを追走するだけなのにいろいろと考えが浮かんでは消えていった。乗っている自転車は明らかにおっさんたちのものの方が格上だ。僕のものはハンドルが真っ直ぐなタイプのクロスバイクだが、おっさんたちのものは競輪の自転車のように先端が曲がっているロードバイクだ。何とかついていけているのは、こちらの方が年齢が若いからであろう。相手がおっさんではなく、20代の若者だったが、とっくに突き放されているかもしれない。ただ、都心というのは割と信号が短い感覚で連続しているので、直線で離されても、離され過ぎなければ信号で追いつくことが可能になるのだ。

 

おっさんたちはひょっとすると僕のことを突き放したかったのかもしれない。しかし、せめて横浜まではこれ以上ないペースメーカーにあやかりたいと思い、頑張ってついていった。

道路が若干入り組んだ横浜の入口でこのおっさんたちと別れ(一方的に)、鎌倉方面に向かう県道21号線に乗った。距離でいけば国道1号線の方がロスが少ないが、サイクリング専用のNavitime for cicyingによると県道21→県道304→国道134と流れるルートの方が坂道が少なくて走りやすいのだ。たしかに、3年前にサイクリングした時はこのようなアプリもなく最短距離を選んだところ、坂に次ぐ坂で半狂乱になりながら進んだような覚えがあった。

 

このあたりからは若干雲も出始め、陽射しが和らぐとともに体にもエンジンがかかりだし、ハードワークが苦ではなくなった。

途中の上大岡は横浜から離れているもののかなりの都会で、交差点は大勢の人であふれていた。そこからさらに南下し、港南台、本郷台を通り過ぎる。しかし、問題はここの次だった。サイクリングのアプリも、人の混雑度までは予想することが不可能のようで、おそらくサイクラーが通常避けるであろう大船駅前に突っ込んでしまった。おまけに駅前では工事をやっているようでものすごいデカいトラックがちょうど通っていたために待機を余儀なくされたり、あまりにも人が多過ぎて10分ほど自転車を引いて歩くのを余儀なくされたりと散々だった。帰りはここを迂回しようと心に決めた。にしても大船はまだかなり海から遠いのに、「大船」とあたかも海に近そうな名前で誤解を抱かせる地名だと思い余計にイライラが溜まった。

 

何とかここを通り過ぎ、海は間近!と思ったら西鎌倉あたりに急坂があり自転車を引くことに・・・上をすいすいとモノレールが通り過ぎていく。もう一息!と声をかけてここを抜けると目の前に江の島の雄大な姿が広がった。いかに道中が辛くても、疲れていても一瞬にしてそれらのマイナスをプラスに変えてくれるのが、途中の景色、特に海である!目の前には陽射しを受けて光り輝く海、そして江の島!!湘南の風に吹かれると70年、80年代の湘南ブームに乗ったように心が踊った。ちょうど良い休憩ポイントだったので、海岸近くに自転車を停めて10分ほど小休止した。

 

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ここからは非常に走りやすい道が続いた。

海沿いは比較的平坦だし、何より海を見ながら開放的な気分で走れるのが良い。途中、サイクリングロードのようなものがあり、入ってみるとそこはすぐ左手に海岸線を見ながら走ることができる自転車、ランナーのための道だった。表面が若干砂でザラザラしていてハンドルを取られやすいこととランナーが多くてぶつかりそうになること(割とヤバいが・・・笑)に目をつぶればかなり走りやすい道だった。そういえば、3年前の平塚ランの時もこの道を通ったものだと思い出す。今日は11月にしては大変暖かく、多くの人々がサーフィンに興じていた。面白いもので、サーフィンを横に付けて走ることができる自転車まで登場しており、まるでそれぞれの地の特性に応じて進化する動物の姿を見ているようだった。北海道に行けばスキーが付いた自転車なんてものもあるのかもしれない。

 

ただ、この時間になってくるともう一つの敵と戦わねばならない。それが空腹である。朝、出発前に大食いをしてはいたが、それもそろそろ燃え尽きつつあり、フォルクスや100円回転寿司、ラーメン屋などの前を通り過ぎるのがつらかった。しかしサイクリングの時は途中でしっかりとした食事はとらないことに決めているので、食欲をうまくなだめながらそれらの前を通り過ぎていった。サイクリングロードの終わりのほうで水がなくなったので買いつつ熱海の到着時間を予測してみると、19時近くなってしまうことがわかった。本来だと17時くらいに着いているはずだったが、やはり出遅れが影響している。

 

ここで、苦渋の決断をし、熱海ではなく、途中の小田原まで自転車で行きそこに自転車を停めて電車で熱海に向かうことにした。特に、小田原~熱海間は坂が多く、道も曲がりくねっているため、夜間の走行には適さない。サイクリングに限らず何事も、危ない橋を渡ったり、無理して取り返しのつかないことになるよりは妥協をした方が良く、程よく自分を赦すことも長続きの秘訣である。そうと決めたらそれほど焦る必要もなくなったので、割とのんびりと走り、何か所か景色の良いところで停まったりもした。大磯を過ぎたあたりからまた坂が多くなり、1日の疲れもあり脚も上がって来たのでチョコレートと栄養ドリンクでブーストし、最後のエネルギーを振り絞った。小田原が近づくころには車のテールランプも点灯しはじめ、夜が迫っていた。

 

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とうとう空腹の限界に達したので、小田原駅から約1.5キロの地点にある「くら寿司」に入った。回転すしといえば、いつもは7皿くらいしか食べないが、今日は異常に腹が減っていたので、平気で10皿いけてしまった。しかし、これだけ食べても会計が1080円というのは非常に安い。改めて日本の素晴らしさを知る。日本は道路も走りやすいし、安全だし、仲間も多いし、食べるところにも困らない。まさに自転車天国と言っても良い!

 

しかし、もう一つのトラブルが熱海に着いてから待っていた。熱海での楽しみは何と言っても温泉!なのだが、温泉旅館は高いし一人で停まっても惨めなので、駅チカにある激安ビジネスホテルに宿を取り、近くにある温泉旅館の日帰り入浴を利用することにした。事前にネットで検索しておき、あるホテルで入ることに決めており、実際そこに向かった。入浴料の2000円弱を支払っていざ温泉へ!ちょうど食事時とあり、風呂は非常に空いており広い内湯では泳げるほどだった。6階にあるその大浴場は情緒たっぷりで体をのびのびと伸ばして今日の疲れを癒した。しかし、温泉の最大の楽しみは何と言っても露天風呂である。極端な話内湯だけなら家の近くの銭湯でも足りるが、露天風呂はこうした高級な温泉旅館でしか味わえない。

 

さてと、そろそろ露天に行くか・・・

露天風呂は檜で出来ており、風情ある屋根まで付いている。そこを照らすオレンジ色の電球もまた雰囲気が良い。よいしょっと・・・

 

冷たっっっっ!!!!

 

なんと、ここの温泉、露天風呂がまさかの水風呂というオチ!!!

なのか???

今までいろいろな風呂に行ったが、露天風呂が水風呂というサプライズには未だかつて出くわしたことがない(通常のお湯と水風呂が両方存在するパターンはあるが)。しかし、内湯はけっこう熱く、横にはサウナまであるので、そこで思いっきり汗をかいていざ水風呂へ!という流れも若干乱暴な気がするがわからないでもない。とりあえず完全な水ではないようだが、ほぼ水というこの風呂で体を冷やした。うん、これもこれで悪くはないがちょっと違うぞ??という思いは渦巻いていた。まあ11月なら良いが、1月2月にこれは少々キツ過ぎる気がする。

 

風呂を出たところに電話があったので、フロントに「ここの露天風呂は水風呂なのですよね?」と聞いてみると全力で否定し、係の人が飛んできた。そして露天風呂を確認し、まず湯気が立っていないことを不審に思い、実際にたしかめるとかなり仰天していた。今までこういうことはなかったようで、必死に謝ってきた。浴室の中で、スーツを着た男性に裸の状態で謝罪されるという何とも奇妙な状況である。最終的な説明によると、最近源泉を工事したようで、そのことが原因で温度が不安定になっている可能性があるとのことだった。せっかく日帰り入浴に来てくれたのに申し訳ないということで、入浴料は返金されたので、結果的にタダで内湯に入ったことになる。それはそれで得だと考えられなくもないが、露天風呂を楽しみにしていたので、何とも不完全燃焼で終わったのである。

 

このように、出遅れから始まり、まさかの水風呂に入るというトラブル満載の熱海旅行であったが、無事故で行って帰ってこれたことに感謝したい。

 

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