今日はこれまでの雨季が一気に終わったかのような素晴らしい天気に恵まれた一日だった。

ルワンダでは当地を代表する大型の国際会議「Transform Africa Summit」が今日から3日間の日程で開催される。

 

朝、カーテンを開けると抜けるような青空が広がっているというのはやはりいい。これからだいたい9月の終わりまでは雨がほとんど降らない乾季がスタートし、ランニングもテニスもずっとしやすくなる。

 

5月を迎えると、ルワンダ生活もそろそろ折り返し地点に来ているのだと実感する。日本ほどは刺激のないルワンダ生活は、まるでものすごくHPの多いボスの体力を地道に削るような戦いに似ている。地味な攻撃が続く消耗戦だ。

休暇など長期的な展望を持ってこの巨大なHPを持つボスと戦うことも大事なのだが、それ以上に大事なのは、目の前の生活を楽しむことだ。ウガンダ旅行が終わってから体調はおそらくこちらに来てから一番というほどの低空飛行を続けたが、ゆっくりと底を打ち、確実に回復へと向かった。今週に入ってからは先週の反動もありかなり体調が良く、おそらく今日あたりがピークなように感じる。仕事をしていても体が重いとか疲れていると感じることがなかったし、食事も排便も睡眠も、全て三拍子そろって好調だ。

 

仕事もそれなりに順調に進んで時間は5時30分。昨日は夕方から雨が降り始めてしまったが、今日は朝からほとんど変わらない青空が広がっている。ここ最近はやっていなかったが、気付くとコーチに電話していた。別に朝から考えていたわけではない。少なくともランニングはしようと思っていたが、テニスをしようなんて考えていなかった。だいたい、金曜日ではない平日に最後テニスをしたのは、おそらく日本に一時帰国する前まで遡らなければならないだろう。それでも、この体調ならばイケる、と感じていた。そして、体がスポーツを求めていたのだ。

 

仕事を終え、家で一息つくとコートに向かった。サミットの開催に合わせてかなりの交通規制を敷いているので、家の前の道もかなり渋滞していた。ただ、カンパラやダルエスサラームで経験した渋滞に比べるとこんなものちょろいと思わせるくらいの渋滞には違いない。するするっと抜けてウムバノホテルへと直行する。サミットの客を狙ってから、デカデカと夕食のメニューが書かれた看板が立ててあったが、6時30分の時点で食事をしている客は誰もいない。

 

コートへと立った。

思えば久しぶりのシングルスだ。ひょっとすると1カ月ぶりなのかもしれない。今日は仕事に来ていったタンクトップだけでコートに立った。ラリーを初めて直後、コンディションがかなり良いと実感した。かなり激しいラリーを続けても疲れることがなく、息も上がらなかった。ここでふと、つい先ほどまで読んでいた「汚名の広場」というレーサーが主人公の小説のことを思い出した。極限に挑むスポーツでは、体は考えて動くのではなく、ほぼ本能的に勝手に動く。その感覚を自分も得られないものだろうか、と思った。どこまでも研ぎ澄まされたプレーがしたい、と思った。

 

試合開始。1ゲーム目こそはまだエンジンがかかり切らずに簡単なミスなどをしてしまったが、得意技のコーナーに沈めるボールを多用した。個々のスキルや技術はそれほど高いとは思わないが、自分のゲームセンスには自信があった。常に相手が嫌がる球を打つ。決して打ちやすい球など打ってはいけない。それはチャンスボールとなり、更に厳しい球としてこちらのコートに返って来るからだ。だが、激しい球で攻め続けるだけではいけない。時に相手から逃げていく回転の球を打つことで少なくともベストショットが返って来ることは避けられるというわけだ。ここまでで2-0。サーブは再び自分の元へと戻って来る。

 

サーブを打つ時もできれば少しずつ回転を変えた方が良い。速いサーブでも、3球ほど同じサーブを打つと相手はそれに慣れてしまう。同じ球を3球続けるくらいならば、いっそのことものすごく遅い球を混ぜるのも一つの作戦だろう。相手は突然のチャンスボールに戸惑いミスをするか、それとも罠だと感じてゆっくりとした球を返すしかできなくなる。相手がこちらのサーブを怖い、と思い始めたらチャンスだ。ここぞというサーブを打って前に出ればほぼ確実にコーナーにボレーを沈めることができる。やはりサーブアンドボレーは気持ちが良い。ラリーで負けるよりも、ボレーを決められた方が相手の喪失感は大きいはずだ。

そのまま得点を重ねる。コーチも何とか反撃の糸口を見つけようとしているが、今日ばかりは相手が悪い。ボールはいよいよコーナーに決まりだし、もはや彼に抵抗の手段はほとんど残っていない。今日はあらゆるショットが90%自分の思い通りのところに決まっている。

力も入り過ぎることなく、抜きすぎることもない。適度なバランスを保っているのがわかる。バックハンドもスライスと両手バックハンドを併用した結果、ミスが少なくなる。とりあえず差し込まれたら上に上げて時間を稼げばよい。

 

5-0。とりあえずここまで来た。

今までも5-0まで来たことはあったが、ここで勝ちを意識して必ず何ゲームか取られてしまうというパターンが非常に多かった。ただ、今日の自分は違う。もう、どんなプレーをしてもコーチからゲームを取られるという気がしなかった。今までここまでのメンタルを手に入れたことはない。やはりあの本を読んだおかげなのだろうか。

サーブを相手のバックハンドに沈めると、クロスに弱い球が返って来る。ここでは2つのコースが考えられる。そのままクロスに返すか、それともストレートに速い球をぶち込むか。

どちらかでは決していけない。相手が慣れてしまうからだ。1球目をストレートに打ち込む。思い切りよい感覚で打ち込めた場合、そのまま思い切って前に出る。相手はかろうじてボールを返すだけなので、ネットに詰めて逆に鋭いボレー。これをやらえたらどんなプレーヤーでも返すことはできない。一方、次はクロスに深い球を入れる。これを2球ほど続けると球が浅くなるのでネットに詰めてクロスに深いボレーをするのもよし、ネット際にドロップショットを落とすのもよし。

 

結果的に最後はコーチがミスをして6-0。

ルワンダ人とはいえ、コーチ相手に6-0だ。別に毎日トレーニングしていたわけではないが、良過ぎるくらいの体調と読書で鍛えたメンタル・トレーニングの結果手にした圧勝劇。「今日は何もできなかった。」そうコーチは言う。だいたい彼との戦績は7割くらいだが、ここまでの圧勝は初めてだ。

 

空を眺めると、いくつもの星が浮かんでいた。

ルワンダ生活も悪くない、と久しぶりに思った。