次の日の草原はいきなり今回の旅行の最大の見所が来たといってもいい。


フフホトの町から車で走ること2時間。町の中はいかにも中国という感じで目覚しい発展の勢いを感じさせる。





町のはずれには至るところに建設途中の高層ビルが見られる。


それも10階20階の高層ではなく、ゆうに30階は越えるものがほとんどである。


あるところには10棟以上の高層マンションが今まさに建てられているところであった。


しかし、これらのビルを見て発見がある。


それは、日本で感じられるような人の生活のにおいがあまり漂ってこないところにある。



日本のマンションだとまばらに明かりが灯ってそれも色とりどりである。


また、格ベランダには洗濯物が干してあったり、観葉植物がおいてあったりといかにも人が住んでいるんだという暖かさが感じられる。 


中国の高層マンションにはそれがまるでないのだ。


まるでゴーストタウン。300以上ある部屋の中に4,5しか明かりが灯っておらずあとは真っ暗というビルが大半なのだ。


なにか恐ろしさ、不気味さを感じさせる。







そのような雰囲気を持った町のはずれを抜けるといきなり山岳地帯に突入する。


道は蛇行し、車の数も減ってくる。


ここにきてトラックが目立つようになる。中国のトラックは日本のものと違って、動車と貨車が別々になっている旧式のものがほとんどだ。


それは非常に運転しにくいらしく、いかにも歴戦の名手といった雰囲気のおじさんがやけにとろとろ走っていたりするので拍子抜けしてしまう。


私たちの車はそれを追い抜いていくわけだが、その追い抜き方がまた趣深い笑。


車は二車線になっていて、まあ、日本の常識で考えると誰も抜かしたりしない道を平気で抜かしていく。


しかも、車の内側を、対向車線にはみ出しながら抜かしていくのだ。


だいたいそのときの平均速度は100キロ。更に恐怖の調味料となっているのは、対向車も同じ動きをしてくるという点だ。



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ドライブ


しかもかなり頻繁に行うので、こちらが抜きにかかるのと相手が抜きにかかるタイミングが重なってしまうこともある。


その時はどうするかと言うと、非常に巧みに避ける。


抜かそうとしてはみ出したはいいが、対向車が突っ込んできたのでやっぱり急いで戻る、もしくはそこで待機。


私たちの運転手に限って言えば、この動きを上り勾配の場所、また山道のカーブでやろうとするので恐ろしい。


上りの場合、対向車が来ているか確認できないので、その無防備な状態で対向車が突っ込んできたらもう終わり(the end)である。  しかも人生が。



だから、おちおち寝てられないので(とは言っても30分ほど寝たが)個の動きを観察しつつ、お祈りをしているわけである。






しかし、幸いなことに私たちの車は一度も対向車にぶつからずに草原のキャンプにたどり着いた。


そこで、改めて草原の広大さにおっとりする。



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見渡す限り何もなく、ただただ草原が続いている。  しかも360度。


地球はこんなに広かったのだと実感させられる。


たぶんこうして見渡す範囲は自分の東京での生活範囲よりのずっと広いだろう。


うーん、だいたいあのへんが早稲田大学で、ちょと手前が上井草で、その後ろが歌舞伎町で・・・なんてやってみてもせいぜい草原の5分の1くらいしか埋めることはできない。


同じ面積でもこれほどまで人の密集度が違うとは。


爽快だ。そこで私は思い込むことにする。


「俺はノーマッド、遊牧の民だ。せめて今日一日はこの大地と一体になって生きよう」と。


しかし、そんな思いもキャンプ地に到着するやいなや中国人たちのノイズによって薄らいでしまう。



そう、何もここで一晩を過ごすのは私たちだけではなく、大量の中国人も一緒なのだ。


まず、着いたら歓迎の儀式と称して白酒をイッキ飲みする。これがなかなかきつくて食道が熱くなる。




今日泊まるパオは豪華版ではなく、通常版である。



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パオ(ゲルといったほうが日本人は理解しやすいか)


しかし、豪華のほうが空いていなくて正解だったと今思う。それはより遊牧の民の生活に近づくことができるからだ。


作りは質素であるが、パオの材質、作りは伝統的な昔のパオそのもので、妙な落ち着きとやすらぎを与えてくれるのだ。


そう、このパオは昔から遊牧民にとってやすらぎの場所だったに違いない。


果てしなく広い草原を駆け抜け、また迷ってやっと帰った後に待っていてくれる家なのだ。


しかも、ほどよい広さに保たれた居住区は外から見るよりも広いので不思議だ。


昼食後ちょっと横になるととてもいい「草原の風」が入り口から入ってきて目を閉じると心地よい夢の世界へと誘われた。





そんなひと時の夢から目覚めると次は乗馬である。



今回はなぜかフフホトの町から馬で行くと勘違いしていたが、実際80キロほどあるのでチンギス=ハンのように馬の扱いに慣れた人でないと1日に移動できる距離ではない。


私が選んだ黒い馬は初めのほうこそ興奮を隠し切れず公道に飛び出したりして暴れていたが、私が首あたりに触ってやると次第に落ち着きを取り戻した。




途中、広くなると「ハイッ」という掛け声が後ろからかかり、馬は勢い良く走り出した。


他の馬がタッタッタッタと小走りする中、私の黒い馬「ブラックサンダース」は競馬の馬が走るようにパカラッパカラッと勢い良く走り出した。馬に乗って草原をひた走る。



何とすばらしい瞬間であろうか。


右を見ても左を見ても、前を見ても草原。眼下には浅い谷があり、その谷の描く曲線が馬の走る鼓動にあわせて揺れている。


鼻をつくのは草原が発する得々の草の匂い。


はるか遠くの水平線近くにはキャンプ場となっているパオの一群が白い点となって存在している。



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乗馬


こんな自由で夢のような世界が現実にあるのだろうか。


いや、現実に存在していることは確かだ。しかし、この旅行自体が現実ではないと思っても過言ではない。フフホトはまた来る価値があるなと思った。




フフホトでの夕食はこれがなかなかうまかった。


基本的に中華料理が中心のようだ。


というのもやはり中国人がよく来る観光地だからであろう。


昼ごはんに出てきた酸っぱいそばのようなものは日本では考えられない味付けで食欲を誘った。


ほかにも野菜や肉を使った料理が多かった。


量も多かったため、満腹になるには十分だった。




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草原の夕食はなかなか豪華、特に羊のステーキがおいしかった。



そして、いよいよ夜になりパオに泊まるときが来た。


草原の日暮れはとてもゆっくりとしていてあたりがだんだんと霞んでいく感じである。果てしなく広い大地がだんだんと消えていく様子は神秘的であった。


あたりも涼しくなってきて人々の滞在しているパオにも明かりが灯りだす。


中国人が団欒している様子はそれなりに絵になっていた。


なんだかとても懐かしい気分にさせてくれる。



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シェルボーイとパオ


しかし、9時から始まったキャンプファイヤーはあまりいただけないものだった。


花火はよかった。とても近くから打ち上げ花火が何百発もうちあげられた。


ふだん花火は遠くから眺めているものだが、打ち上げ台までの距離はなんと10Mも離れていない。


だからとてもリアルだ。



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頭上で炸裂する花火



打ち上げ台から花火が押し出せれていくときにシュッと火を噴く様子はロケット弾を発射しているかのようだ。


花火自体も頭上で炸裂するために垂れた炎の跡がそのまま落ちてくるのではないかと思わせるほどである。


同時にステージで行われたショーみたいなものはあまり楽しくはなかった。


というのも、まず座るイスがなかったし、中国語での歌だったので全く意味がわからなかったからだ。


どれだけいい歌でも外国語で聴くと味気ないものになってしまうのだなあと思った。


これがやはりこうした文化的活動は自分の母語に限る。


そこで楽しくなくなったので一人パオにもどって眠ることにした。


といっても外は花火の音や歌でとても騒がしい状態だ。


寝られるか不安だったが、一度耳栓をして目を瞑っていると草原が眠りの世界へと誘ってくれた。


その夜、2時30くらいに起きてみて外に星を見に行ったが少し曇っていたようであまりよく見えなかった。


それでもウォークマンを片手に「オリオンをなぞる」を聞きながら夜空を見ていると幸せな気分になれた。





フフホトは北京から飛行機で1時間。


3日間の休みがあれば日本から来ることが可能である。



将来絶対もう一回くるだろうなあと思いつつ、次の日にキャンプを去った。




次回は「フフホト、西安 市内観光」 です!!